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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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初代キャプテン・マーベルを読もう!①

ヒーローにとって、「強さ」とはなんでしょうか? 肉体的な力なのか、特殊なパワーの差異なのか。ヒーローコミックを読んできた方々は恐らくどれも違うと答えるでしょう。「スーパー」な性質がいくら秀でていても、その土台である「マン」がしっかりしていなければ決して強いとは言えないのです。今回は、数多くのヒーローがその「強さ」に敬意を払う初代キャプテン・マーベルの初登場となるMARVEL SUPER HEROES#12、キャロル・ダンバースが初登場した#13を紹介したいと思います。1人のクリー人が持つ栄光の魂はどのように現キャプテン・マーベルへ受け継がれたのか。今シリーズでは2人の違いにも着目したいと思います。
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MARVEL SUPER HEROES#12

 

〈あらすじ〉

クリーセントリー、ロナン・ジ・アキューサーがFFに敗れた。それらの復讐を命ぜられた1隻の宇宙船は地球に降下しつつある。地球人偵察任務のため上陸したマー=ベル大尉は、上官ヨン=ログ大佐の個人的な憎悪から妨害工作に苦しめられる。未だ地球に慣れないマー=ベル大尉は任務を達成できるのか? 

 

〈クリーの侵攻〉

MCUでも登場した宇宙帝国、クリー。銀河三大列強の1つであり、同じく列強のスクラルとは長きに渡る戦争状態にありました。両国は戦略上重要拠点になりうる地球の征服を企んでおり、既に数々の刺客が送り込まれていました。しかし両帝国よりはるかに科学力の劣る地球が、これらを全て退けています。その報復を主目的としたヨン=ログ大佐の部隊が地球に降下する所から物語はスタートしました。その1人であるマー=ベル大尉(CAPTAIN MAR=VEL)は、「そもそも何故核兵器すらロクに扱えない地球人がロナン・ジ・アキューサーをも倒したのか?」という疑問を探るために地球人偵察任務を行います。初代キャプテン・マーベルが地球へやってきたのは、その侵略が目的だったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20210903162909j:image地球に上陸するマー=ベル大尉。クリー帝国軍では一兵卒でしかないが、重力がクリーの10分の1しかない地球では無類の強さを誇る。

しかしマー=ベルには重大な問題がありました。地球の大気はクリー人の体に合わず、またヨン=ログ大佐からもらった空気カプセルで空気量が不足しているため、マスク無しでは1時間しか活動できないのです。実はマー=ベルはヨン=ログの許嫁であるウナ補充兵と恋人関係にあり、個人的憎悪を向けられていました。そのためヨン=ログは今後も任務の妨害工作を度々行っており、これに苦しめられる展開が続くのです。

 

〈狂気のヨン=ログ〉

潜伏先のホテルを確保したマー=ベル。まずは自分の装備を整えることから始めます。マスク無しでは1時間しか活動できないとはいえ、クリーの軍服でウロウロする訳にもいかないでしょう。クリー軍の標準装備であるユニバーサルビームブラスターを手首に装着できるように改造し、ベルトに小型のジェットパックを追加しました。こうしてマー=ベル1度母船へ帰還することにします。しかしこれを知ったヨン=ログは怒りの怒りは頂点に達します。なんと事故を装い、宇宙船のブラスターでマー=ベルを殺そうとしたのです。これにはマー=ベルも驚き咄嗟に対応出来ません。加えてこちらに向かってくる飛行機があるではないですか。母船は高度なステルス機能を使用しているため、地球上のレーダーでは決して感知されることはありません。またヨン=ログもそれを気にする様子を見せませんでした。動揺するマー=ベルの目の前で、飛行機はブラスターに撃ち落とされるのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20210903222127j:image木っ端微塵に吹き飛ぶ飛行機。この偶然がマーベル史を大きく塗り替える。

爆煙に身を隠し何とかヨン=ログから逃げ切ったマー=ベルは、パイロットの身元を調べ始めます。残された名刺にはウォルター・ローソンという名前が記されていました。またNASAで働く科学者であることも突き止めると、マー=ベルはローソンの人生を引き継ぐことを決意。ウォルター・ローソンとして地球上で生活しようとします。またヨン=ログの狂行を目の当たりにしたウナ補充兵は、独断でマー=ベルに新たな空気カプセルを届けていました。これでマー=ベルが最も心配していた1時間という制限時間は無くなったのです。

 

〈クリーセントリー459号機〉

ウォルター・ローソンとしてNASAへ向かうマー=ベル。ローソンはある極秘の研究に従事していました。空軍も全面協力していると思われるその研究に、マー=ベルは驚かされます。それはかつて地球へ送り込まれたスーパーロボット、クリーセントリー459号機だったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20210903224258j:image横たわるクリーセントリー459号機。警備主任を務めるのは最年少にして勇敢なキャロル・ダンバース。

ところでマー=ベルは手首にカメラ付きGPSのような装置を組み込まれており、どこで何をしているのか常に帝国に監視されています。当然クリーセントリーの研究もマー=ベルと同様にヨン=ログへ伝わってしまいました。いくつかの故障も既に修復済みです。ヨン=ログはこれ幸いとばかりにクリーセントリーの起動スイッチを押します。NASAの施設を破壊し研究データを喪失、あわよくばマー=ベルを殺すこともできるでしょう。マー=ベルはどう立ち向かうのか? 絶体絶命のピンチで物語は幕を閉じます。
f:id:ELEKINGPIT:20210903225239j:imageクリーセントリーに立ち塞がるマー=ベル。目の前では想定していた最悪の事態が起こっている。

 

〈マー=ベルの「強さ」〉

CAPTAIN MARVEL DOWNでは「強さ」とは何かについて触れさせて頂きました。今回も同様、強さが潜在的なテーマになっていると私は感じました。しかし両者が刊行されたのは2013年と1967年。半世紀近い隔たりがあります。そこで1度、1967年歴史的背景に立ち返って「当時求められた強さ」を推測し、マー=ベルを比較していこうと思います。

1967年といえば、まず思い浮かぶのはベトナム戦争でしょう。ベトナム反戦運動が学生の間で全国的に広まりっていた時期でもあります。恐らく国民の半数近くは既に米軍の敗北を予感していたでしょう。また1965年には公民権法が制定され、法のもとに人種差別へNOが突きつけられました。ウーマンリブ運動と呼ばれる、第二波フェミニズムもこの時期に当たります。要は「これまでのアメリカ」に変化が求められ始めた時代である、と言えるのではないでしょうか? そして当時求められたであろう理想像は、その変化を受容できる人々だったのかも知れません。

キャプテンマーベル誕生から数年前のマーベルヒーロー達は、その変化を受け入れてきた人々でもあるでしょう。例えばスパイダーマンは、偶然放射能を浴びた蜘蛛に噛まれたことで超パワーを得ました。アイアンマンは共産ゲリラに捕まり、ファンタスティック・フォーは奇怪な宇宙線を浴びて特異な能力を手に入れます。共通点を挙げるなら、「既存の生活から受動的に変化した」ことでしょう。

ではキャプテン・マーベルはどうでしょうか。私は先に述べたこの共通点に例に漏れず合致していると考えています。クリーという故郷を離れ、地球で孤独に生活を始めるマー=ベル。これらは全て厳格なクリー軍の命令で行われていることです。「既存の生活から受動的に変化した」と言えるのではないでしょうか。

しかしこれはあくまで前提。社の名前を背負ったキャプテンマーベルならばもう1つ踏み込んだ強さが追求されたはずです。メインヴィランであるヨン=ログと対比させると面白いでしょう。ヨン=ログはマー=ベルを自分の領域(宇宙船)から追い出し、近づくことさえ拒否します。外の世界との交流の一切を絶とうとしているのです。要は、他者を無差別に受け入れられるかどうかの違いなのです。ヨン=ログは許嫁を横恋慕された怒りでマー=ベルを拒絶します。マー=ベルも地球人への復讐のために地球へやって来ていますが、他者の受容への拒否感はありません。またヨン=ログは地球への上陸も拒んでいます。つまり現在の生活から変わろうとはしなかったのです。

随分と長くなってしまいました。短い言葉でまとめてしまうなら、「変化を恐れないこと」「他人と分け隔てなく接すること」が当時の理想像(=強さ)ではないでしょうか。これを踏まえるとヨン=ログと比べればマー=ベルは強いことが分かります。しかしマー=ベルにも足りないことがあると思いました。それは「下等生物」地球人と平等に接することでしょう。ウォルター・ローソンの死を利用したり地球人を見下すような発言があったりと、地球人への差別的な感情が未だあるのです。マー=ベルがキャプテン・マーベルになるにはこれらをなくす必要があると私は考えます。