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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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AVENGERS ENEMY WITHIN【2021年9月の私的ベストアメコミ】

2012年から始まりMARVEL NOW! シリーズを牽引したCAPTAIN MARVELシリーズもクライマックスへ。本シリーズで問われ続けていた「キャプテンマーベルの強さ」にも1つの答えが示されます。前回、脳内にある腫瘍で飛行にドクターストップのかかったキャロル。腫瘍を切除しても記憶が失われる危険もあり、自身の弱さを曝け出す結果となってしまいました。そんなキャロルが掴み取った強さにも注目しながら見ていきましょう。
f:id:ELEKINGPIT:20210914190414j:imageAVENGERS ENEMY WITHIN

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〈あらすじ〉

憧れのキャプテンマーベルを継いだキャロルは、ここ数日頭痛に悩まされていた。医師の診察を受けると脳内に大きな腫瘍が。原因不明の腫瘍を切除するまで飛行をドクターストップされてしまう。しかしニューヨークでは恐竜の出現が頻発、隣人のローズ失踪事件まで発生し、キャロルに休む暇を与えなかった。

 

〈頭痛の種〉

隣人のローズはいつも公園のベンチに腰掛け、陽気な口調で道行く人々に話しかけているちょっとした有名人でした。最近アメリカに越してきたらしく、キャロルも英語のレッスンに付き合ったことがあります。そんなローズが失踪してから数日。町中に行方不明のポスターを貼るも一向に連絡がありません。
f:id:ELEKINGPIT:20210915100541j:image行方不明になったローズ。友人のスパイダーウーマンが心配するほどキャロルは落ち込んでしまう。

 

ヴィラン軍団パウンドケーキが襲いかかったのはそんな時でした。スパイダーウーマンと共に戦いますが、どうやらパウンドケーキはローズの居場所を知っている様子。倒した末に問い詰めると「セントラルパークの中心部」と皮肉ったような笑みを浮かべて答えます。飛べない体で急行すると、そこにはニューヨークで最近頻出する恐竜が暴れていました。既に出動していたソーと共闘しますが、何と恐竜の口の中に気絶したローズがいるではありませんか。
f:id:ELEKINGPIT:20210915120612j:image椅子の上でぐったりとするローズ。その空間はまるで無機質な部屋のよう。

 

更にローズの懐にはメモが残されていました。そこにはキャロルの住所が書かれています。ローズが知らないはずの住所を。隣には親子も住むアパートです。最悪の事態も容易に想像できるでしょう。嫌な予感のするキャロルは自分の家へ向かいます。急いでアパートの住人達を避難させて自分の家へ突入するキャロル。部屋は荒らされた様子も、怪しい人影もありません。家具の配置も動いておらず猫のチューイも健在……変わったことといえば、キッチンに置かれたメッセージカードと、頭痛が始まってからキャロルの倒したヴィラン達の人形です。そこにあった封筒から、先の事件で手に入れたサイケマグニトロン(精神具現化装置)の欠片が無くなっていることに気づきます。キャロルはここで始めて自身が巨大な陰謀に巻き込まれたことを知りました。
f:id:ELEKINGPIT:20210915124708j:image異変を知らせるメッセージカードと消えたサイケマグニトロン。この陰謀がどれほど巨大でもアベンジャーの務めを果たすと誓った。

 

〈サイケマグニトロンとは?〉

そもそもサイケマグニトロンとは何なのかと疑問に思った方も多いでしょう。クリーの発明品であり、かつて初代キャプテンマーベルの宿敵だったヨンログが使用したものとして知られています。簡単に言えば、使用者の精神を具現化する装置です。初代キャプテンマーベルとヨン=ログの戦いに巻き込まれたかつてのキャロルは、このサイケマグニトロンが爆発した事で「強くなりたい」という願いが具現化、初代キャプテンマーベルの細胞と融合してスーパーパワーを得るに至ったのです。一部の破片でもその僅かながらパワーを発揮するため、危険視したキャロルが自宅で保管していました。つまり、それが盗難されたということはサイケマグニトロンの効果や使用方法を知っている人物が関わっているということになります。そしてバナー博士の調査の結果、敵の正体が垣間見えてきました。
f:id:ELEKINGPIT:20210915142258j:image一連の事件から導き出された推理。この事件にクリー人の誰かが関わっていることは間違いない。

 

〈クリーの亡霊〉

同刻、アメリカの各地ではクリーセントリーが起動を始めました。しかも、どうやらそれらは1つの目的地へ向かってきる様子。アベンジャーズが直ぐに対処するも、猛烈なパワーと勢いで進行を阻止するのは難しいようです。推理どころではなくなったキャロルも戦列へ参加しますが、やはり苦戦を強いられてしまいます。一方クリー人が陰謀を企てていると知ったSWORD(地球外生命体監視対応局)もクリーセントリー討伐に参加しました。その協力もあってか数体のクリーセントリーを倒すことに成功したアベンジャーズ。そしてキャロルは、クリーセントリーの目的地に気が付きます。
f:id:ELEKINGPIT:20210915200128j:imageクリーセントリーの出現地と進行方向を照らし合わせて浮かび上がったのは、キャプテンマーベルを示す星の紋章。同時に恐るべき敵の正体も判明する。

 

〈落ちてきた空〉

クリーセントリーを動かす信号と目標地点から敵の正体をヨン=ログだと確信したキャロル。サイケマグニトロンの爆発で死亡したと思われていましたが、そんなことに構っている暇はありません。急いで目標地点=ニューヨークへ向かいます。途中でキャプテンアメリカと合流して辿り着いた途端、突如空が赤く染まり始めました。同時、キャロルの頭痛がこれまでにないほど酷くなります。やがて立つ力すら奪われ、やがて倒れ伏してしまいました。赤い空からは暗雲に包まれた逆さの町が見えます。不気味な雰囲気を醸し出すそれは、ゆっくりと、しかし確実に地面へ落ちてきているではありませんか。
f:id:ELEKINGPIT:20210915204758j:imageニューヨークを覆い隠すほど巨大な町。まるで空が落ちてくるよう。

 

このままでは800万人の市民が一人残らず死んでしまう。キャプテンアメリカはキャロルの限界を覚り休むよう忠告しますが、この状況で休めるキャプテンマーベルではありません。クリーセントリーに対処していたアベンジャーズもニューヨークへ集まり始めますが、とても間に合わないでしょう。ヨン=ログを倒すのは自分しかいない。キャプテンマーベルは不屈の闘志で立ち上がります。
f:id:ELEKINGPIT:20210915205503j:image「まさか。アイツは私が倒さなきゃいけないんだ、スティーブ。這ってでもやってやる!」残り僅かな力でも決して正義を諦めない。驚異的な精神力で奮い立つ。

 

〈驚異のヒーロー〉

落ちてくる町から巨大なエネルギーを感知したSWORDは、すぐさまキャップとキャロルに伝えます。その中心に居たのは、怯える市民と強大なパワーを持つヨン=ログでした。サイケマグニトロンの爆発に巻き込まれて本来は死亡したはずの存在。しかし、キャロル同様むしろパワーアップしていたのです。更にサイケマグニトロンの破片を収集しており、その大部分を手中に収めていました。それらを見に纏い自らを「マグニトロン」と名乗ります。精神具現化の力を文字通り我が物としたのです。弱ったキャロルを倒すのにそう時間はかかりませんでした。
f:id:ELEKINGPIT:20210915210857j:imageヨン=ログに捕まったキャロル。最早目を開く力すらない。

 

ヨン=ログは残った最後の一欠片も既に場所を特定済みだと豪語します。それこそがキャロルの頭痛の正体でした。サイケマグニトロンの爆発に巻き込まれた時、破片の一部がキャロルの脳内に埋め込まれていたのです。ヨン=ログはサイケマグニトロンの力でその破片とリンクし、恐竜や空の町を作り出していたのでした。空の町、クリーシティをニューヨークへ落とすために。

勝利を確信したヨン=ログは悠々と語ります。自分を裏切った初代キャプテンマーベルへの憎しみを。そしてそれは、クリーの細胞を取り込みながら帝国へ忠誠を誓わなかったキャロルにも向けられていました。ニューヨークへクリーシティを落として初代の守りたかったものを全て壊し、最愛だったキャロルを一生依代として行使する。これこそがヨン=ログの全てを賭けた復讐だったのです。キャロルの怒りは爆発します。サイケマグニトロンが自分と繋がっているなら、それを止められる方法は1つ。ヨン=ログにとって「最悪の事態」を想像すればいいのです。
f:id:ELEKINGPIT:20210915213413j:image1人のエゴで800万人の人々を死なすわけにはいかない。相手が「リベンジ」を企むなら「アベンジ」を!

 

アベンジャーズの制止を振り切り、宇宙まで超高速で飛行します。もし脳の腫瘍が無くなれば? 診断した医師はかつてこう言いました。「手術が失敗すれば最悪死亡する。成功しても記憶は失われるだろう」しかし800万人の人々を救うのは自分しかいない。落ちてくる町の消滅と眩い光を見つめるアベンジャーズは、キャロルへ最大限の賛辞と称賛の言葉を送ります。
f:id:ELEKINGPIT:20210915214400j:image800万人の命が救われた瞬間。誰もが真のヒーローと認めるだろう。

 

〈自分こそキャプテンマーベルだ!〉

数日後、ニューヨークはいつもの様に日常が始まっていました。市民は口々にキャプテンマーベルの功績を称賛、町一面がキャプテンマーベル色に染められます。しかしそれを快く思わない人物も。仕事が全く上手くいかない苛立ちを募らせるグレイシーは、自分の取材対象を無下にされ「ヒーローを取材しろ」という言葉に激怒、その憎しみはキャプテンマーベルへ向けられてしまいます。やがてドローン兵器を強奪し、タイムズスクエアで行われるキャプテンマーベルの記者会見で攻撃してしまいます。
f:id:ELEKINGPIT:20210915220923j:image憎しみのあまり狂気の笑みを浮かべるグレイシー。その怒りからキャプテンマーベルを倒すと宣言するが……。

 

ミサイルはキャプテンマーベルの星の紋章を目印に追尾するため、絶対に避けられないとグレイシーは豪語します。すると記者会見に集まった人々は自分達の持つ星の紋章を空へ掲げます。それがどれだけ危険な行為かは承知のはず。しかしその表情に恐怖の色は見えません。
f:id:ELEKINGPIT:20210915221741j:image「私がキャプテンマーベルだ!」自分たちを守ってくれたヒーローを守るため、今度は自分たちがヒーローになる番。

 

動揺するグレイシーの隙をついて瞬く間にドローン兵器を倒すキャプテンマーベルへ、人々は大きな歓声を上げます。自分たちが命を投げ打ったのはまさにこの瞬間のため。キャプテンマーベルを全面的に信頼しているからこそ出来たことなのです。
f:id:ELEKINGPIT:20210915222402j:imageやがて希望は新たな世代へ。新たな驚異のヒーローが芽吹こうとしている。

 

〈キャプテンマーベルの「強さ」〉

この作品で、Kelly Sue DeConnick氏はキャプテンマーベルの強さというこのシリーズのテーマに、1つの答えを示しました。言うまでもなくお分かりの方も多いのではないでしょうか。キャプテンマーベルとは、人々の最大の賛辞であり敬意の表れである称号だという話は以前紹介させていただきました。今回はそれがキットという1人の子供を通して伝えられ続けます。やがてそれはアベンジャーズへ、ニューヨーカーへ広がります。Kelly Sue DeConnick氏はキャプテンマーベルを希望の象徴へ昇華させたのです。また氏が意図したかは不明ですが、キャプテンマーベルを称えるその姿はCAPTAIN MARVEL VOL1(初代キャプテンマーベルシリーズ)の第1話を彷彿とさせます。決して正義を諦めない、それこそが人々へ希望を見出す原動力になった。初代のそれと構図は類似しているのです。何故「キャプテンマーベル」は栄光の称号の称号であり続けたのか? かつてキャロル自身が夢描いた理想のキャプテンマーベルは、こうして誕生したのです。ならばその理由も言うまでもないでしょう。