アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN/THOR GOD COMPLEX

神話と科学。まるで相反する2つの概念ですが、剣と魔法、ミサイルと科学が共存するマーベルユニバースではもちろんそれらを司るヒーローもいます。ソーとアイアンマンはその代表でしょう。BIG3として幾度となく世界の危機に立ち向かった2人。しかし意外にも2人のチームアップというのは目にする機会が少ないかもしれません。今回紹介するIRON MAN/THOR GOD COMPLEXは正にそんな方達のために刊行されたであろうミニシリーズです。時系列としては、ヒーロー復権の時代が訪れたヒロイックエイジ。日本語版ではシージとフィアーイットセルフの間にあたります。
f:id:ELEKINGPIT:20210917154506j:imageIRON MAN/THOR GOD COMPLEX

 

日本語版関連コミック

シージ

フィアーイットセルフ

 

〈あらすじ〉

ダークアベンジャーズとの戦いでで崩壊した黄金宮アスガルド。その再建を進めるソーにトニーが協力を申し出、新アスガルドの建設が進んでいた。しかし順調かに思われたその時、アスガルド最深部で封印されたはずのデストロイヤーアーマーが発見され、事態は大きく動き始める。

 

〈神の都〉

崩壊した神都アスガルドを眺め顔をくもらせるソー。気にする必要はない、と励ますトニーの声にも曖昧に答えるばかりです。やがてトニーはトラブルが発生したという連絡を受けてロシアへ向かいます。ソーは作業に戻りますが、スターク社の社員からある物を発見したという連絡が。アスガルドの最奥部へ向かうと、そこには封印された神殺しの鎧、デストロイヤーアーマーが横たわっていました。すぐに対処しようとしますが、突如トロールのウリクが出現。同刻、ロシアを訪れたトニーをクリムゾン・ダイナモが襲撃します。
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f:id:ELEKINGPIT:20210918010138j:image襲いかかるウリク(画像上)とクリムゾン・ダイナモ(画像下)。今まで以上に強化されており、雷神と鉄人の力をも上回っている。

 

更にソーの元へ錬金術師のディアボロが現れ、形成は一気に逆転。大自然の下僕であるはずの雷がソーへ直撃、雷神が地に伏してしまいます。一方トニーもクリムゾン・ダイナモに苦戦を強いられます。ダイナモを強化したのはテクノロジーか、それとも超自然的なパワーなのか……未知のエネルギーに覆われた装甲に、やがてトニーも敗北するのでした。気を失っていたトニーが目覚めたのは見たこともないような空間。不可思議なエネルギーに覆われており、ここがどこなのか見当もつきません。戸惑っていると、背後から強い衝撃が走ります。首の後ろに付けられた装置がパワードスーツの機能を無効化したのです。
f:id:ELEKINGPIT:20210918133834j:imageアーマーを無効化されるトニー。その背後には進化の統率者が。

 

〈新世界の神〉

現れたのはハイエボリューショナリー。生命の進化を研究するマッドサイエンティストで、自身に実験を施し続けた結果人間を超越した存在です。未知の空間へウリク、ディアボロ、強奪したデストロイヤーアーマーがやってくると、ハイエボリューショナリーはトニーへある交渉を持ちかけます。そもそも現在いる神はソーやハーキュリーズのように、人間が化学という術を持たなかった頃に信仰されてきた神。この大空も天変地異も全て神によって創造されたものだと考えられてきました。しかし技術の発展した21世紀、あらゆる事象に論理的な説明がなされるようになりました。人が猿から進化したのと同様に、文明化もまた人類の進化だとハイエボリューショナリーは考えます。ならば同時に「神」も進化するべきでは? 科学を主とする21世紀の神が必要なのでは? そこで自身の技術だけで神と匹敵する力を得たトニーに目をつけたのです。100年先の技術を有するパワードスーツは重要な要素であり、それを作りだしたトニーこそ神の器に相応しいのだと。
f:id:ELEKINGPIT:20210918213059j:image新たなる神の器となるよう勧誘するハイエボリューショナリー。科学を主とするトニー・スタークこそ新たなる神の器となりうるのだ。

 

一方ソーは盗まれたデストロイヤーアーマーとディアボロの手がかりを探すため、とある博物館を訪れていました。ディアボロがソーの雷を操る時に使った、ヘルメス文書(ヘルメス・トリスメギストスが古代に著した書物。魔術や錬金術に関する作品も多い)が鍵になると踏んだのです。博物館に展示されていたのは、正にディアボロが9~11世紀頃書いたとされる写本でした。ディアボロはおよそ千年前に悪魔王メフィストと取引しており、友人の命と引き換えに不死の魂を得ていたのです。ディアボロの魔術と錬金術が込められた写本はとある異世界へのゲートになっていました。トニーが連れ去られた未知の空間です。
f:id:ELEKINGPIT:20210918215054j:imageディアボロが写したとされるヘルメス文書。ページの向こうにはハイエボリューショナリー達が。

 

驚いたハイエボリューショナリーはクリムゾン・ダイナモに迎撃させ、トニーの返事を待ちます。しかしソーの強襲を知ったトニーは密かにアーマー無効化装置を上書きし、ウリクたちの背後から攻撃するのです。強力な能力を持つハイエボリューショナリーですが、神化するための精密機器を守るために戦線から離脱してしまいます。一方不意を突かれたウリクとディアボロは劣勢に立たされていました。クリムゾン・ダイナモもソーに敵う実力はなく、アイアンマンとソーが戦いの主導権を握り始めます。
f:id:ELEKINGPIT:20210918235136j:image背後から敵を奇襲するトニー。最高の戦術家と最強の神が逆転への光明を掴む。

 

〈神と悪魔〉

絶体絶命と思われたその時、ディアボロが咄嗟にヘルメス文書の呪文を使います。どうやら相手に幻惑を使う魔法のようで、トニーとソーを仲違いするように仕向けたのです。結果目論見通りに事は進みます。口論の末戦い始めた2人をハイエボリューショナリーが捕えたのです。そしてデストロイヤーアーマーを用意、神なるエネルギーの抽出作業に取りかかります。しかし直前でディアボロがその作業を妨害、ハイエボリューショナリーの装置を使って新世界の神というパワーを得たのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20210919003000j:image神殺しの鎧を纏い神となったディアボロ。その悪魔のごとき力は人間を超越したハイエボリューショナリーすら恐れる。

ハイエボリューショナリーは自身の計画が崩壊したこと、計算上ではディアボロに勝つ手段がないことにガックリを膝を着きます。一方ソーとトニーは諦める気などありません。もはや自分たちの次元をも凌駕する存在に臆することなく戦いを挑みます。最初に違和感を覚えたのはハイエボリューショナリーでした。今のディアボロは古き日の神々の進化種であり、ありとあらゆる攻撃が効かないはず。では今ディアボロが苦しんでいるのは? ディアボロは確かに神になりました。しかしその精神は未だ人間の域を超えていなかったのです。人間であれば炎を恐れ、雷を恐れます。ディアボロも同様にそれらを恐れたのでした。痛くも痒くもないはずなのに。それを聞いたトニーは巨大な雷を直撃させ、ショックで気絶させようと提案するします。トニーのアーマーで神の雷を増幅させようというのです。確かに成功すればディアボロから神の力を引き剥がすことも出来るでしょう。1歩間違えばトニーが死ぬであろうあまりにも危険すぎる賭け。ソーも当初は反対しますが、やがてはその可能性に光明を見いだすのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20210919004956j:imageソーの雷を強化して放つトニー。悪魔へ鉄槌を下ろすため、命懸けの攻撃を行った。

 

〈現代の神話〉

トニーは神を信じません。運命も、サンタクロースも。では何故ソーは神をも信じないトニーを英雄と評し、共に戦い続けるのでしょうか? 私は物理法則という科学の「力」に対する考え方だからではないかと考えています。

科学者は等しく既存の自然法則を扱います。何故0が1になったのか? どうすれば0を1に出来るのか? その疑問を解消して再現したのがテクノロジーと言えるでしょう。どれだけ超自然的な力を使っても、それらは自然に則った模倣に過ぎないのです。しかし神々は違います。無から新たな法則を生み出し、0を1にも10にもできる力があるのです。ソーは何も無いところからいきなり嵐を呼び出し、雷を従者の如く扱います。それらはどの物理法則に当てはめてもありえないことでしょう。それが出来るのが神々です。

自然を操り、自然を従える神々。自然に従い、自然を模倣する人々。ならば人々は模倣する力に敬意を表するべきでしょう。トニーはどれだけ傲慢になっても、決して自然をバカにすることはありません。一方自然に力のみを求めたハイエボリューショナリーやディアボロがどうなったかは言うまでもないでしょう。逆にソーが1度トニーに怒った時は、神々の威厳やパワーを利用しようとしていたのでした。自然へ敬意を払い、尊ぶ者にこそ神は力を貸す。人が神に近い力を得た現代、このように人と神が共に立つことこそが新たなる神話なのではないでしょうか。