アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN vs WHIPLASH

スーパーヒーローものにとって欠かせない要素の1つに、スーパーヴィランの存在があるでしょう。ヒーローの仕事は悪人を殴ることではなく人を助けること、というのはよく言われることですが、それでもヴィランとの激しいバトルを心待ちにしている自分もいます。今回紹介するIRON MAN vs WHIPLASHはタイトル通りウィップラッシュとの対決を描いたミニシリーズです。映画IRON MAN2公開に合わせて刊行されたためか映画の設定によっている部分が正史世界(アース616)の設定とは矛盾している部分もあります。しかし細かい点を気にせず読めるのがミニシリーズの醍醐味でしょう。
f:id:ELEKINGPIT:20210930123242j:imageIRON MAN vs WHIPLASH

 

〈あらすじ〉

ロシアの寒村、ヴォルストクに突如轟音が鳴り響いた。村の科学者アントン・ヴァンコが様子を確かめると、なんと村のあちこちから爆炎が上がっているではないか。燃え盛る家々、目の前で焼け死ぬ父。ヴァンコは全てを奪った「あの敵」へ正義の復讐を誓う。空を舞う鋼鉄のアベンジャー、アイアンマンへ。

 

〈血塗られたアベンジャー〉

衝撃の展開で始まった今作。ヴァンコが目撃したのは上空からブラストを放つアイアンマンそのものです。結果村は地図から消え、代わりにアイアンマンの暴挙が世界中へ伝わります。「平和に対する罪」と「人道に対する罪」で起訴され、国連の裁判所へ連れ去られたトニー。特に「平和に対する罪」は実際に第二次世界大戦後の東京裁判などで審議されたものであり、当時世界中の人々がいかに恐れ激怒したか伝わってきます。またこの非道なる行いを人工衛星が捉えており、アーマー内を生体認証したところ間違いなくトニーが中に入っているという結論に至っていました。他にも様々な証拠全てがトニーを犯人だと示しているのです。しかしトニーは無実を訴えます。当時自分は本社の機密ラボで作業していたというのです。今回の件に全く身に覚えはなく、そもそもヴォルストクという村も知らなかったと主張します。トニーは自分の思う最高の弁護士を、ペッパーらスターク社は新たな証拠を探しますが、陪審員の心象を変えるには至りませんでした。判決は有罪。控訴審が始まるまでトニーの身柄は留置場へ移送されることになります。
f:id:ELEKINGPIT:20210930162316j:image手錠をかけられ移送されるトニー。世界中がアベンジャーの収監を目の当たりにする。

 

一方、裁判の中継を憎々しげに眺めていた人物がいました。アントン・ヴァンコです。自分の故郷を奪い、父や友を奪い、自分の人生を奪ったトニー・スタークが即刻死刑にならないなどありえない。増して控訴とは許せる道理があろうか。ヴァンコは陪審員と死刑執行人を自らが代わりに行うことを誓います。優秀な科学者であったヴァンコはアイアンマンのアーマーを可能な限り解析し、独自の技術でアレンジを施しました。こうして誕生したのがウィップラッシュ。血塗られた鉄仮面へ正義の復讐(アベンジ)を行う戦士です。
f:id:ELEKINGPIT:20210930165124j:image誕生したヴァンコ版ウィップラッシュ。強力な電撃ムチはアイアンアーマーをも剥ぎ取る。

 

ウィップラッシュを完成させたヴァンコはすぐさま行動を開始します。トニーの収監された留置場を突き止め、その場で死刑を執行するのです。ペッパーとの面会中に襲撃されたトニーはウィップラッシュがスタークテックを使用したものだとすぐさま見抜きます。もしやこの襲撃犯がヴォルストク村を破壊した犯人では? その正体がなんであれ、この場をどうにかしなければ殺されてしまうのは確実。トニーは収監中に作り上げた最終兵器を取り出します。留置場からかき集めたガラクタを使って完成させたパワードスーツです。本来は脱獄用に作ったものなので対人兵器は搭載していませんが、ペッパーを連れて逃げ出すには十分なパワーがありました。
f:id:ELEKINGPIT:20210930170808j:image屋上のヘリを使って脱出するトニーとペッパー。思わず安堵のため息が盛れていた。

 

〈アイアンマンを追って〉

ウィップラッシュに襲われたトニーはある疑問が浮かびます。最初はスタークテックを使っていることからヴォルストク村の襲撃犯と考えていましたが、人殺し! と喚き散らすその姿からむしろ被害者であることは容易に想像出来ました。では真犯人は? ヴォルストク村襲撃犯は生体認証でトニー・スタークと断定されましたが、それが何故なのかも分かりません。トニーは全ての鍵を握るパワードスーツを解析するため機密ラボへ向かいます。しかし今は脱獄犯の身。誰にもバレないよう潜入せざるを得ませんでした。ペッパーに機密ラボの監視カメラをハッキングさせ、念の為過去に侵入した形跡がないか確認するよう頼みます。すると本来トニーがいないはずの日付に侵入者の形跡があるではありませんか。ここはトニーの遺伝子情報か特殊なセキュリティカードがなければ入れないはず。トニーは犯人を特定するため侵入者の顔をズームします。するとそこに映っていたのは、いるはずのないトニーその人でした。
f:id:ELEKINGPIT:20210930210059j:imageいるはずのない時間、いるはずのない場所へ現れた「トニー・スターク」。この闖入者がトニーしか扱えないはずのアーマーを使っていた。

 

驚かされたのはヴァンコも同じでした。トニーが脱獄した際GPSと盗聴器を仕込んでこれらの会話を把握していましたが、ヴァンコはこの事件に黒幕がいることなど考えもしていなかったのです。盗聴した会話からトニーがアーマーを解析して日本へ向かったことを知り、ヴァンコも真相を確かめるべく日本を目指します。到着したトニーと追いついたヴァンコ。一触即発の雰囲気が漂った瞬間、2人のいる近くから爆音が鳴り響きます。敵の攻撃です。現れた敵は、朽ち果てたゾンビのような「トニー・スターク」達でした。
f:id:ELEKINGPIT:20211001081115j:image現れたのは生気を失ったようなトニー・スターク軍団。パワードスーツの模造品を纏いウィップラッシュ達を攻撃する。

 

朽ち果てたトニー軍団は自ら考えることなく命令された通りに動くのみ。最強のバトルスーツで攻撃はしますが、ウィップラッシュにもアイアンマンにも敵う相手ではありません。黒幕の予想に反してトニー軍団が倒されるまでそう時間はかかりませんでした。ヘリで脱出しようとしていた黒幕をアイアンマンは逃さず捕らえます。観念した黒幕は遂に正体を白状し始めました。その名はコンソーシアム。世界にバランスをもたらすために組織された秘密結社です。中でもトニーの持つ傑出した技術力は最もバランスからかけ離れた存在と見なしており、度々その技術を狙っていたことが語られます。パワードスーツは生体認証システムが導入されており、その解錠は困難。朽ち果てたトニー軍団、つまり大量のトニークローンを作り出したのはそのためです。収集できた遺伝子情報は極僅かですが、それでも生体認証を突破するには充分な量でした。ではヴォルストク村を襲った理由は? ヴァンコが怒りの眼差しで睨み付けます。ヴォルストク村にはヴァンコの父、イゴール・ヴァンコという活動家が住んでいました。優秀な科学者で政治活動家イゴールは現政権の批判を繰り返して名を広めていたのです。コンソーシアムは言いました。ヴォルストク村の壊滅を依頼したのは、現ロシア政府大統領の……
f:id:ELEKINGPIT:20211001160837j:image明かされた秘密結社コンソーシアム。世界中の国家と繋がりを持つ。

 

〈2人の「アベンジャー」〉

今作では何度も「アベンジ(avenge)」という単語が使われてきました。正当な復讐、仇討ちといった意味です。アベンジャーズの名もこの言葉に由来しており、マーベルユニバースでは正義の行いという意味が込められていると考えていいでしょう。しかし今回この言葉を使い続けたのはヴァンコ。トニーは一切使っていません。復讐者を指すアベンジャーとヒーローを指すアベンジャー。一体何がこの差を生んだのでしょうか?

同じく優秀な科学者であり、同じスタークテックを元にバトルスーツを作り上げたトニーとヴァンコ。しかし2人の行いには大きな差がありました。それを端的に表しているのが、ウィップラッシュが留置場を襲撃するシーンでしょう。トニーがパワードスーツを着る直前、抵抗する看守を排除しようとした場面が見られました。トニーは咄嗟に針路をクルリと変えて看守を守ろうとしたのです。ヴァンコにとってもトニーにとっても見知らぬ人間のはず。

そして黒幕を追う目的もまるで違いました。トニーは自身の無実の罪を証明する意図もありましたが、これ以上ヴォルストク村のような惨劇を繰り返さないためでした。一方ヴァンコは個人的な憎悪のため。知らない誰かを救うのか、自分の心だけを救うのか。その違いが2人のアベンジャーを復讐者とヒーローに分けたのでしょう。