アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

MENU

BLACK WIDOW DEADLY ORIGIN

7月に映画も公開され、ますます注目されているブラック・ウィドウ。今やゲームでも必ずといっていいほど見かける人気キャラクターの1人でしょう。今回紹介するBLACK WIDOW DEADLY ORIGINは、ウィドウがMCUで初登場した2010年に発売されたミニシリーズです。純粋なヒーローものとは少しテイストが違いますが、ナターシャの過去と現在を照らし合わせた緊迫感溢れるストーリーは目が離せません。
f:id:ELEKINGPIT:20211006150851j:imageBLACK WIDOW DEADLY ORIGIN

 

〈あらすじ〉

ナターシャが親であり友と慕う元ソ連軍人、イヴァンが何者かに殺された。最後に遺した「アイスピック・プロトコル」という言葉の意味とは? 全ての謎がとき明かされた時、ナターシャは過去と決別しなければならなかった。

 

〈心を抉られるよう〉

今作最大の特徴は、やはり過去と現在の物語が交互に繰り返されるということでしょう。2人のアーティストがそれぞれを担当して違う時間のウィドウを表現しています。中でも過去編に何度も登場するのが、イヴァン・ペトロヴィッチです。ロシア革命以来ソ連将校として従事し続け、肉親を亡くしたナターシャを養子として育てました。共にアメリカへ渡った後も数年前まで保護者的存在として支え続けて、人生を大半を一緒に過ごした存在です。そんなイヴァンが殺されたと知っては居ても立ってもいられないでしょう。そして殺される直前に伝えられた「アイスピック・プロトコル」という言葉にはどんな意味が? その現場は血溜まりと首なし死体、壁に書き殴られたロシア語が残されていました。
f:id:ELEKINGPIT:20211006161732j:image「裏切り者へアイスピック・プロトコルを。君の愛する人達が死ぬだろう」不気味なメッセージと悲惨な遺体。これを実行した者へ復讐を誓う。

 

かつてのソ連関係者にあたりを付けたウィドウは、ロシア雪原にある秘密の軍事施設へ潜入します。途中ダイナモシリーズの後継機、フェデラル・ダイナモに発見されますが、かつてはアイアンマンをも倒したウィドウの敵ではありません。司令部に到着するまでそう時間はかかりませんでした。施設の関係者に「アイスピック・プロトコル」を尋ねても心当たりはない様子。そこでデジタルデータをハッキングしてみると、驚くべき事実が記されていました。ブラック・ウィドウにはナナイトと呼ばれるバイオナノマシンが埋め込まれていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20211006181000j:image体中に埋め込まれていたナナイト。アイスピック・プロトコルはこれに反応して作動するようだ。

 

アンチ・ナナイトを完成させたウィドウは早速アイスピック・プロトコル発動を阻止するために動き始めます。ウィドウを経由してナナイトを体に埋め込まれたものは、更に別の人物とキスなどの接触で広げてしまうのです。そしてナナイトが作動すると、精神を汚染され近くにいる人物を殺そうと暴走、やがて自身も死に至る最悪のナノボットでした。これを阻止するためにモッキンバードデアデビルらを訪ねます。しかし未だ黒幕の正体も居場所も分かりません。ところがハーキュリーズの漏らした一言で、ウィドウはある場所へアタリをつけました。宇宙です。早速フューリーの協力を得てロケットで大気圏外へ。すると目論見通り宇宙に浮かぶ戦艦が見えました。しかもその甲板にいたのは、変わり果てたイヴァンその人です。
f:id:ELEKINGPIT:20211006202828j:imageウィドウの乗るロケットを撃ち落とすよう指示するイヴァン。その姿にウィドウも絶句する。

 

孤児だったナターシャを育て、レッドルームへ送り、また上官として常に寄り添い続けたイヴァン。何故ナターシャと道を違えてしまったのでしょうか? 当初は育ての親として実の子どものように愛情を注いでいました。そしてレッドルーム卒業後は上官であり友という立場で常に見守り続けていました。しかし同時にある感情が芽生えていきます。イヴァンはナターシャへ好意を抱くようになっていたのです。しかも日に日にその思いは強くなるばかり。遂には想いを伝えますが、当然拒否。ナターシャにとってはあくまで父であり友であり、それ以上の関係など頭にもありませんでした。しかし長年想い続けていたイヴァンは暴走、無理やりキスをしてしまいました。これが決定的となって2人は絶縁状態となったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20211006215523j:image「まるでアイスピックのように私の心を抉ってくる」。過去の呟きがプロトコルの由来だった。

 

そう、アイスピック・プロトコルは全てイヴァンが計画していたものだったのです。自身の肉体から脳を抽出して鋼鉄の体に埋め込み、宇宙の戦艦からプロトコルを発動していました。更に戦艦は世界を焼き付くせるほどのミサイルや核爆弾を搭載しています。これ以上イヴァンの好きにさせるわけにはいかない。正攻法では圧倒的な戦闘力差がある相手ですが、ウィドウは臆することなく挑みます。もはや暴れ回るだけのモンスターと化したイヴァンに、ウィドウは勝利を確信します。戦艦の自爆シークエンスを作動させ、最後に親愛のキスで別れを告げました。
f:id:ELEKINGPIT:20211006221314j:image尊愛と軽蔑を込めてキスをするウィドウ。爆炎を背に過去と決別する。

 

〈ブラック・ウィドウとは何者なのか?〉

育ての親を殺された怒りからウィドウが復讐を誓うことで幕開けした今作。以前紹介した通り、アベンジには復讐という意味含まれています。しかしスパイダーマンが決してグリーンゴブリンを殺さないように、ヒーローには不殺という不文律があります。その点を考えればイヴァンを殺したウィドウはヒーローとは言えないでしょう。それは本人も自覚しているところ。ではブラック・ウィドウとは何者なのでしょうか? それこそが今作のキモでないかと私は思いました。

ナターシャの過去を通して見ると、自分の属する場が次々と変わっていることがわかります。母なるロシア、レッドルーム、ソ連、チャンピオンズ、アベンジャーズ。またナターシャは恋多き人としても知られています。初代レッドガーディアンのアレクセイから始まり、ホークアイデアデビルハーキュリーズ、ウィンターソルジャー。それらは何を意味しているのか? 属する先が次々と変わり、自分が何者か見失っているのではないでしょうか。ヒーローでありながら、ヒーローには決してできない影の仕事も請け負うスパイ。言葉を選ばずに言ってしまえば、ヒーローとして曖昧な立場に立ってしまっているでしょう。しかしダークヒーロー、アンチヒーローかと言われればそれも違うでしょう。それらにしてはナターシャは優しすぎるからです。

凄惨な過去を送ったナターシャは、できる限り誰も傷つかせないように行動してきました。ソ連のスパイ時代から続く自身の行動理念です。シビルウォーで超人登録法賛成派に回った理由も同様でした。オリジナル・シンではフューリーが「今の彼女はお前(キャップ)に似ている」と述べるほど。ナターシャは闇側の人間とは言えないのです。

ではナターシャは、ブラック・ウィドウとは何者なのでしょうか? ヒーローでもダークヒーローでもない。今作で示されたのは、「アベンジャー」ということでしょう。復讐を誓って始まった今作ですが、その目的はアイスピック・プロトコルを阻止することに変わっていきました。しかし最後にはイヴァンを殺し、復讐を果たしています。ヒーロー的な行いと復讐者の務めを同時に行っていたのです。ダークヒーローとヒーローの間を綱渡りし続けているブラック・ウィドウ。既存の枠にハマれない、「アベンジャー」という孤独な立場なのです。