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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN vol4 IRON METROPOLITAN

Kieron Gillen氏によるIRON MANシリーズもクライマックスへ差し掛かってきました。トニーすら予想していなかった自身の出生の秘密が明かされた前回。より明るい未来を創造すると誓い合ったアルノとトニーはどこへ向かうのでしょうか? 激変するマーベルユニバースを舞台に戦う2人に目が離せません。
f:id:ELEKINGPIT:20211017113729j:imageIRON MAN IRON METROPOLITAN

 

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〈あらすじ〉

より良い未来を目指すため、二人三脚で世界の先へ行くことにしたアルノとトニー。かつて451が恐れていた宇宙の危機から地球を守るため、2人はある計画を立てていた。スターク社が提供する未来都市、トロイの建設である。

 

〈未来都市トロイ〉

451の遺体を分析していたトニーとアルノは、そのデータバンクを発見しました。驚くべきはそこに記録された数々のテクノロジー。2人が生きている間では到底辿り着くことも出来ないような技術達でした。観測用アンドロイドとして造られた451は、宇宙各地の出来事を逐次記録していたのです。そして何故451が宇宙に危機が迫ると恐れたのか? その疑問も言外の感覚で理解します。確かにこれほどあちこちで大戦争が頻発すればそう思わざるを得ないでしょう。先のビルダーズやサノスとの戦いでも、特にトニーはそれを実感したはず。ならば2人がやるべき事は? 451の遺志を引き継ぎ、恐るべき事態に備えることでしょう。少なくともトニーはそう考えていました。
f:id:ELEKINGPIT:20211018114143j:image451の亡骸を解析するトニー。そこに詰まったデータを使い、全員を守ることが使命と考える。

 

ところがアルノはこれに猛反対します。451を信用してはならないと何度も声を荒らげるのです。451が行ったのは、平和を守るために平和に暮らす種族を滅ぼした、いわば大虐殺とも取れることでしょう。それはヒーローの行うべきことではないという話は以前させていただきました。結局2人は451の技術に頼らない防衛システムを構築することで合意します。2人が計画したのは、トロイと呼ばれる防衛都市でした。町1つを丸ごと防衛システムとして使用し、あらゆる外敵から地球を守ろうとしたのです。トニーはかつてマンダリンシティと呼ばれた町を再開発することにします。そこはマンダリンが支配していた巨大な町でしたが、マンダリンが死亡して以来誰も管理したがらずに廃墟化していました。
f:id:ELEKINGPIT:20211018115514j:imageマンダリンシティを偵察するトニー。廃墟にはその日暮らしのゲリラ兵が潜む危険な町だ。

 

工事は順調に進みました。防衛都市トロイの機関部にアーマーのサポートAIを移植するなど、システム面も計画通りです。トロイ完成披露会までそう時間はかかりませんでした。世界が見放した町を大都市へ再開発させたトニー。世界中から注目を集める記者会見で事件は起きます。トニーがマイクを手に取った瞬間、背後に突如轟音が鳴り響きました。振り返ると、そこにあったのは拳。地面が拳の形に隆起して建物を打ち砕いたのです。そしてその拳には見覚えのある指輪が。かつてマンダリンが使用していた10の指輪の1つです。
f:id:ELEKINGPIT:20211018160610j:image一瞬で全てを打ち砕いた巨大な拳。それが意味するものとは?

 

呆気に取られる間、更なる襲撃者が現れます。全身を揺らめく熱いエネルギーで覆われた襲撃者。トニーはその顔に見覚えがありましたが、ともかくここはできる限り人々を守らねばなりません。アルノがすぐにトロイの防衛システムを作動させ、トニーもそれに追従します。念のために装着していた迷彩スーツを起動、敵と対峙します。どうやらこの敵もマンダリンの指輪をつけている様子。それもさっきの拳のそれとはまた違うものです。ところが敵はあっという間にワープしてしまいました。衛生をジャックしてトニーを脅迫するようなメッセージを送るためです。このメッセージを受け、トニーも敵の正体を解析しました。名はアビゲイル・バーンズ。トニーへ痛烈な批判を浴びせることで知られるイギリスのコラムニストです。「トニー・スタークから世界を守る」というメッセージも、そういった意図があるのでしょう。そしてもう1つ、トニーはローディの元を訪ねます。マンダリンの死後指輪を保管していた米軍に、指輪が盗まれたのか確認するためです。ローディは自信満々に10の指輪を見せます。しかしそこにあったのは、指輪が作り出した虚像。幻でした。
f:id:ELEKINGPIT:20211018165654j:image米軍をも欺いた指輪の幻。本物の指輪は今の世界のどこかで。

トニーは急いでアルノと共に、指輪の感知システムを作り始めます。そもそもマンダリンの指輪はマクルアン人と呼ばれる宇宙種族の技術。技術ならば、世界最高の技術者2人の頭脳をもって看破できないはずがないのです。突貫工事で作ったシステム故に固有のエネルギー波が巨大にならないと感知できないという欠点はありますが、とりあえずはこれを使用し続けることに。一方アビゲイルはほかの指輪を持つ者へ出向いていました。そこに居たのは、マンダリンの死後マンダリンシティの権利を主張したリメイカー卿、インヒューマン(特殊な遺伝子を持つ亜人種。テリジェンと呼ばれる物質を吸うことで能力を発揮する)でありながら多くのインヒューマンを殺したエグザイルです。2人ともマンダリンの指輪の所持者です。またリメイカー卿は巨岩の拳でトロイを襲った張本人。アビゲイルは共にアイアンマンを打ち倒そうと提案します。ところが話を聞けば聞くほどリメイカー卿が危険人物だということが分かってきました。マンダリンの死後実質マンダリンシティを支配下に置いていたリメイカー卿。トロイの襲撃はスターク社から自分の都市を奪ったからだと主張していました。しかしそのためには元マンダリンシティの住民が死んでも構わないという極めて自己中心的な考え方です。トニーを痛烈に批判しているとはいえアビゲイルはあくまで自分の信念に基づいて行動しています。この卑怯者とは手を組めない。決裂した交渉はすぐさま戦闘へと移行しました。
f:id:ELEKINGPIT:20211019002630j:image戦闘態勢に入るアビゲイル(画像左)とリメイカー卿(画像中央のスーツ)。「マンダリン」を受け継ぐ者同士で戦いが始まる。

 

トロイの機関部は警告音が鳴り響いていました。指輪のエネルギー波を検知したのです。トニーは急いで検知された場所へ向かいます。そこにはリメイカー卿が雇ったゲリラ兵、エグザイルと戦うアビゲイルの姿が。事態を完璧には把握出来ていませんが、ともかく今はアビゲイルは味方の様子。トロイの防衛システムを起動させ、リメイカー卿の部下と対峙します。ブラックライトを操るエグザイルに苦戦し、またトロイのビルをリメイカー卿に爆破されますが、なんとアルノが参戦したことで状況は一変。リメイカー卿達の敗北は必至となりました。敵を蹴散らしながら敗走するリメイカー卿を追うアビゲイル。廃墟のビルへとついに追い詰めましたが、なんとそこにはさっきまで走っていたはずのリメイカー卿の遺体が。混乱するアビゲイルでしたが。突然飛んできた刃に両手を切り落とされてしまいました。戦いは終結へと向かいましたが、アビゲイルを救出したトニーに大きな疑問が残ります。他の指輪はどこに? そしてアビゲイル達の指輪を奪った敵の正体は? 全ての謎が明かされるには、次回を待たねばならないようです。
f:id:ELEKINGPIT:20211019011507j:imageアビゲイルが見つけたのは首と指輪をしていた手を失ったリメイカー卿。何者かが指輪を奪ったに違いない。

 

〈トロイの意味とは?〉

トニーとアルノが再開発した未来都市トロイ。廃墟群を最先端都市に発展させた手腕は驚くべきものですが、その名前に引っかかった方も多いでしょう。何故トニー達は都市の名前をトロイと名付けたのでしょうか? 今回はその意味を考えていきたいと思います。

トロイという言葉でまっさきに思い浮かぶのは、やはりトロイの木馬やトロイ戦争でしょう。ギリシャ神話の出来事として描かれるトロイ戦争は、ギリシャ側とトロイ側で人間や神々がそれぞれ2派に別れて行われた大戦争です。ホメロス叙事詩イーリアス」はこの戦争が始まってから10年経とうとしている頃から物語が始まります。長い年月の間膠着状態に陥っていたギリシャとトロイ。ある時ギリシャ側の将はこんな提案をします。巨大な木馬に大量の伏兵を潜ませ、トロイ内部まで運ばせたあと伏兵達が一斉に襲撃する計画です。トロイ側はギリシャ側の陣地に誰もいないことに気付き、敗走したに違いないと大騒ぎ。残された木馬も勝利の祝いに都市の内部まで運び込まれました。人々が勝利の宴を開きどんちゃん騒ぎをしている正にその瞬間、ギリシャの策が発動します。木馬に潜んでいた伏兵が一気にトロイを襲撃したのです。大混乱に陥ったトロイはなんとそのまま一夜にして陥落してしまいました。これが有名な伝説、トロイの木馬です。

この伝説に由来して巧妙な罠を「トロイの木馬」と呼ぶようになりました(余談ですが機動戦士ガンダムでシャア達がホワイトベースを木馬と呼ぶのもこの伝説からだそうです)。トニー達が構築したトロイの防衛システムはまさにこの伝説通り。機関部からトロジャンガードと呼ばれる量産型パワードスーツが放たれ、制御AIが一斉に操作することで外敵を排除します。その光景は伝説の一場面を彷彿とさせます。なるほどこれが元で防衛都市はトロイと名付けられたのでしょう。

とはいえまだ納得出来ない部分も残ります。神話のトロイはトロイ戦争で敗北した側、壊滅させられた側です。防衛都市の名前を付ける時に、篭城戦で敗北した町の名を選ぶなど考えられるでしょうか? もちろん仮に勝利した都市の名前にあやかって命名するとしても、それは単なる験担ぎに過ぎません。神を信じないトニーならその辺りにこだわらなかったとも考えられますが、他にも理由があったのではと疑問に感じるのは1ファンとしての思いです。この当時、現在進行形で迫っている宇宙の危機といえばインカージョンでしょう。簡単に言えば並行世界同士の地球が衝突しあい、それがきっかけで両宇宙が消滅してしまう現象です。トニーは極秘裏にそれを知り、あらゆる手を尽くして対策しようといました。しかし当時のトニーは既にインカージョンから地球を守る手立てはないという未来を予測していたことが後に明かされます。一方でトニーはそれでも1秒でも長く生き残れる方法を模索していました。防衛都市なぞ作ったところですぐに壊滅する。しかしもし……この危機を乗り越え、トロイが生き残ったならば? そんな諦念と伝説をも超えるような期待感を私は覚えました。