アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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TALES OF SUSPENSE#58

キャプテン・アメリカとアイアンマン。今や様々なメディアで見かける伝統的な名コンビという話は以前させていただきましたが、実はシビルウォーをはじめ何度も対決してきた過去があります。今回紹介するTALES OF SUSPENSE#58は、そんな2人の初対決。後にキャプテン・アメリカとアイアンマンを名コンビに押し上げたきっかけであり、2人を語る上で欠かせない名作です。現在でも色褪せない物語を見ていきましょう。
f:id:ELEKINGPIT:20211020164315j:imageTALES OF SUSPENSE#58

 

日本語版関連コミック

 

〈あらすじ〉

アーマーの水中テストを終えたトニー。会社の侵入者も撃退し、ようやく一息つこうとしていた。しかしその時、秘密のラボにレッドアラートが。なんと負傷したキャプテン・アメリカがやってきたというのだ。

 

〈無敵の鋼鉄〉

急展開で始まる物語。キャップがスターク社へ逃げ込んだとあっては秘書のペッパーやお抱え運転手のハッピーも大慌てです。当時正体を隠していたトニーはアイアンマンの姿でキャップを休ませることにします。話を聞いてみると、なんとスパイダーマンヴィランであり変装の達人カメレオンの策略にはめられたというのです。カメレオンに記憶をコピーされ、キャプテン・アメリカへ変装する準備は着々と進んでいるだろう。いや、既にキャプテン・アメリカとして活動しているかもしれない。命からがら逃げてきたものの、もはや偽物と戦う余裕のないキャップは助けを求めてスターク社を訪れたのだと訴えます。話を聞いたトニーは偽キャップを打ち破ることを決意するのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20211020210919j:image満身創痍でスターク社へやってきたキャップ。これは只事ではないだろう。

 

早速アベンジャーズマンションへ向かったトニーは、そこでキャプテン・アメリカを発見しました。キャップの言う通りならばあれはカメレオンが変装した偽物に違いない。戸惑う敵に容赦なく襲い掛かります。何を企んでるかは分からないが、キャップの名を騙りアベンジャーズを欺こうなど言語道断。怒りを滲ませるトニーに敵もようやく戦う姿勢を見せます。その戦闘スタイルはまるで本人そのもの。蹴りのフォーム、戦略、拳の威力もそっくりでした。記憶を奪ったのだからカメレオンがキャップと同じ技を使うのも不思議ではない。トニーはそう納得してさらに攻撃を仕掛けます。高い実力の者同士手加減が出来ないためか、戦いはどんどんヒートアップしていました。
f:id:ELEKINGPIT:20211020212932j:image激しい攻防を繰り広げる2人。互角以上の激闘を止める者はいない。

 

一方ペッパーとハッピーは、キャップを医者に見せた後もう1度様子をうかがおうとドアを開けます。ところが、なんとキャップはそこにいませんでした。まるで最初からそこには何も無かったかのような静けさ。異変があるとすれば、風に揺らめくカーテンと大きく口を開けた窓でしょう。しかし何故? キャップは動けないほどの怪我を負ったはず。急ぎの用があったとしても、わざわざ窓から脱出する意味もないはずです。この異常事態を知らせるため、ペッパーとハッピーはアイアンマンの後を追うことにします。その頃アイアンマンは戦いの場をとある工場に移していました。
f:id:ELEKINGPIT:20211020224933j:imageなおも戦い続けるアイアンマン。決着をつけることは出来るのか?

 

工場の設備を利用され追い詰められたアイアンマン。しかしその時、追いついたハッピーが戦いに巻き込まれてしまいます。これを助けたのが、先程まで目の前で戦っていたキャップ。もしカメレオンが変装した偽物なら助けるはずがないでしょう。もしかしたら……トニーの疑念に応えるように現れたのは、同じアベンジャーズのメンバーであるジャイアントマン(ハンク・ピム)とワスプ(ジャネット・ヴァン・ダイン)でした。その巨大な手にはなんともう1人のキャプテン・アメリカが。そう、トニーが戦っていたキャップは本物のキャプテン・アメリカだったのです。カメレオンが負傷したキャップを演じ、見事トニーを騙していたのです。その後跡を追ったカメレオンは工場の設備を利用して2人を殺そうと企んでいました。しかし異変に気づいたジャイアントマン達に捕まり、現在に至ります。
f:id:ELEKINGPIT:20211020232801j:image「なあ相棒、無事に終わってよかったよ! 恨みっこはなしだろ?」「もちろんさ、キャップ!」たった二言で和解する2人。これこそが信頼の証だろう。

 

〈ヒーローの半世紀〉

キャップとトニーの対決といえば、シビルウォーを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。超人登録法の是非を巡って争った2人は、最悪の形で戦いを終えることとなります。それはこのTALES OF SUSPENSE#58の発売からおよそ半世紀が経ったあとの話。コミックの世界ではそれほど時間は経過していないはずですが、シビルウォーとこの話では市民の反応もまた大きく変わっていました。

そもそも超人登録法はヒーローへの不信感がきっかけで成立されました。当時市民が向ける目は冷たいものだったのでしょう。一方今回は違いました。僅かですが2人の対決を見た市民の反応は、私にとって意外なものでした。2人が争っているところを見たという人に警官は「まさかあの2人が戦うはずないだろう?」と応えたのです。これは市民にとってのヒーロー像が大きく変化した事の証では無いでしょうか?

それを考えるにはまず、この世界の人々は何を持ってアベンジャーズ達をヒーローと認識していたのかを考える必要があります。ヒーローコミックの流行には戦争の影が見え隠れしていました。黎明期であるゴールデンエイジはWW2、X-Menアベンジャーズが誕生したシルバーエイジはベトナム戦争の最中です。それはアイアンマン誕生のきっかけになった舞台がベトナム戦争だったことからも分かること。当時のアメリカ国民には明確な敵が存在し、それを打ち破るものこそがヒーローだったのでしょう。とはいえ当時のヒーローはベトナム戦争に参戦したり、また赤狩りのようなことは決して行っていません。スタンリーが用意したヴィランの多くはある共通点がありました。侵略者です。地球を侵略するという明確な目標を持つヴィランはもちろん、会社を乗っ取ろうとする者、強い憎悪を抱く者。全て何かを奪おうとする存在であり、侵略者を強く想起させる存在でした。それが意識してなのか無意識でそうなったのかは分かりません。しかし明確な敵というヴィジョンがあったのは確かでしょう。一方現代のヴィランは地球侵略を掲げる方が珍しいと感じるほど。ヴィランの目標は多種多様になり、「侵略者」ばかりとは言えません。

かつては敵を倒せば市民が守れる、つまり敵を倒す存在こそヒーローでありました。ところが現在はヴィランの目的が多岐にわたり、倒しても市民に犠牲が出る可能性は高くなってしまいました。市民が敵を倒すことよりも自分たちを守ることに主眼を置くようになったとしても不思議ではありません。その違いを端的に表しているのが、キャップとトニーの戦いを見た市民の反応かもしれません。とはいえヴィランの変化だけでヒーロー像の変遷の全てを語ることは出来ないでしょう。物語の市民達がいかにヒーローを認識したのか、いわゆるメタ・ヒーロー像について考えるのは、また別の機会に譲りたいと思います。