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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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AVENGERS THE ULTRON IMPERATIVE【2021年11月の私的ベストアメコミ】

2015年に映画エイジ・オブ・ウルトロンが公開され、その知名度は爆発的に高まったウルトロン。元々ハンク・ピムが開発した人工知能を有するロボットでしたが、暴走の末現在は人類を脅かす凶悪なヴィランとなってしまいました。アベンジャーズの宿敵として長きに渡る戦いを繰り広げており、MARVEL史の重要な節目節目には必ずと言っていいほど登場している程です。今回紹介するAVENGERS THE ULTRON IMPERATIVEはそんなウルトロンとアベンジャーズの対決を描いた作品です。ワンショット(1話完結)ですがボリュームと読後の満足感はミニシリーズにも負けません。
f:id:ELEKINGPIT:20211105005312j:imageAVENGERS THE ULTRON IMPERATIVE

 

邦訳されたウルトロンとアベンジャーズの対決

 

〈あらすじ〉

ある日の深夜、ATMを襲う卑劣な強盗事件が発生。警備員に電撃を浴びせ、ATMを破壊した犯人を目撃した者は口を揃えていう。あの姿は間違いなくアベンジャーズだったと。

 

〈ウルトロンの義務〉

アベンジャーズが強盗したと聞けばもちろん世間は大騒ぎです。しかもATMを破壊してまで盗んだ金額はたったの20ドル。日本円にして約2000円といったところでしょう。当然アベンジャーズに身に覚えは全くなく、偽物の仕業だと考えられました。更に被害にあった警備員の1人は偽アベンジャーズの姿をハッキリと見たと言います。それはアベンジャーズであってアベンジャーズでない、奇妙なロボットの姿でした。
f:id:ELEKINGPIT:20211105011051j:image警備員が見たアベンジャーズの格好をしたロボット達。アベンジャーズを騙り非道な行いをするならば許しておくはずがない。

 

調査の結果、偽物の共通点はかつてウルトロンとそのパートナーロボット、アルケマとの戦いで脳波パターンをコピーされたメンバーが基になっていました。ウルトロンは現在消滅しているはず。ならば真犯人はアルケマに違いありません。まずは偽アベンジャーズの足取りを追い、とあるビルでついに対峙。数も練度も勝るアベンジャーズが瞬く間に勝利しました。推測通り偽物はアルケマによって作られたのだと言います。ところがアルケマは自分たちを呆気なく見捨て、路頭に迷わざるを得なかったと訴えるのです。オリジナルには劣るとはいえ、精度の高いロボットを見捨ててでもアルケマが遂行しようとしている計画とは? アベンジャーズは僅かな証拠からアルケマの所在地をエジプトとギリシャの2つに絞ります。もしアルケマが恐るべき謀略を企んでたら……キャップの指揮により二手に分かれてアルケマの行方を捜索することとなりました。早速エジプトへ行ったチームが異変を発見。なんと古代遺跡の地下にロボット達の住む都市が建設されていたのです。ところが驚くアベンジャーズを電撃が襲います。アルケマの罠でした。
f:id:ELEKINGPIT:20211105013254j:image罠に陥り電撃を受けるアベンジャーズ。エネルギーフィールドで拘束されてしまう。

 

捕えられたアベンジャーズを前にアルケマは雄弁に語ります。アベンジャーズの脳波パターンをコピーして作ったアンドロイドが第1世代。それぞれの能力を混ぜ合わせたハイブリッド型が第2世代。そして現在製造中のバイオ・アンドロイドである第3世代を大量に量産し、ロボットのロボットによるロボットのためのユートピア、ロボトピアを建造しようとしていたのです。そしてそれを使って自らが第2のウルトロンとなることを。ところがアルケマは大きな誤算をしていました。元々アルケマはウルトロンが自身のパートナーとするために作られたロボット。アルケマが作ったバイオ・アンドロイドのコードを書き換えて自身の制御下に置くことが出来るのです。かつてアベンジャーズとの戦いに敗れたウルトロン。しかしその意識データをアルケマやアルケマが作ったロボットに潜伏させて復活の時を探っていました。それこそがウルトロンにとって今なのです。アルケマのバイオ・アンドロイドを次々と吸収し、遂には鋼鉄の肉体を手に入れます。
f:id:ELEKINGPIT:20211105014306j:image鋼の肉を纏うウルトロン。パートナーのアルケマを裏切って完全復活を遂げる。

 

しかしウルトロンは1つ、大きなミスをしてしまいました。アルケマのアンドロイドを吸収することでアベンジャーズを拘束していたエネルギーフィールドが解除、アベンジャーズもまた完全復活したのです。当然アベンジャーズが目の前で起こったこの事態を見逃すはずもなく、大乱闘へ。更にアルケマは自身のアンドロイドと常にリンクしており、もしもアルケマが倒されたら連鎖的にアンドロイドも爆発するシステムになっていました。未だ辺りを埋め尽くすほどいるアンドロイド全員が爆発したらウルトロンだってひとたまりもないはず。この弱点に目をつけたホークアイがヴィヴラニウム性の特別な一矢を放ちます。
f:id:ELEKINGPIT:20211105015501j:imageアルケマの秘密基地諸共爆発したウルトロン達。アベンジャーズの勝利だ。

 

〈盛者必衰の理〉

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。平家物語の有名な書き出しです。意味はこの世のあらゆる物事は常に変化しており、盛んな者もいつかは衰えるという理を表しているということ。さて今作は正しくそれが大きく表れていた物語でした。作者が平家物語を知っていたかは分かりませんが、アルケマもウルトロンも見事に平家物語の書き出しに当てはめることができます。特にウルトロンは最後首だけ残され、子どものオモチャになるという末路を迎えました。ロボトピアを築き、栄華の絶頂にあった2人もまた盛者必衰の理から抜け出せなかったのです。ここで私は一抹の不安がよぎりました。アベンジャーズは? アベンジャーズもまた盛者必衰の理に則って滅びゆく運命なのでしょうか?

せっかくですので今回は日本史と照らし合わせながら考えてみたいと思います。平家物語はいわゆる源平合戦を描いた書です。かつて栄華を極めた平家もまた最後は壇ノ浦の戦いで滅び、平家打倒の立役者であった源氏も3代で滅亡。鎌倉幕府もまた成立から約150年後に倒され、幕府討伐軍を率いた後醍醐天皇建武新政はたった3年で終了しています。さらにその後足利氏が室町幕府をたちあげて織田信長に滅ぼされ、信長は本能寺の変で死亡し……と、盛者必衰は挙げていけばキリがありません。しかしそれらは全て突発的に起こったものではないでしょう。例えば鎌倉幕府御家人鎌倉幕府に仕える武士)へ支払う恩賞が不足していたこと、貨幣経済の確立で多くの御家人が没落していたことで溜まった幕府への不満を後醍醐天皇に利用されたことで倒幕に繋がっています。盛者必衰には必ず理由があるのです。

今作含め、盛者必衰にはある共通点があります。それは他者へ苦痛を強いたこと。ウルトロンはアルケマのアンドロイドを吸収して復活しますが、アンドロイドといっても当然自律した人工知能を持ちます。それらの苦しむ声を無視してウルトロンはパワーアップしていたのです。室町幕府は10年以上にも渡る応仁の乱を沈められず、倒幕の大きな一因となった影響力の低下を招いています。このように、盛者必衰とは他者へ苦痛を強いたことへの懲罰的な意味も持つのだと考えていいでしょう。

残念ながらそらはアベンジャーズも同様です。後にアベンジャーズを解散まで追い込んだAVENGERS DISASSEMBLEDは精神的苦痛を抱え続けたスカーレット・ウィッチが原因でした。またアベンジャーズを分裂状態に招いた原因はシビルウォーです。アベンジャーズが盛者必衰の理から抜け出すには? それは誰にとってもヒーローであることでしょう。市民だけでなくヒーローを守ることもヒーローの役目のはず。誰も傷つけないとは誰にもできることではありません。しかしアベンジャーズならば、きっと我々の希望となり続けてくれるでしょう。アベンジャーズは分裂しても解散してもまた結成され、地上最強のヒーローチームであり続けました。人々の希望である限りアベンジャーズは不滅なのです。