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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ULTIMATE COMICS IRON MAN

MARVELには様々な平行世界が存在します。当然平行世界は正史世界(アース616)とは違う世界であり、違う物語がありました。様々な平行世界のスパイダーマンが集うスパイダーバースは正にそれを表しているでしょう。さて、今回紹介するULTIMATE COMICS IRON MANはそんな平行世界の中でも最も有名なアルティメット・ユニバース(アース1610)のミニシリーズ。余りにも歴史が長いという理由で中々手が出ない方のために、MARVELが新たに用意したのがアルティメット・ユニバースです。そのため現在でも1から全てを読破することは可能であるとされており、ここからファンになったという方も多いはず。正史世界やMCUとはまた違ったアイアンマンの物語を楽しみましょう。
f:id:ELEKINGPIT:20211125122929j:imageULTIMATE COMICS IRON MAN

 

〈あらすじ〉

スタークインダストリーズCEOにしてアイアンマンであるアントニオ・スターク(トニー・スターク)は、未だ解消されない父へのコンプレックスを胸に日々を生きていた。ある日スターク社が何者かに襲撃される事件が発生。最初は大したことない敵と思われたが、それがスターク社の運命を左右する事態に発展するとは誰にも予想できなかった。

 

〈鎧の中の悪魔〉

父ハワードが事故死してから10年、トニーは受け継いだ会社を国際的な巨大企業まで成長させていました。しかしそれを快く思わない人物も。株主総会で堂々とスピーチするトニーの姿を見て、ある計画を実行しようと組織が動き始めます。その日の夜、スターク社のビルから爆炎が上がりました。駆けつけたトニーがすぐさま鎮火しますが、どうやら事件はこれだけではありません。突如アーマーから謎の声が。聞き覚えのない声の主は自らをマンダリンと名乗ります。そして挑戦状を叩きつけるかのようにアーマーの自己破壊プロセスを作動、トニーの目の前でアーマーをハッキングして見せたのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20211125145926j:image自己破壊プロセスを作動されたトニー。火花を散らすアーマーと共にマンダリンの正体を突き止めると誓う。

 

事件以来マンダリンの足取りを負いますが、轍1つ見つけられないまま被害が出始めます。その時、空軍高官のキャロル・ダンバースが現れました。どうやらマンダリンを名乗る人物が使用したハッキングコードは、4年前にSHIELDをサイバー攻撃したものとほぼ同じだというのです。共通のハッキングコードさえ入手すればあとは同様のコードから足跡を追うのみ。こうしてトニーは南太平洋財団という会社にたどり着きました。本社はホンコンです。早速本社を訪れたトニー。しかしそこはもぬけの殻、カーペットにすら足跡1つありません。見つかったのは、かつて父ハワードが香港土産にと贈った金貨と同じ紋様のみです。謎が謎を呼ぶ展開の連続。更に警備用ドローンの襲撃を受け、再びアーマーがハッキングされました。警備用ドローンはトニーすら見たことがない軍事技術の塊。そこでトニーはローディの力を借りることにします。
f:id:ELEKINGPIT:20211125205740j:imageトニーを襲う警備用ドローン。自動制御で攻撃しているようだが、トニーも知らない技術が使われている。

 

香港で発見した金貨と同じ紋様。その金貨はハワードが会社を設立した頃、40年前に入手したものだとトニーは記憶していました。当時ハワードは世界を転々としており、中でも香港によく通っていたようです。恐らくこの金貨こそが謎を解く最大の鍵でしょう。ハワードのプライベートジェットの空路を全て調べた結果、秘密に南シナ海へも通いつめていたことが判明します。謎を解く最後のピースは恐らくそこにあるのでしょう。孤島にポツンと立つ巨大な建物ヘ突入した瞬間、EMPを浴びせられアーマーが完全にシャットダウンしてしまいます。そして現れたのが「マンダリンの管理人」を名乗る集団でした。
f:id:ELEKINGPIT:20211125213815j:image「マンダリンの管理人」に拘束されるトニー。トニーの生体認証でしか扱えない兵器を利用するつもりらしい。

 

マンダリンの管理人は何故執拗にトニーを追うのか悠然と語り始めます。これはハワードへの復讐だと言うのです。かつてハワードもまた「マンダリンの管理人」の1人であり、金貨はその証でした。管理人同士は持ちうるあらゆる技術を共有することでその向上に務めてきました。しかしハワードが離反、共有してきた技術を元手にスターク社を作ったのです。本来ならスターク社の富も名声も権力も全て管理人、そしてマンダリンのものだったはず。ならばそれを乗っ取り運営することもまたマンダリンの権利のはずだと言います。では何故? 何故ハワードが死んでから10年も経った現在にその計画を実行したのでしょうか? 10年前、マンダリンはハワード個人へ既に然るべき報いを与えていました。しかし会社は息子であるトニーへと受け継がれます。そこで管理人はマンダリンに相応しい会社となるかを見極める期間を与えたのです。結果は現在に至るまでで明らかでしょう。ハワードは殺された。マンダリンに殺された。この事実にトニーの怒りは頂点に達します。ローディの助けで脱出したトニーは、建物の機関部を破壊することで組織を壊滅。アーマーがなくとも勝利することが出来ました。
f:id:ELEKINGPIT:20211125222703j:image爆煙と共に脱出するトニー。こうして二代にわたる怨敵に決着をつけた。

 

〈悪魔の囁き〉

今作のトニーは一種のアーマー依存症になっているようにも見えました。アーマー依存症といえばMCUアイアンマン3でも描かれています。心の奥に眠る大きな不安や恐怖に取り憑かれ、身を守るためにアーマーに固執する症状です。しかし今作、MCUのトニーのように不安神経症になったり、また最近九死に一生を得たという体験はないはず。ならばトニーを駆り立てた恐怖とは? 今回はアーマーに潜む悪魔の正体に迫っていきたいと思います。

物語の冒頭、貨物列車を狙う強盗とトニーの戦いが描かれました。ここではブレーキの壊れた列車を止めるため、自らを壁にするという荒業を披露しています。また列車を持ち上げて強盗一味海へ落とすなんてことも。ここで示されたのは、アーマーとトニーが一体になることで得られた大きな万能感でしょう。しかし本作では多くの場面でアーマーがハッキング、トニーの意思だけで扱えない状況が多く描かれました。トニーの想像以上にいとも簡単にアーマーの万能は崩れ去ったのです。しかし正体不明の敵を倒すにはトニー本人の力だけでは不可能。頼りにならないアーマーしか頼りになるものがない。リアリストでありフューチャリストでもあるトニーだからこそより具体的な死の結果が頭から離れなかったのでしょう。

何度ハッキングされてもアーマーを着用し続け、キャロルの制止にアーマーしかないと反論トニーにはそんな心根があったのかもしれません。しかしそれだけではなかったはず。南シナ海の孤島に乗り込む直前、トニーはハワードの過去を疑いつつありました。マンダリンとハワードには何か関わりがあるのではないか? それは自らのアイデンティティすら揺るがしかねない問題です。本当にトニー・スタークはヒーローなのか? ヴィランの親族は皆ヴィランだなんて無茶苦茶だ、と思う方も多いでしょう。しかしトニーの人生には常にハワードの姿があり、その根幹はハワードが作り出したと言っても大袈裟では無いでしょう。自分の礎にはヴィランの考え方が存在しているかもしれない。自分はヒーローでは無いのかもしれない。そんな考えがあったからこそアーマーを着て人助けを続け、自分を安心させようとしていたのでしょう。キャロルに向かって「アーマーしかない」と言った心理にはそんな本音が隠れていたのかもしれません。

当然それらは劇中のセリフや描写で明確に否定されています。「アイアンマン」とはアーマーではなく、正義の意思を持つ鉄人にこそ相応しい称号なのです。物語のクライマックス、トニーはマンダリンの正体を実体のない組織だと推理しました。そしてマンダリンとの戦いはこれで終わりではないことも。トニーはマンダリンと戦う度に、何故自分がヒーローなのかを思い出すでしょう。この戦いがあればこそ、トニーはこれからもアイアンマンであり続けるのです。