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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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DARTH VADER vol4 FORTRESS VADER

EP3シスの復讐直後を舞台にした今シリーズもついに最終巻を迎えました。思えば黒衣のマスクから溢れんばかりの憎悪と怒りを感じるシリーズでしたが、EP4新たなる希望以降に登場するダース・ベイダーとは少し違った印象を受ける方も多かったのではないでしょうか? ダース・ベイダーといえば感情の読み取れない無機質なマスクに独特な呼吸音、自身に歯向かう部下へ容赦なく行われたフォースチョーク。EP3シスの復讐や今シリーズでは怒りや憎悪に支配されたベイダーが、何故冷酷無慈悲な殺戮マシーンへと変わり果てたのか? 燃え盛る憎悪を宿したアナキンが更なる闇へ向かう様を見届けましょう。
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〈あらすじ〉

遠い昔、はるか彼方の銀河系で……

時は帝国の治世。繁栄を誇ったジェダイオーダーも今や2人のシスの暗黒卿によって風前の灯火に晒されていた。

更にジェダイを葬ったベイダー卿は皇帝にその功績を認められ、惑星を1つ与えられる。ベイダー卿が望んだ惑星はムスタファーだ。

凶悪なフォースに取り憑かれながらベイダーはパドメの幻影を追っていた。死者の口を開かせるために……

 

〈フォースの暗黒面〉

モンカラ戦争が終わったあとも引き続きジェダイ狩りをしていたベイダー卿。皇帝としてもその働きは大いに満足しているようで、今や銀河に残るジェダイもごく僅かというところまで来ました。そこでベイダーは、皇帝に自らの惑星と城を望みます。ベイダーから物を要求されることはジェダイ時代から考えてもほとんどなく、皇帝も驚きを隠せないながら望みのものを与えることに。亡き妻パドメの故郷ナブーか、それともアナキンの出身地タトゥイーンか? 皇帝の問いにベイダーはムスタファーと一言答えました。
f:id:ELEKINGPIT:20220125150201j:imageEP3でオビワンとの戦いに敗れた因縁の星ムスタファーを欲するベイダー。その目的とは?

 

今や銀河を支配するシスですが、破壊は得意でも創造は苦手。そこで皇帝はシスの秘宝からある仮面をベイダーへ渡します。シスの中でも異端の暗黒卿、モミンの仮面です。モミンは痛みと恐怖にこそ真の芸術があると考え、動物の死体を使ったアート作品を多く発表していました。それを当時の暗黒卿に発見され、眠っていたダークサイドのフォースを修行により覚醒。町1つを破壊できる兵器で究極の芸術を完成させようとしていた最中、当時のジェダイに阻まれ命を落としたのです。しかしモミンが使っていた仮面には不思議な力が宿されており、皇帝はそれを利用して城を建てるよう言いつけたのでした。ベイダーがかつてシスのライトセイバーを作った場所を訪れると、早速仮面の力が発動。どうやら仮面を被った人へモミンの記憶を見せるか、その体を乗っ取ることが出来るようです。
f:id:ELEKINGPIT:20220125213052j:image仮面から発されるフォースを感じ取るベイダー。その導きに従い城を建てる。

 

ベイダーはムスタファーを発つ直前、暗黒面のフォースをより深く学ぶために城を建てると説明していました。そのため暗黒面のフォースをより集めやすい構造にする必要があります。しかしこれに大苦戦。稀代の天才モミンですらベイダーの気に入る建築が思うように上手く行きません。更に暗黒面のフォースがベイダーの城へ結集しつつある影響でムスタファー全体に影響があるようです。これを危惧したムスタファーの原住民の激しい抵抗にあい、守備隊との戦闘が常に行われているほど。どうやらベイダーは「暗黒面のフォースをより深く学ぶ」以上の目的を持っているようで、城の建築には正確さを求めていました。ベイダーが納得したのは、実に9つ目に建てられた城でした。
f:id:ELEKINGPIT:20220125221124j:imageようやく完成したベイダーの城。その禍々しい見た目は暗黒面のフォースを結集させる目的も。

 

城の完成で星全体に偏在するダークサイドのフォースに影響があったのか、その力を受けてモミンが溶岩の影から現れました。それまでは仮面を通して他人の身体を乗っ取っていたモミンですが、今いるモミンは身体も精神も本人そのもの。ベイダーの目の前で死者が復活した瞬間でした。マスクの下がどのような表情になっているかは分かりませんが、城を我がものにしようとするモミンへ刃を向けるベイダーはいつもより苛烈に見えました。どうにかモミンを倒したベイダーは、フォース体となって城へ足を踏み入れます。それを阻止しようとするジェダイオーダーの幻影を圧倒し、パルパティーンの幻影を殺し、最上階へ。そこで待っていたのはアナキンの愛する亡き妻パドメでした。ベイダーはここでパドメ復活を目論んでいたのです。目の前にいるパドメの手を掴みさえすれば恐らく死をも乗り越えて再び愛し合える。アナキンは妻の名を呼び、共に行こうと話しかけます。しかしパドメはそれに応えようとしません。そして「貴方は誰? アナキン・スカイウォーカーは死んだのだから」と言葉を遺してその身を投げます。アナキンは目の前で2度目のパドメの死を体感するのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20220125222754j:image身を投げ雷に打たれるパドメ。アナキンの願いも叫びも虚しく、最愛の人が再び失われた。

 

アナキン・スカイウォーカーの死〉

ダース・ベイダーはいつ誕生したのか? とは、意外と意見の分かれる問いでは無いでしょうか。名実ともにアナキンがダース・ベイダーとなったのは、パルパティーンからその名を賜った瞬間、暗黒面に堕ちた瞬間です。一方でムスタファーの戦いに敗れた後、黒衣の半身半械となった時と考えている方も多いはず。では今シリーズはどうだったのでしょうか? 私はその後も「アナキン・スカイウォーカー」の心は残っているように見えました。ただしそれは激しい憎悪に駆られた心ではありますが。つまり、この時点でダース・ベイダーは同時にアナキン・スカイウォーカーでもあったのです。しかし後の時代のオビワンやベイダーと会話したルークは「アナキンはベイダーに殺された」と考えている様子。ならばそれはいつなのでしょうか?

そもそもアナキンが暗黒面に堕ちたのは、パドメを死から救うためでした。その時の印象的なのが「彼女なしでは生きられない」というセリフです。心の底からパドメを愛しているが故のセリフでしょうが、実際にはその死後も皇帝の手駒として働いていました。「パドメの元へ向かう」という選択肢があったにも関わらずです。では何故激しい憤怒に支配されながら、サイボーグのような体になりながら、アナキンは生きていたのでしょうか? それこそが「暗黒面のフォースを学びパドメを復活させるため」でしょう。今シリーズのダース・ベイダーは、パドメを復活させるためにフォースの暗黒面に捕われたアナキン・スカイウォーカーだと言えます。

しかし今作でパドメの復活は永久に叶わないものだとアナキンは直感したでしょう。私はこの瞬間をもってアナキン・スカイウォーカーは死んだと考えます。終盤自らの城を去るベイダーはまるで落胆した様子もなく、一言で表すならば「無機質」でした。感情が読み取れないのがマスクのせいとは思えないほどです。この時ベイダーは自身にも他者にもあらゆる感情が亡くなったのでは無いでしょうか? 人は大切なものを失った時、できるだけ心が傷つかないよう失ったものの価値を下げて防衛しようとする働きがあります。もしベイダーにこの防衛機制が働いていたならば、「人はどうせ死ぬ」という諦念が心を覆っていたに違いありません。だからこそ他者の命にすら関心が亡くなり、冷酷無慈悲な殺戮マシーンへと変わり果てたのでしょう。

最後に、そんなアナキンはいつ甦ったかについて考えたいと思います。多くの人はEP6ジェダイの帰還にてアナキンは復活したと考えるでしょう。確かにジェダイ・ナイトのアナキン・スカイウォーカーはこの時帰ってきました。しかしアナキン・スカイウォーカーその人が復活したのは、より以前ではないでしょうか。EP5帝国の逆襲にてルークを暗黒面に勧誘するベイダーは、「皇帝を倒し共に銀河を支配しよう」と持ちかけます。これはEP3シスの復讐でパドメに「銀河を支配し共に暮らそう」と語ったセリフとほぼ同じ内容。つまり、「共に銀河を支配する」とは暗黒面に堕ちたアナキンなりの愛情だったのです。20年近くダース・ベイダーとして殺戮マシーンに成り果てたアナキンですが、パドメの遺した自分たちの子どもの生存を知り心の奥底に眠っていた愛情が復活したのかもしれません。「ジェダイの帰還」というタイトルは、復活したアナキンがライトサイドへ帰ってくるという意味も含まれていたかもしれません。