アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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NEW AVENGERS OTHER WORLD

インフィニティでビルダーズやサノスとの戦争を終え、「アベンジャーズの守る世界」としてその名が銀河中に知れ渡ったアベンジャーズ。一方その物語の裏ではマルチバース同士の崩壊現象、インカージョンを阻止するために動き始めたイルミナティの物語がありました。ビルダーズとの戦争も、インカージョンを思えば些細な出来事に過ぎない。後の大型クロスオーバー、タイム・ランズ・アウト編に繋がる壮大な「伏線」の物語である本作、点と点が予想外な場面で繋がる爽快感も味わい深いでしょう。相手の世界を破壊しなければこちらの世界が破壊される。究極の選択を突きつけられたイルミナティはどのような行動をとるのか? 人知れず過酷な運命に抗おうとした英雄譚がヒックマン氏のニューアベンジャーズシリーズなのです。
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日本語版関連コミック

 

〈あらすじ〉

全てが死ぬ。君も私も、この星の全ても。太陽も銀河も、果てはユニバースそのものもそうなるだろう。私はそれを受け入れた。全てのマルチバースが互いに衝突し、消滅する「インカージョン」が始まった。インカージョンが始まればいずれ全ての世界が滅ぶだろう。インカージョンを止める手立てはたった1つ、片方のユニバースを破壊するしかない。人知れず過酷な戦いを永遠に強いられたイルミナティは、インカージョンを止める「もう1つの手」を探し続けていた。

 

〈八方塞がりに活路を〉

インカージョン。ユニバースの中心点である地球が別のユニバースの地球と衝突することで起きる現象です。インカージョンが発生する直前、急接近した互いの平行世界はもう一方の地球から目視が可能。また移動も容易に行えますが、目視でもう片方の地球が見えてから8時間後に衝突が開始します。止める方法はただ1つ、8時間以内にどちらかの地球を破壊することのみです。事前にインカージョンの発生を知る手立てはこれ以外ありません。全てを8時間以内に決着させること、インカージョンが続く限り究極の選択を短時間で決めねばならないのです。これまでイルミナティは、インフィニティ・ガントレットでの解決を目論みました。かつてサノスが使用し、神々の上位存在、万物の祖をも封印した最強のアイテムです。しかしこれでもわずかな時間稼ぎにしかならず、インフィニティ・ストーンは失われてしまいました。今のイルミナティは正しく八方塞がり、インカージョンを止める新たな方法もその糸口すら掴めません。そこでイルミナティは、他のユニバースがどのようにインカージョンへ立ち向かったかを観測することにしました。リードが開発した「ブリッジ」と呼ばれる装置は、平行世界に干渉することなく観測できるものでした。
f:id:ELEKINGPIT:20220529003927j:imageリードが開発した「ブリッジ」。他の世界のインカージョンへの対応策を参考に、新たな道を模索する。

 

観測を続けた結果は悲惨なものでした。観測したユニバースは全て消滅したのです。分類するなら、消滅する方法は3つに別れていました。最も多い方法は、何も対応も出来ずにインカージョンが開始して消滅。そして5つのユニバースが、「マップメイカー」による攻撃後消滅。2つのユニバースが「ブラック・プリースト」による惨殺後消滅。マップメイカーの目的は、インカージョンの寸前にもう一方の地球へ移動後、僅かなエネルギーを残して全てを吸い取り破壊することです。一方ブラック・プリーストの目的は不明。イルミナティに情報提供したブラック・スワンをかつて襲撃したこと以外何もわかりません。観測した結果は、要は何の収穫も得られなかったのです。それでも粘り強く観測を続けたティ・チャラは、ある1つの世界がインカージョンを免れたことを知ります。
f:id:ELEKINGPIT:20220529005154j:image観測によって分類された3種の「消滅」。得られた情報は既知の情報に説得力を与えるのみだった。

 

グレート・ソサエティ。それがチームの名です。4年前、異星人による大侵略でヒーローが一掃された「アンチ・ヒーローエイジ」を乗り越え、見事地球を取り戻した英雄達のチームです。チームリーダーのサン・ゴッドはインカージョンの阻止を掲げチームを率います。そしてインカージョンの始まりと同時に襲撃するマップメイカーへ全力で迎撃に当たりました。その姿は不屈、そして高潔。ティ・チャラも魅入られるほどの曇りなき純粋な強さと精神をもちあわせたヒーローです。グレート・ソサエティはもう一方の地球を破壊、見事インカージョンを阻止して見せたのでした。ここで「ブリッジ」が時間曲線の湾曲を示しました。平行世界を観測するという特性上、ブリッジは過去や未来を見ることが出来ます。しかし未来を見ることが出来るのは極めて稀、時間曲線の湾曲が示されたときのみです。恐らく、インカージョンが発生したのでしょう。なるほどインカージョンは連続して発生することもある、何も対策しなければ消耗戦になることが分かりました。しかしそれ以上に驚くべき光景が映されます。なんとインカージョンで接近している世界はアース616。インカージョンを止めるため、グレート・ソサエティと戦うイルミナティの姿が映し出されたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20220529010509j:imageグレート・ソサエティvsイルミナティ。完璧なるヒーローチームと戦うイルミナティはヒーローなのか、最早ヴィランなのか。

 

五里霧中に光明を〉

今作は後に繋がる重要な要素が多く描かれた1冊でした。ブラック・プリーストの存在、何故かマップメイカーに殺されないDr.ドゥームetc、点と点が予想外な場面で繋がる爽快感が今作には数多くありました。さて、本作はアース616だけでなく、様々な平行世界のイルミナティが登場します。そしてそれらと対比的に描かれたグレート・ソサエティイルミナティとグレート・ソサエティの違いとは何なのでしょうか? インカージョンという同じ現象に立ち向かった正反対のヒーローチームを比較したいと思います。

「全てが死ぬ。君も私も、この星の全ても。太陽も銀河も、果てはユニバースそのものもそうなるだろう。そうなるのみだ。不可避なのだ。私はそれを受け入れた」とは、イルミナティのリードのセリフ。あらゆるものにやがて必ず訪れる「死」についての一言です。しかしこれはニヒリズムのような文言にも感じます。以前虚無主義からの脱却こそが21世紀を生きる現代人の課題であり、ヒーローはその手助けをする存在だという話をさせて頂きました。リードのセリフは、その手助けすべきヒーローが虚無主義を唱えてしまったことになるのです。一方グレート・ソサエティのリーダー、サン・ゴッドは正反対のセリフを言いました。「全ては生きている。死ぬ前に、生きている。生きている間に何をしたかで判断されるのだ。だから私は許容しない。受け入れられない」原文だとリードのセリフと二項対立的になっているセリフです。これらはインカージョンに対する向き合い方にも違いが現れています。イルミナティは、死なないためにインカージョンを阻止しようとしています。起こらないはずだったイレギュラーな「死」から逃れようとしているのです。一方グレート・ソサエティは、生きるために、人々を救うためにインカージョンを阻止しようとしています。どちらが良い悪いではありません。残った方が正しいとも言えません。ただ1つ浮き彫りになったことは、イルミナティが高潔なヒーローチームとは完全にかけ離れてしまったことでしょう。この現実を突きつけられたイルミナティは進めた歩を止めるのか? それともこの道を進み続けるのか? それらは次回以降のお楽しみです。