アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN NOIR

大部分のコミックの舞台となるアース616(プライムアース)以外にも、マーベルユニバースは様々な世界が存在します。アルティメットユニバースやMCUはその中でもかなり有名です。さて、今回紹介するIRON MAN NOIRはそんな数ある平行世界の1つ。Noirシリーズ最大の特徴は、なんと言っても1938年を舞台にしていることでしょう。大恐慌からようやく立ち直りつつある世界を、新たなる戦争の予感が震わせる時代です。現代が舞台では決して味わえない時代の空気感が物語をより引き立ててくれるでしょう。
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〈あらすじ〉

億万長者にして大胆不敵な冒険家として知られるトニー・スタークは、探検隊と共にマヤの奥地へと進んでいた。不治の病を治すと言われる翡翠の仮面を手に入れるためだ。しかしその背後には世界が恐れるあの組織が背後に潜んでいた。

 

〈暗黒の時代の狭間で〉

1938年、マヤ文明が築かれた地の先を目指し、トニー・スターク率いる探検隊は険しく困難な道を進んでいました。我々のよく知るトニー・スタークと違い、この世界のトニーは実業家で冒険家として知られていました。それも探検隊に専属のジャーナリストが付き、雑誌で特集が組まれるほどの大人気っぷり。トニーが冒険に出発したと聞けばどれほどの人が胸を踊らせたことでしょう。食料が尽きる等のトラブルに見舞われながら、探検隊は出発から19日目に目的地へ到着しました。マヤの秘密文明、死者の宮殿です。トニーの目的は死者の宮殿に眠る「翡翠の仮面」でした。翡翠の仮面は、死者蘇生をも可能にすると言われる夢のアイテム。面を着けた者は不治の病すら治ると言われています。早速トニーは仮面を装着しますが、しばらく経ってもなんの変化も起きません。やはり噂はあくまで噂でしか無かったのでしょう。落胆するトニーに、衝撃的な事件が発生します。なんと長年連れ添った探検隊の仲間、ネファリアが突如トニーへ銃口を向けたのです。更に洞窟の奥地から現れたのは、今世界で最も勢いのある組織ナチスです。なんとネファリアはナチスと手を組み、今日のような日をじっと待っていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20220720005534j:imageスターク探検隊を襲うナチス。秘宝全てを手にしようと動き出していた。

 

ナチスは探検隊のジャーナリストを射殺。トニーとローディは命からがら逃げ出しますが、翡翠の仮面も奪われてしまいました。翡翠の仮面がない今、新たな宝物を探さねばなりません。トニーは何かヒントはないかとネファリアがかつて暮らしていた部屋を訪ねます。そこで気になる記事を見つけました。海底に沈んだ幻の超古代都市アトランティスです。高度な科学技術を持っていたとされるアトランティスには、オリハルコンと呼ばれる物質が眠っているとされていました。哲学者プラトンの記録によれば、アトランティスは当時の技術ではありえないとされてきた電気を扱っていたと考えられます。それを可能にしたのが超伝導オリハルコンなのです。超伝導オリハルコンがあれば地球の裏側まで簡単に電気を届けることができます。そうすればトニーは早速新たな専属ジャーナリストのペッパー・ポッツをメンバーに加え、新たな冒険へ向かいます。
f:id:ELEKINGPIT:20220720013211j:imageトニーが語る伝説の都アトランティス。そこに眠る新たな宝を求めて冒険が始まった。

 

新たな専属ジャーナリストとなったペッパー・ポッツは、次々と冒険を繰り替えすトニーへ疑問を抱いていました。まるで何かを焦っているよう。実はトニーは不治の心臓病に犯されており、寿命まで指折りの段階まで迫っていたのです。心臓に取り付けた機械へ電気チャージすることで活動できますが、充電がなくなれば心臓病は加速的に悪化してしまいます。不治の病を治す仮面を探したり、オリハルコンを求めているのはこの病をどうにかするためでした。トニーは一刻も早くオリハルコンを見つけ出したいのです。そのためには手段を選びません。アトランティスを見つけるために頼ったのは、七つの海を駆ける伝説の大海賊、キャプテン・ネイモアでした。大金を出してネイモアを雇えば、海中だろうと捜し物はすぐに見つかることでしょう。実際ネイモアがアトランティスを発見したのは、出航からわずか数日後のことでした。潜水艇アトランティスへ向かうと、そこには確かに沈んで荒廃した都市の姿がありました。中でも異彩を放つ海神像はすぐにトニーらの目に止まります。オリハルコンは存在したのです。海神像の持つ三又槍の穂先に。この時ペッパーは、オリハルコンを発見した喜びと冒険の終わりへの寂しさを、活き活きとした文章で表現しています。しかし冒険はこれで終わりではありませんでした。
f:id:ELEKINGPIT:20220720020439j:image海上で待っていたのは海賊をも恐れぬナチスオリハルコンを奪還するため、ずっと尾行していたのだ。

 

〈冒険家と発明家〉

ノワール版トニーは、設定が発明家から冒険家と変わっていました。どちらの職業も、人類を未来へ進める何かを発見する仕事と言えますが、1938年でも発明家という職業は存在したはず。実際発明王トーマス・エジソンや電気の魔術師と呼ばれたニコラ・テスラは、1938年以前から自らの発明品で生活していました。では何故トニーは発明家ではなく、冒険家という職業を与えられたのでしょうか?

発明家にはなく冒険家にはあるもの。それは自らの命を賭け続けるということでしょう。ノワール版トニーは、冒険中例えどんな困難にぶち当たろうと決して諦めようとしませんでした。時にはお得意の軽口を言ってみたり、時には自らを囮にして的に立ち向かったり……少々無鉄砲ですが誰よりも勇敢であることは間違いありません。そしてそのようなトニーの姿は私たちの誰もが知っているはずです。そう、アイアンマンです。冒険家としていくつもの死線をくぐり抜けてきたことで、トニーの精神にはアイアンマンかそれに近いものが芽生えていたのです。プライムアースのトニーはゲリラに捕まり、インセン教授の死がキッカケで一気にヒーローとして覚醒しました。しかしノワール版トニーは冒険家として徐々に覚醒していたのです。実際ノワール版トニーは、時に仲間から鉄人のようと称えられていました。それは何も頑丈なだけではない、仲間を誰よりも思う行動にこそ現れていると言えます。今作ではパワードスーツの登場はほとんど少なく、最終決戦のみ着用していました。それでもトニーがアイアンマンなのは、冒険家としてアイアンマンの精神を育んでいたからこそなのでしょう。