アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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SPIDER WOMAN NEW DUDS【2022年8月私的ベストアメコミ】

時として過酷な運命や想像すら超えるような出来事を強いられるスーパーヒーロー。死と隣り合わせの環境に身を置き続けねばならず、それでも全てが報われるとは限りません。だからこそ「普通」の人生に憧れるヒーローも……。スパイダーウーマンもその1人。ヒーローをやめてコスチュームも一新したジェシカですが、求めていた平穏は得難いものでした。
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日本語版関連コミック

 

〈あらすじ〉

スパイダーバースを経て世界の果てしなさに圧倒されたジェシカは、数週間後アベンジャーズもSHIELDも辞職していた。産まれた時からスーパーパワーを持つジェシカが夢見ていた、普通の生活を送るために。探偵家業も休み平穏な生活を送っていたある日、デイリービューグルの記者から人探しの依頼が舞い込む。ここ数週間頻繁しているヴィランの家族が行方不明になった事件だ。

 

〈自分らしさこそ〉

「普通」を求めてアベンジャーズを辞めてから5週間。探偵として過ごしていたジェシカは平穏な日々に満足していました。思えばハイドラの科学者だった両親の人体実験でスーパーパワーを得たジェシカは、その後SHIELDとハイドラの二重スパイを経てアベンジャーとなりました。さらに並行世界中のスパイダーパーソンズと共に戦ったスパイダーバースを経験。「普通の生活」だなんて想像するだけで現実感すらわかなかったほどです。自警活動も路地裏の強盗を殴る程度に抑え、世界の危機と対峙することもなくなった日々に充実感すら覚えていたでしょう。デイリービューグルのベン・ユーリック氏から仕事を依頼されたのはそんな時でした。ここ最近頻発している行方不明事件の調査です。行方不明者のファイルによると、全員がC級ヴィランのパートナーや子どもなどの近親者。警察がまともに取り合わない理由も頷けます。当初はジェシカも依頼を断ろうと考えていました。今や日常を過ごす自分にヒーロー活動のような依頼を受ける理由はないのです。ところがその夜道、偶然C級ヴィランであるポーキュパインが銀行強盗をしている現場に遭遇。華麗に片付けますが、ポーキュパインの「娘が殺される」という言葉からただ事ではないと確信します。ファイルではポーキュパインの子どもも確かに行方不明となっていました。C級とはいえヴィランを脅迫できるほど巨大な組織が動いているのか? ジェシカは迷わず依頼を受けることにします。
f:id:ELEKINGPIT:20220817191613j:image次々と行方不明になったヴィランの近親者たち。何かの陰謀に巻き込まれているならば、命の危険すら有り得るだろう。

 

まずはヴィラン達から情報を集めるところから捜査がスタートしましたが、皆口をつむぐばかりで有益な情報は得られないまま。ならばと今度は潜入捜査に切り替えます。ジェシカがポーキュパインのコスチュームを纏い、わざと銀行強盗を失敗。目論見通り組織に捕まることで敵の基地へ潜入しました。とはいえ欲しい情報どころか尋問ばかりで埒が明きません。素早く車のトランクに忍び込み、正体を探ろうとします。どれくらい時が経ったでしょう。車が停車したのはのどかな住宅街にほど近い公園。子どもの笑い声が聞こえてくるような場所ではありませんか。咄嗟の機転でC級ヴィランのパートナーを名乗ったジェシカは、街の住民であるライラ達に案内してもらうことに。品位のある落ち着いた街にしか見えないこの場所で、本当にヴィランを脅せるような凶悪な組織が活動しているのでしょうか? まるで巨大組織とは縁がないかのように普通の生活が営まれている街に、ジェシカが違和感を抱くのは無理のない話でした。しかしそんな疑問が解消される前、背後から恐るべき殺意を感じ取ります。
f:id:ELEKINGPIT:20220818001158j:image重機を改造した強化外骨格でジェシカに挑もうとする敵。そのパワーは名のあるヴィランと遜色ないレベルだ。

 

敵と戦いながら、何となく話が見えてきました。この街はヴィランのパートナーや子どもが住む街。それも監禁などをされていないことから、強制ではなく自らの意思で居住していることが分かります。そして敵が振るう規格外のパワーから、ヴィラン達を脅していたのは巨大な組織ではなく街の住民が行っていたのでしょう。とはいえ目の前の敵を倒さなければ問題はこれ以上進展しないし、自分の推理がどこまであっているかの確認もできません。機転を利かせたトリッキーな戦い方が主なスパイダーウーマンですが、圧倒的なパワーの前に大苦戦。必殺のベノムブラストすら使えなくなるほどダメージを受けてしまいました。このままでは確実に殺される。スパイダーウーマンの窮地を救ったのは、同じこの街の住民達でした。油断している敵に一瞬の隙を作ったのです。こうなればあとはスパイダーウーマンの独壇場。パワーをものともしない戦略の前に、敵はついに倒されました。重機を改造した強化外骨格スーツ。それを着用したものは想像以上に若く、そして何かに取り憑かれたかのように怯えていました。どうやら何か深い事情があるようです。
f:id:ELEKINGPIT:20220818004047j:imageジェシカに倒され、全身をワナワナと震えさせる敵。その正体も目的も予想外のものだった。

 

〈普通を求めて〉

今作のテーマは、作中で何度も強調されているように「普通」だと言えるしょう。同時期に発売されたミズ・マーベルVol.1のタイトルが、偶然か狙ったのか「NO NORMAL」です。今作はそんなミズ・マーベルへの1つの解答とも言えるテーマが含まれていたのです。

ジェシカがヒーローを辞めてでも求めた普通、行方不明となったヴィランのパートナー達が過ごしていた普通。しかしそんな「普通の日常」は、私たちが想像するようなものとは少し違っていました。ジェシカだけにフォーカスすると、例えば一般人は銀行強盗をベノムブラストで倒すようなことはしません。余程正義感が強くなければ路地裏の犯罪者を倒そうとは考えないでしょう。ジェシカはそれを、最も自分らしい「普通」としていました。普他の人達と同じように生活するのではなく、あくまで自分らしく生きることが「普通」なのです。様々な人種の方々が暮らすアメリカでは、未だ肌の色等の差別は根強く残っています。白人はこう、黒人はこう、黄色人種はこう……人々が囚われている価値観は決して「普通」とは言えず、場合によっては偏見や差別となりかねません。他人と比較して違う点を指摘し、「普通」に矯正することは例え善意でも傷つけかねないのです。最も自分らしく生きることが「普通」というのは、私にとっては新たな視点をもたらされたような気分になりました。誰かにとって普通でないことが自分にとっては普通だなんてことは何も異常ではない。当たり前のことかもしれませんが、改めて言われるとハッとした気分になります。