アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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CAPTAIN AMERICA LIVING LEGEND【2022年9月の私的ベストアメコミ】

第二次世界大戦以来活躍しているヒーローは意外にも多く存在しますが、やはりキャプテン・アメリカの名を外して語ることは出来ないでしょう。主にドイツとの戦いで様々な戦場を経験したキャップですが、終戦を迎える直前の1944年に氷漬けとなり現代へと蘇りました。以来故郷のない英雄として拭えない孤独感を抱えながら戦い続けます。生ける伝説は、常に離れていく時代へ寂しさを覚えているのです。今回対峙する相手はそんなキャップと同じ時代を生きた者。最悪の戦争を経験した者には特別な敬意を払うキャップは、何故戦わなければならなかったのでしょうか?
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〈あらすじ〉

1968年、あの恐るべき戦争から生き残った元ソ連兵は月へと踏み出そうとしていた。戦争の生き残りは、国の英雄となろうとしていたのだ。しかしそこに溢れていたのは、歴史の闇に葬られるべき怪異だった。

 

〈同じ灰を浴びた者〉

それは第二次世界大戦も末期に差し掛かった頃。もはや敗走するばかりのドイツ軍を追い、ソ連軍は歩を進めていました。ところがソ連兵も長きに渡る戦いで満身創痍。ドイツ軍の罠にハマり、苦戦を強いられています。そんな時に現れたのがキャプテン・アメリカです。ソ連軍の上官はアメリカ兵と共闘することに躊躇う部下を宥め、すぐさま共同作戦を立案。敵が立てこもる基地へ攻撃を仕掛けます。キャップと新兵のヴォルコフが突破口を開き、基地はすぐさま制圧されました。しかしヴォルコフは銃弾に撃たれ意識を失ってしまいます。1968年、宇宙飛行として人類初の月へ有人飛行しようとカウントダウンが始まる中、ヴォルコフの脳裏にはそんな戦争の景色が鮮明に浮かんでいました。5秒後、ヴォルコフは遂に宇宙へ飛び立ちます。ヴォルコフの人生が変わった瞬間でした。そして現代。ヴォルコフはロシア製人工衛星にて新たなエネルギーを研究していました。ところが同じく研究者のフォックス博士が、新エネルギーの異常を観測。数秒後には人工衛星の崩壊が始まってしまいます。
f:id:ELEKINGPIT:20220919005915j:image崩壊し地球へ引き込まれる人工衛星。この事故すらきっかけに過ぎなかった。

 

数時間後、キャップは人工衛星落下事故の報告を受けていました。なんでも人工衛星は未知のダークエネルギーの研究所だったのだとか。兵器転用すら可能な、莫大かつ危険なエネルギー。もし流出していればただ事ではありません。キャップはすぐさま人工衛星があった場所へ向かいます。ところがそこは謎のエネルギーに満ち溢れ、電子機器が使用不可に。キャップの乗った飛行機もこのままでは墜落しかねません。しかしキャップは冷静です。ジェットパック付きのパラシュートを開き落ち着いた様子で飛び降ります。落下地点はシベリア。雪に覆われた大地です。しばらく歩くと、小さな残骸とうずくまるフォックス博士の姿がありました。奇跡的に無事だったようです。辺りには人工衛星だったと思わしき残骸が散らばっています。しかしダークエネルギーは感知されません。使い方次第では恐るべき兵器になりうるとまで言われるダークエネルギーを野放しには出来ません。何か手がかりがあるはず……キャップ達は残骸の調査を始めます。キャップが見つけたのは、見るも無残な死体でした。それは落下事故の結果亡くなったとは思えない亡骸。怪異に呑まれた、という表現が正確でしょうか。有機物と無機物の集合体のような黒い怪異へと慣れ果て命尽きた姿に、フォックス博士すら言葉を失います。そして生きた怪異は、2人のすぐ側に近づいていました。
f:id:ELEKINGPIT:20220919015738j:imageキャップらと対峙する巨大な怪異。ダークエネルギーが生み出した怪物だ。

 

同刻、ロシア軍は巨大な人工衛星の残骸を調査していました。ダークエネルギーを兵器運用するという上層部の命令を遂行しようとしていたのです。ところが調査を始めた途端、兵士2人が黒い怪異に変身。自我を失ったかのように同胞を襲い始めます。恐るべきことに怪異は銃弾をどれほど浴びせてもまるでものともしません。獰猛な獣のように暴れ回る怪異に、もはや軍の力を持ってしても手がつけられません。その時です。星条旗の英雄が現れたのは。キャップとフォックス博士は怪異との戦闘を経て、高密度物質ならば怪異に致命的なダメージを与えれることを発見していました。そして高密度物質といえば、ヴィブラニウム合金で作られたキャップの盾です。瞬く間に怪異2体を倒し、調査を再開します。フォックス博士の見立てではダークエネルギーのリアクターを壊せばこの騒動も収まるとのこと。制御不能の実害を出してしまった以上、ダークエネルギーのことは諦めるべきであろう。上官の独断によって、リアクター破壊作戦は始まります。フォックス博士の案内でリアクターへ向かうキャップ達。しかしその時です。怪異はキャップをも飲み込もうとしました。
f:id:ELEKINGPIT:20220919022425j:image体が怪異に変わり始めるキャップ。世界最高の英雄が怪異へとなれば想像することも恐ろしい絶望が世界を包むだろう。

 

怪異へと変わりつつあるキャップの脳には、かすかに誰かの声が聞こえていました。まるで誘うかのように。そして声が止むと、怪異化も止まります。キャップはその声がヴォルコフのものだと確信します。恐らくこの事件や事故に最も詳しい人物でしょう。キャップはフォックス博士に盾を託し、奥深くにあるヴォルコフの元へ向かいました。やはりと言うべきか、ヴォルコフは椅子に座ったまま予想通りそこにいました。こうなるまで40年かかった。ヴォルコフはそう切り出し、これまで何があったのかを語り始めます。それは1968年のこと。空の彼方、宇宙でヴォルコフがある物を目撃した瞬間からスタートします。ヴォルコフはあの時ダークエネルギーを目撃、全身に浴びていたのです。以来制御もできない力に苦しめられていました。軍はヴォルコフを秘密裏に隔離。未知のエネルギーをどのように兵器として扱うのか、その運用方法を試そうとしていました。ところが送り込まれた軍隊は皆怪異となり全滅。1973年、コントロールできないダークエネルギーの力に軍は施設閉鎖を決定します。そしてヴォルコフの話からダークエネルギーの発生位置を推測したロシア軍は、それを利用するために人工衛星を打ち上げたのです。40年間暴走するのみだったダークエネルギーをようやく制御出来た。しかしそれは、ロシア軍の目の前で起きてしまった。ヴォルコフの心境はどんな言葉を使っても性格に表すことが出来ないでしょう。しかし、共にあの戦争を生き残った英雄にはわかりました。ヴォルコフが死を望んでいることを。
f:id:ELEKINGPIT:20220919025509j:imageヴォルコフの嘆願に答えることしかできないキャップ。リアクターが破壊されなければ死ぬこともできない体に、ヴォルコフは苦笑していた。

 

〈星を背負った者〉

生ける英雄。同じ称号を背負ったキャップとヴォルコフは、対比的に描かれながらもどこか似た部分を感じる2人でした。筆舌尽くしがたいヴォルコフの心情は皆様の想像に任せるとして、今回はキャップにとってのヴォルコフを考えたいと思います。同じ戦争を生きたものであり、国の象徴として星を背負った者でもある2人。新兵として無謀ながら勇猛に敵へ突っ走ったヴォルコフが生きていたと知ったキャップはどのような心情だったのでしょうか? 様々なシーンでその胸中を垣間見ることが出来ますが、最もわかりやすいシーンはやはり、フォックス博士へ盾を託してヴォルコフの元へ向かう場面でしょう。キャップの盾は多くの意味が、そして重みが込められていることはご存知でしょう。初めてそのシーンを見た時、私はすっかり戸惑ってしまいました。いくら死線を超えた仲間でも、会って数時間しか経っていない人物に盾を託していいのか? と。ところがよく考えてみれば当然の行動だったのではと思うようになりました。ヴォルコフと会うのに盾は邪魔なのですから。キャップは怪異の原因がヴォルコフであると気づいていました。しかし同時に、ヴォルコフは敵ではないことにも。あの戦争を生きた者同士、背負う物などないのです。キャップはアベンジャーズへ盾を向けるでしょうか? 敵対している間でなければ決してそのようなことはしないはず。同じように、あの時から変わらずヴォルコフを仲間と信じているキャップに盾は不要でしかないのです。ヴォルコフの望みを叶えたのも、仲間だったからこそなのかも知れません。