アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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NOVA(2013)vol1 ORIGIN

MARVELには数多くのティーンヒーローが存在します。古くはバッキー少年に始まり、スパイダーマンX-Men、ニューウォリアーズetc……MARVELの歴史はティーンヒーローと共にありと言ってもいいほどです。今回紹介するNOVA(2013)シリーズもまた、新たな歴史に名を刻んだティーンヒーローの1人。同時期に登場したMS.マーベル(カマラ・カーン)やスパイダーマン(マイルズ・モラレス)と共にチャンピオンズを立ち上げ、2010年代を牽引したノヴァ。ノヴァは元々リチャード・ライダーという別人のヒーローの称号ですが、前述の2人同様今作のノヴァもまた名を受け継ぎ、新時代を象徴するヒーローへと成長していきます。その活躍の第1歩が描かれたのが本作なのです。
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〈あらすじ〉

ハイスクールに通うサム・アレキサンダーには自慢の父親がいた。ジェシーだ。学校の用務員として働くジェシーは時々、摩訶不思議な空想を家族に語り聞かせていた。しかしジェシーはやがて酒に溺れ、遂には姿を消してしまう。父の物置に残されたのは、家族の思い出と奇妙な形のヘルメットだけだった。

 

〈誇り高き宇宙戦士〉

サムの父ジェシーは学校の用務員として働いていましたが、同時にアルコール依存症に悩まされていました。時々フラッシュバックしたかのような突然語るのは、まるでSF映画のような、現実離れした突拍子もない空想話。尊敬する父が話す妄想狂のような話に、サムは鬱陶しさすら覚えているようでした。銀河を守る戦士として、多くの仲間と共に果ての惑星を救ったこと。銀河の奥地で緑肌の暗殺者や喋るアライグマと共に異星人と戦ったこと。今は休暇中なだけで、またいつ「組織」から召集されるか分からないこと……信じろという方が無理な話です。そんなある日、突然父ジェシーが行方不明となりました。忽然と姿を消した憧れの背中は、サムを混乱させるのに十分でした。スケボーで地面を滑りながら必死に父を探し始めるサム。その心中は余程焦っていたのでしょう。派手にコケて頭を打ち、目が覚めた時は病室のベッドに横たわっていました。父はまだ……見つかっていないようです。母と妹の顔を見ると安心したのか、サムは再び眠り落ちていきます。夜も深まった静寂の中、サムは妙な気配を感じて目を覚ましました。そこには、まるで現実離れした突拍子もない光景が広がっていたではありませんか。
f:id:ELEKINGPIT:20221009173524j:image目の前にいたのは、まるで映画の登場人物のような2人。サムの生きる「常識」が崩された瞬間だった。

 

緑肌の暗殺者に喋るアライグマ。父が話していた空想話の登場人物そっくりな2人が目の前にいるのです。アライグマと呼ぶと激怒する特徴も瓜二つ……というよりそのもの。混乱したサムは病室から逃げ出しますが、看護師と共に再び病室へ入った時は最初からいなかったかのように姿を消していました。代わりに、懐には奇妙な形のヘルメットが。父の物置にあった「空想話」のアイテムです。不可思議な出来事に疑問符が止まらないまま退院したサムは、真っ先に父の物置へと向かいました。暗い青を切り裂くように十字の赤い意匠が採り入れられた、まるでオモチャのようなヘルメット。父の話は空想ではなく、現実だったのでは? 頭に過ぎる「あの夜」がサムをヘルメットに引き寄せていました。ヘルメットを被ってみると、体はコスチュームに包まれ全身から溢れんばかりの力が湧いてきます。思ったことがそのままヘルメットを通じて現実に反映されるようで、例えば空を飛ぼうと思えば銀河の果てまで連れていってくれるほど。なんでも出来る。確信に近い感情がサムを宇宙へと飛び立たせます。グングン遠くなる町、次々と追い越される雲、段々と近づいてくる星々。空気の無い暗闇に飛び出しても全く問題ありません。勢いそのままに、サムは月へと着陸しました。驚くべきはそこに巨大な人間がいたことです。丸くて大きな坊主頭のそれは、サムの言葉に全く反応を示そうとしません。しかしただ1つ、父の行方を尋ねた時だけは違いました。巨人が指をさしたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20221009175809j:image月の巨人が教えてくれた唯一の情報。それは地球へ向けて見たこともないような大艦隊が迫っていることだった。

 

あそこに父がいるのか? あの艦隊達は地球へ向かっているのか? 巨人は何も答えません。混乱しながらもひとまず地球へ帰ることにしたサム。父の物置へ着陸すると、待っていたのは病室で出会った暗殺者とアライグマでした。2人はガモーラ、ロケットと名乗ります。そして2人は、サムに訓練を施すと言い始めました。ガモーラとロケットは、なんと父ジェシーの頼みで来たと言うのです。そして失踪の理由も知っているとのこと。ガモーラは、チタウリと呼ばれる異星人が地球へ大艦隊を向けていると言います。チタウリは今やアルティメット・ヌリファイヤーを手中に収め、その威力を地球で試そうとしていたのです。それを止めるために2人はサムの元へとやって来たのでした。なるほど月の巨人が示したのは、チタウリの大艦隊のようです。驚かされたのは、ガモーラとロケットでした。あのウォッチャーがサムに大艦隊のことを教えていた。しかも大艦隊を見たならば、座標や速度、数などがヘルメットに記録されているはず。2人は急遽計画を変更し、サムへスペースジャンプさせ、艦隊を偵察してくるよう指示します。
f:id:ELEKINGPIT:20221009181527j:imageチタウリの大艦隊までスペースジャンプしたサム。遠い銀河の果てにいたのは不気味な大軍だった。

 

本来は偵察するだけが仕事だったサム。しかし、今の自分ならなんでも出来ると確信している少年を止めることなど何人たりとも出来ないのです。艦隊へ突っ込んだサムは、文字通り一騎当千の活躍を見せます。呆気なく戦艦を撃沈させると、続け様に攻撃を繰り出してみせます。その様子はどこか楽しんでいるようにも見えました。シリアルキラーの素質があったからではありません。まるでSF映画の主人公のような戦場と、形容し難い万能感がそうさせたのでしょう。ところがそんな万能感はまもなく崩れ去ります。虎のような恐ろしい顔をした人物に捕まってしまったのです。サムには覚えがありました。父の話していた相棒、タイタンです。片目と片腕を失っていたタイタン。残った瞳には怒りと怨念が映っていました。サムの首を絞めるタイタンは、サムの父ジェシーが行った裏切りを語り始めます。いつも通りノヴァコープの仲間たちと危険な任務に挑んでいたタイタン。しかしチタウリの襲撃を受ける直前、なんとジェシーは子どもが生まれると地球へ帰ったのです。仲間の制止を振り切り、自分たちを捨てて1人だけ助かった。結果仲間は全滅。残ったタイタンも重傷を負い、チタウリに絶対の忠誠を誓う代わりに生かされたに過ぎないのです。
f:id:ELEKINGPIT:20221009223024j:image復讐鬼に変わり果てたかつての英雄タイタン。自分の人生を狂わせた元凶を殺すため、アルティメット・ヌリファイヤーで地球ごと消し去ろうとする。

 

〈物語の続き〉

「オリジン」と題された本作。実際サムがノヴァというヒーローになるオリジンを描いた作品だったのですが、タイトルに僅かながら違和感を覚えてしまいました。何故なら本作はオリジン以上の意味を持っているからです。では何故本作は「オリジン」と題されたのでしょうか? まずは本作が持つオリジン以上の意味を考えたいと思います。本作は様々な人物がサムの父ジェシーのヒーロー時代の話を語っていました。ノヴァの精鋭として多くの仲間から尊敬を集めていたこと。その中にはガーディアンズのガモーラとロケットもいたこと。そして真相は不明ながら、仲間を裏切ったことも。第1巻にも関わらずサム自身以上に掘り下げられたといっても過言ではありません。本作はサムの物語であると同時に、父ジェシーの物語でもあるのです。つまり、サムのオリジンであると同時にジェシーの物語の続きでもあるという構図なのです。この構図に見覚えがある方は多いのではないでしょうか? 主人公の物語が始まったと同時に父の物語の続きが描かれる構成。スターウォーズのEP4とそっくりではありませんか。もっともEP4の時点ではダース・ベイダーの掘り下げはほとんど行われませんでしたが、EP1〜EP6の流れを思えば本作と同じ構成であると言えるでしょう。では、何故本作はオリジンと題されたのか? ここまで来れば察しのいい方は気付いたことでしょう。サムとは「新たなる希望」なのです。ヘルメットを被るきっかけになったエピソードであると同時に、父を超える物語が始まったのです。本作は言うなれば第2部。父が誇る栄光の英雄譚が第1部ならば、それを超える物語の「オリジン」という意味を持つのでしょう。