アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ULTIMATES vol1 SUPER-HUMAN

マーベルユニバースのスタートから半世紀以上の時が経ち、積み上がった物語の山は大海の如き量となってしまいました。そこでマーベルは、新たな読者を獲得する窓口として世界観を一新したアルティメット・ユニバースのシリーズを開始。当ブログでもアルティメット・ユニバースのアイアンマンを紹介させていただきました。今回紹介するアルティメッツシリーズは、そんなアルティメット・ユニバースにおける言わばアベンジャーズのような存在です。リアリティを追求した世界観では、ややもすれば凄惨なコマばかりになってしまいがちですが、そこは今作のライターであるマーク・ミラー氏の腕の見せどころ。人によって好みの別れるシリーズとなりましたが、1度ハマったら抜け出せない底なし沼のような魅力に溢れています。邦訳版や原書で実際に読むと、あなたもアルティメッツに魅了されるかも?

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日本語版コミック

 

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〈あらすじ〉

2002年。ミュータントの増加やファンタスティック・フォーの登場など、各地で超人が増えつつあった。そこでSHIELDは対超人用のチーム「アルティメッツ」の結成を決める。新たな時代の歯車が動き出そうとしていた。

 

〈人の域を超えて〉

第二次世界大戦から半世紀以上の時が過ぎた2002年。増え続ける超人の存在に、アメリカ政府はSHIELDを設立し懸念される超人犯罪に備えていました。一方で自らの手で人の域を超えるため、大戦時代以来失われた超人血清の再現に着手。ブルース・バナー博士やピム夫妻が独自の研究を進めていました。またスターク社CEOのトニー・スタークは、パワードスーツの開発に成功。まだまだ改良の余地は残していますが、人の手で擬似的な超人を生み出したことは大きな影響を与えたことでしょう。バナー博士の生み出したハルクも、極めて危険な存在ながらハイパワーな超人です。そしてハンク・ピム博士はパートナーのジャネットとの共同研究で、遂に約18mに巨大化するジャイアントマン血清を完成させます。人工的な超人の再現が続く中、SHIELDはアルティメッツの結成を決意。超犯罪に対抗する最強のチームを作ろうと奔走していました。
f:id:ELEKINGPIT:20221108124417j:image研究を成功させ、ジャイアントマンとなったピム博士。次々と上がる人工的な超人の産声は、新時代の幕開けを象徴する音色となった。

 

北大西洋で漂流する伝説の英雄キャプテン・アメリカが見つかったのは、正しくそんな時でした。混乱するキャプテン・アメリカに、シールドのフューリー長官はアルティメッツのリーダーという地位を与え歓迎します。キャップの歓迎ムードはアメリカ中に広がり、大統領との会合まで用意されるほど。アメリカ全体が超人の復活に沸き立っていました。ところが1人これを快く思っていない人物が。バナー博士です。元々の計画では、アルティメッツのリーダーはバナー博士が担当していました。ハルク抑制に成功していたバナー博士は、アルティメッツを後方から指揮支援する予定だったのです。しかしキャップが復活した今、リーダーの座を奪われた形となってしまいました。失敗作と揶揄される超人ハルクに、事実上アルティメッツの仕事を失ったバナー博士。そんな悩みもパーティ気分なメンバーに打ち明けることすらできません。抱え込んだ形容し難いフラストレーションがグツグツと胸の中で煮込まれていきます。爆発したのは些細なきっかけでした。好意を寄せていた人物、ベティが自分以外の異性とプライベートで食事をしていた。そんな出来事すら耐えきれないほどバナー博士は追い詰められていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20221111124203j:image荒々しい雄叫びで現れた怪力の超人ハルク。バナー博士の奥に隠された悲鳴が呼び起こしたのだった。

 

アルティメッツに出動要請が出るまでそう時間はかかりませんでした。ニューヨークは既に何百人という犠牲者が出ています。アルティメッツの初仕事はメンバーの暴走というやや不名誉なスタートながら、大規模な被害が出ている以上容赦するわけには行きません。まずはジャイアントマンが巨体を活かした攻撃を繰り出します。約18mの体から放たれるパワーは並の怪物程度なら捻り潰すことさえ出来るでしょう。しかしハルクのパワーは並大抵のそれではありません。あっという間にジャイアントマンの顎を砕き倒してしまいます。救援に向かったのはアイアンマンでした。しかしアーマーのエネルギーの大部分を費やしても出来たのは時間稼ぎ程度。続いてワスプ、キャップがハルクへ挑みますが、あと一歩まで追い詰めながらキャップの左手が砕かれ敗北してしまいました。アルティメッツの力ではハルクに敵わないのでしょうか? そんな恐怖と不安に、空から轟く雷鳴が答えます。雷神ソーの登場です。北欧で雷を操る超人として知られているソーは、何度もSHIELDからアルティメッツ参加を打診されていました。ヒッピーのような風貌にオーディンの息子を自称するなど意味不明な言動は、どう見ても胡散臭い人物。ですが実際に雷を操る技を見せられれば誰だって信じざるを得ません。轟雷と共に振り下ろされた鉄槌は紛れもなく神そのものでした。
f:id:ELEKINGPIT:20221111214226j:image空を切り裂く稲妻がハルクを地に落とした。それでも怪力の超人を止めるには至らない。

 

〈人を超えるということ〉

今作では多くの人物が人間という枠を超えようとしていました。巨大化血清で身体の大きさを変えたジャイアントマン、人の力を超えた新たなキャプテン・アメリカを目指したハルク、鎧を纏うことで人間の力の拡大を図ったアイアンマンetc……それぞれが様々な角度で超人になろうとしています。そして結果はアルティメッツというチームが象徴している通り。しかしだからこそ強調されたのは「内面」でした。生物的なヒトの力は超えられても人の子である以上アルティメッツは人間なのです。キャップ復活からフラストレーションを貯め続け暴走に至ったバナー博士をはじめ、ピム博士とジャネットの熾烈な夫婦喧嘩も小さなイヤミがきっかけでした。まるで現実の私たち、いや、それ以上に悪い面が強く出ているよう。人を超えた力を持つということは大きな自信へと繋がり、無自覚な傲慢さをも生んでしまった。それが今作で示されたようでした。大いなる力には大いなる責任が伴う。人を超えるということは、それだけ力の振る舞いを考えねばなりません。まだ超人が当たり前のように存在しない世界で、アルティメッツが力の振る舞い方に気付いた時こそ「超人」となる瞬間なのでしょう。