アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ULTIMATE X-MEN vol3 WORLD TOUR

多くの死線をくぐり抜けてきたX-Men。既に戦士としての経験もあり、頼もしく見えてきた頃合です。しかしX-Menの大半は戦士である前に20歳にも満たない若者。時折若者らしい一面もあり、それ故に迷いを捨てきれない部分も。そしてこれまで教授として、親のように接してきたエグゼビア自身も悩んでいたようです。
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〈あらすじ〉

修学旅行で海外へ出発したX-Menに衝撃の一報が届く。エグゼビアの子どもデイビッドが行方不明になったというのだ。そして同時に消えたコロッサス。2人の身に何があったのか?

 

〈超人が生きる世界で〉

ウェポンXの事件からしばらく後、エグゼビアはミュータントの自説を綴った本を出版しました。その凱旋もかねてX-Menはイギリスなど各地へ旅行することが決まります。もちろん単なる海外旅行ではありません。教授は全員に課題を与え、X-Menとしての使命を忘れないよう務めさせます。与えられた課題はこうでした。48時間は自由行動を良しとする代わりに、街で見かけた犯罪行為等を防止するヒーロー活動を行うこと。48時間後に全員集合し、活動をそれぞれ報告すること。イギリスでも変わらず起きる犯罪行為を次々と止め、住民からは感謝の声がかけられるようにさえなりました。課題の効果は確かにあったかもしれない。生徒達がそう実感した48時間後、X-Menの集合場所ではミュータント反対デモが起こっていました。聞くに耐えない罵詈雑言が若者へ浴びせられ、時に火炎瓶さえ投げられるほど。アメリカでも見慣れた光景ですが、少しずつ積み重ねた自信を一瞬で崩してしまう出来事でした。
f:id:ELEKINGPIT:20230502114231j:image醜悪な差別運動を目の当たりにするX-Men。それまでの活動を否定するように不条理が降ってくる。

 

そんな時、合流したエグゼビアにある一報が届きます。ミューア島から子どものデイビッドが逃げ出したというのです。ミューア島はエグゼビアの元パートナー、モイラ・マクタガード博士がミュータント研究を行っている島です。そこではエグゼビアとモイラ博士の子どもであるデイビッドが暮らしていたのですが、これが居なくなったというではありませんか。デイビッドは他人に乗り移るという危険かつ強力な能力の持ち主。恐らく既に別の誰かへ乗り移っており、追跡は困難を極めるでしょう。モイラ博士はサイキックによる思念追跡でしか行方を追うことは出来ないと考えたのです。北極圏に接しているというミューア島へ向かったX-Men。そこには別のミュータントもいました。イギリスの国防組織STRIKEから派遣された、ベッツィ・ブラドック捜査官とダイ・トーマス捜査官です。ベッツィは同じく強力なサイキックのようで、デイビッドの思念追跡のために派遣されました。しかしやはりと言うべきかエグゼビアの能力は桁違いです。2人の捜査官が自己紹介をしているうちにデイビッドの居場所を突き止めたのです。予想通り他の誰かと体を入れ替えていたデイビッド。凶暴な敵意を剥き出しにX-Menと戦いを挑みます。果敢に戦うウルヴァリン。しかし敵は能力を駆使したトリッキーな戦いを披露します。アダマンチウムのクローをひらりと避け、すかさずじっと目を合わせました。たった一瞬で勝負はつきます。なんとデイビッドはウルヴァリンの体に乗り移ったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230502120820j:imageウルヴァリンを乗っ取ったデイビッド。不死身の肉体、アダマンチウムの鉤爪、最強の格闘能力を手に入れたのだ。

 

同刻。サイクロップスとマーベルガールはロシアへ向かっていました。コロッサスが行方不明になったのです。何者かに攫われた可能性も考えられ、2人はコロッサスの思考から追跡を始めていました。ところがコロッサスは呆気なく、どこにも怪我なく見つかりました。話を聞くと、なんとコロッサスは自らの意思でX-Menを辞めたと言うではありませんか。これまで苦楽を共にしてきた仲間の意外なセリフにサイクロップスもマーベルガールも言葉が出ません。コロッサスは続けます。そもそもX-Menの活動に意味があるのか? 自分は能力を抑えれば一般人同様の生活が送れるし、大衆の偏見や憎悪、差別にあわなくて済む。家族と平穏に暮らした方がよっぽどマシだろう。それにヒーロー活動ならばSHIELDからアルティメッツというチームも現れ、ますますティーンエイジャーが無理に戦う必要も無くなりました。更にコロッサスは教授の口から直接、とある事実を聞かされていました。マグニートーは生きている。ワシントン襲撃事件以来エグゼビアの手で殺したと思われていましたが、実はひっそりと生きていたのです。しかもエグゼビアの能力で脳を書き換えられ、人格が変わった状態で。これでは洗脳と変わりなく、またエグゼビアが自分たちの人格にさえ干渉している可能性もどれほど考えても排除しきれません。干渉してもしなくても、どちらも証明する手段はないのですから。教授を信じられなくなった自分はX-Menを続けることができない。今の自分はX-Manのコロッサスではなく、ただのピーター・ラスプーチンなのだ。サイクロップスらの話を聞いてもその考えは変わらず、2人は去るしかありませんでした。そんな時です。潜水艦沈没のニュースが報道されます。最初は無視していたピーター。しかしとうとうコスチュームを纏い海底へ向かったのです。アイアンマンのサポートがあったとはいえ、アルティメッツでは救助が間に合わなかったことでしょう。人々を改めて救ったことで、ピーターは自身の居場所がX-Menにあることを再び実感します。
f:id:ELEKINGPIT:20230502123039j:image人々に感謝され、自分の居場所を再確認したコロッサス。誰よりも優しい心の持ち主だからこそ他人のために怒り他人のためにX-Menへ戻ってきたのだ。

 

コロッサスがX-Menに合流しようとしている頃、エグゼビア達はデイビッドを見失っていました。ウルヴァリンに乗り移ったデイビッドをどうにか再び引き剥がすことには成功しますが、次に誰に乗り移ったのか分からなくなったのです。そんな時、ベッツィ捜査官からドイツでデイビッドを発見したと連絡が。エグゼビアは早速ベッツィと合流しますが、その思考を読み取るとなんとベッツィの中にデイビッドが潜んでいるではありませんか。巧妙な隠れ方をしていたようで、エグゼビアもそれまで全く気付きませんでした。更にデイビッドはダイ・トーマス捜査官を殺害したと告げます。ベッツィの命もデイビッドが握っている状態。対話による解決の道を探りますが、デイビッドを刺激するのみで埒が開きません。その時、X-Menが到着しました。デイビッドは乗っ取ったベッツィの能力を使いエグゼビアとモイラ博士を人質に取ります。一気に緊張が走るX-Men。ベッツィ含め3人の人質を取られた状態で戦うことが出来るのでしょうか?
f:id:ELEKINGPIT:20230502141439j:image剥き出しの敵意で再びX-Menに挑むデイビッド。ベッツィの能力も相まってこれまで以上の強敵になっていた。

 

X-Menの意義〉

作中ではコロッサスの他にエグゼビア教授もX-Menの存在意義について悩むシーンがありました。若人を戦場へ送り出し、時に大きな負傷して帰ってくる。そしてそんな危険なことをしても世界はまるで変わった気がしない。更にスーパーヒーローのチームもアルティメッツが誕生し、ヒーロー活動に無理にこだわる必要は以前より薄くなったかもしれません。しかしコロッサスもエグゼビアも、結局はX-Menを続けることとなります。2人が出した結論はそれぞれ違いますが、今回は私自身もX-Menの意義を考えたいと思います。

X-Menの大きなテーマの1つに差別を挙げなくてはなりません。スタン・リー氏がX-Menを想像した頃は公民権運動が盛んになっており、エグゼビア教授とマグニートーのキャラ付けは特に活気のあった活動家であるキング牧師マルコムX氏を反映しているかのようでした。そしてアルティメットユニバースでも強烈な差別があり、それらに対する反対運動はまだまだ黎明期。ほとんどがX-Menが担っている状態です。まだまだミュータント差別が「当たり前」の時代、アルティメッツでさえミュータントに対する差別発言をしていたほど。X-Menやエグゼビアが夢見ているのはそんな「当たり前」を変えることです。しかしどれほど虐げられた人々がいても、マジョリティにそれが認知されなければ差別をなくすことは難しいでしょう。日本でも性別、職業、国籍、人種、肌の色、障がい、個人のアイデンティティ等を理由に差別をする人はまだまだ多いのが現状です。しかしそれらは知られているからこそ、差別として反対し、抗議することが出来るのです。一方マジョリティに知られていない差別は(恐らくまだまだあるでしょう)差別として取り扱うことさえ出来ないでしょう。性的マイノリティを嘲笑することに誰も違和感を持たなかった時代があったことはその象徴。ミュータント差別も、誰もミュータントを差別している自覚がなく、また差別されていることをまだまだ知られていないからこそ醜悪な行いが繰り返されているのです。X-Menはそんな現状を伝える大変重要な意義を担っています。ミュータント差別を無くすには膨大な時間と労力が必要でしょう。エメット・ティル氏が惨殺され公民権運動が起こって以来、未だ黒人差別が無くなっていないように、完全な根絶はX-Menの全員が生きているうちには実現しないかもしれません。しかし次に虐げられる世代を少しでも減らすため、X-Menは必要不可欠なのです。