アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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CAPTAIN AMERICA vol2 EXTREMISTS

自由と平等を唱え世界の頂点に立つ国家、アメリカ。しかしその歴史は決して輝かしいものばかりではありません。今作はそんなアメリカの暗部に焦点を当てた物語となっています。星条旗を纏うキャップだからこそ無視する訳にはいかないアメリカの影。今作も前回同様に大きなエネルギーを感じる意欲作です。
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前回はこちらelekingpit.hatenablog.com

 

〈あらすじ〉

イナリ・レッドパスが殺された。SHIELDのエージェントでキャップとも友情を育んでいた人物の死にキャップは事件の調査を始める。だがそれは、国家転覆計画の序章に過ぎなかった……!

 

〈誰がための自由〉

前回のニューディールにて、自らをスティーブ・ロジャースと明かしたキャップ。以来ブルックリンのアパートで生活を送り、一般人と出来るだけ同じ目線に立とうとしていました。時には強姦魔を殴り倒し、時には街のギャングに話し合いを持ちかけ、地域に根差した暮らしをしていたのです。そんな時に届いた訃報。SHIELDのエージェントにしてキャップとも親交の深かったイナリ・レッドパスが死亡したという知らせです。イナリは時に迷うことがあっても絶対に妥協しない精神を持ち、その死はキャップへ大きな衝撃を与えます。さらに問題なのが、イナリの死に不明な点が多いことです。SHIELDのエージェントならば死亡することも決して少なくはありませんが、死亡時の記録を残すブラックボックスが行方不明となっており、何者かが関わっていることは確かでしょう。自ら捜査を始めたキャップが最初に感じた違和感は、遺骨でした。周囲に争った形跡はなくただそこに遺骨が転がっているだけですが、それにしては遺骨が綺麗すぎるのです。争ったなら傷跡があってもおかしくはないし、そもそも遺体ではなく遺骨しかないこと自体おかしな話でしょう。キャップが出した結論は、この遺体がイナリでは無いということでした。イナリならば元々あった傷跡が骨にも残っているはずなのです。推理の答えは予想以上に早く判明します。一通り調査を終え帰路に着くキャップ。しかし森を抜けようかという辺りで敵の襲撃にあったのです。周囲を焼き付くし火の海にまでしたヴィラン。偶然とおりがかったスクールバスを人質にし、キャップの目の前で虐殺しようとさえしていました。その瞬間、旋風が火だるまの森を覆います。そして意図も容易く風がヴィランを殺したのです。風はイナリが呼び起こしたものでした。キャップの予想通りイナリは生きていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230513012945j:image生きていたイナリ。しかしその様子は以前とまるで違うようで……

いくら敵が子どもたちを人質に取ったテロリストでも無闇に殺す必要はなかったはず。キャップはイナリを強い言葉で責めます。しかしイナリはそれを意に介してさえいません。これは必要な犠牲だと。あっさりと子どもたちを解放すると、今度は自らの能力でキャップと戦います。イナリは周囲に竜巻を起こし、強風でキャップを地面に叩きつけ、立ち上がることさえできない暴風であっという間に追い詰めました。アメリカという国のため、自由と平等を掲げて戦い続けてきたキャップ。しかしその姿にずっとイナリは違和感を覚えていたのです。その自由とは一体誰のため? アメリカ人が唱えてきた自由とは、平等とは、平和とは、誰のために存在しているのか? イナリの怒りがさらに沸き上がります。イナリはスー族と呼ばれるネイティブ・アメリカンの1人。陽の光さえ当てられない過酷な差別をずっと耐えてきたのです。確かにアメリカは自由と平等の国であろう。しかしそれは、アングロ・サクソンの男どもが、狭義の白人男性にのみ適用させた概念ではないか。この風を操る能力は、シャーマンである祖父を通してスー族の神ハオカから授かったもの。それはイナリの怒りを肯定するかのようでした。ある時は一族の存在さえ否定され、ある時は他の一族とごちゃ混ぜにされ、スー族というアイデンティティと誇りを何世紀にも渡って奪い続けた。どれほど追い詰めても立ち上がろうとするキャップへ、イナリは差別という真実を啓蒙しようとあるものを取り出します。幻覚剤です。ボロボロのキャップへ薬を飲み込ませ、イナリは自らの計画を成就させようと立ち去りました。
f:id:ELEKINGPIT:20230514113947j:image幻覚剤を無理やり飲まされるキャップ。アメリカに絶望した1人の人間が、遂にキャップの喉元にさえ手をかけた。

 

キャップが幻覚に苦しむ間、イナリは計画を進めていました。能力の代償で全身に異常をきたしていますが、ここで留まる理由にはなりません。マイアミ上空に現れたイナリは、たちまち大嵐を起こします。自らの力を政府と世の中へ知らしめ、差別撤廃の要求を突きつけようと考えているのです。もし要求が飲まれなければ、最悪の場合国家転覆さえも視野に入れているよう。しかし廃墟の山となったマイアミで、再びキャップが立ち塞がります。自らを苦しめる幻覚に苛まれていたキャップでしたが、仲間の助けを借りて再起したのです。さらにキャップはニック・フューリーから全ての真相を聞かされていました。イナリはかつて、任務の途中瀕死の重傷を負い生死をさまよったことがありました。その時に自身の部族に伝わる風の神へ祈ったのです。以来風の能力を得ましたが、その代償として細胞の分子構造が崩壊するという重すぎる副作用を背負っていました。イナリはその弱点を克服するため、かつてSHIELDが作ったキャプテン・アメリカのクローン施設を使い自身のクローンを作成、体が崩壊する前に意識を移し続けていたのでした。キャップが物語の最初に調査した遺体もこのクローンの1つだったのでしょう。そうまでして戦い続ける理由を知るキャップは、だからこそイナリの計画を完全にへし折らねばなりません。キャップは風の神ハオカに対抗するため、北欧より伝わる雷神ソーに協力を求めます。神話さえ異なる神々の戦いにアメリカの命運は託されました。
f:id:ELEKINGPIT:20230516011212j:image出撃する雷神。風吹く先にはキャップが手も足も出なかったスー族の神が待っている。

アメリカの血脈〉

アメリカには神話がない、という話があります。確かに建国から歴史が浅く、また建国の立役者となった人々のほとんどがヨーロッパからの移民です。北欧神話や日本神話のような言い伝えが生まれることなく現代まで時が進んでしまったのでしょう。しかしアメリカには神話がありました。それが今作に登場したような、ネイティブ・アメリカンの各神話です。ネイティブ・アメリカンと一言でまとめても、そこには多様な一族が存在し、それぞれに神を持っていました。アメリカ合衆国を建国するにあたり、これらの先住民を退け神話を消し去った歴史があります。現在、アメリカには多種多様な人種が暮らしています。アングロ・サクソンだけではなく移民をルーツに持つ人々、黒人やアジア人など枚挙にいとまがありません。そしてその人種、果ては個人まで各々が神話を持っていることでしょう。これらを1つたりとも退けず、全て受け入れることこそがアメリカに求められる「神話」ではないでしょうか? 多様な神話全てを同居させ、各々の神々をリスペクトする。世界の頂点に立つ国だからこそ新たな神話として全ての神を尊重することが何よりも大切なのかもしれません。