アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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UNCANNY X-MEN(2012)vol2 BROKEN

ミュータントのタカ派として、革命を行おうと立ち上げた新生X-Menアベンジャーズとの争いやセンチネルの襲撃など、開始早々八方塞がりな印象を受けます。しかし八方塞がりだからこそサイクロプスは革命を決意したのです。決して一枚岩ではないミュータントの中でも特に過激派となったサイクロプス率いるX-Men。その試練は山のように積み重なっていました。
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日本語版関連コミック

 

前回はこちらelekingpit.hatenablog.com

 

〈あらすじ〉

アベンジャーズとの争いを切り抜け、若エンジェルやカッコーズを新たにメンバーに加えたX-Men。しかしマジックの能力が暴走、学園のメンバー全員を地獄界リンボへと召喚してしまう。さらに学園の新入生へ突きつけられた差別の現実とは?

 

〈現実〉

X-Menの1人、マジックはテレポートの能力者でした。しかしその原理は他の同様の能力者と違い、地獄界リンボを経由して行われるもの。どちらかというと魔法由来の能力で、リンボとは密接な関係にありました。しかしその能力が突如暴走、ドクターストレンジへ助けを求めようとする直前に自分の意思とは関係なく発動してしまいました。学園のメンバー全員がリンボへと送られたのです。獄炎が燻る中、大勢の悪魔達に囲まれるX-Men。さらにリンボの大悪魔ドルマムゥがマジックをダークチャイルドへと変身させ操ろうとします。戦闘経験の無い生徒達は怯えるばかり。マジックも決死の抵抗でドルマムゥへと立ち向かいますが、このままでは全滅は必至でしょう。マジックは後にこの事件の原因を推理していました。リンボと繋がりを持つ自分は、フェニックス・フォースの影響でリンボ全てを統べる存在となっていた。しかしそれが壊れ能力が弱体化、ドルマムゥに付け入る隙を与えたのだろうと。そこでマジックは奥の手を使います。弱体化したとはいえリンボ全体の主導権を握っているのはマジック自身。そこで体内にリンボ全体を取り込み、全員を脱出させました。
f:id:ELEKINGPIT:20230521001228j:imageリンボに閉じ込められるX-Menたち。有象無象の悪魔とドルマムゥはティーンエイジャーにも容赦しない。

 

この件で最もショックを受けたのはファビオでした。ファビオは能力が覚醒してわずか数日しか経っておらず、過酷な戦いに参加する覚悟を決めるなんて考えもしないうちに死線をくぐり抜けたのです。リンボの悪魔がすっかりトラウマとなり、ファビオはX-Menを脱退することに。恐ろしい戦いに巻き込まれるなら元の生活に戻った方が何倍もマシだと考えた結論でした。暖かく迎えてくれる家族たち。ところがファビオがミュータントとカミングアウトとした途端、その態度は豹変してしまいます。サイクロプスに拉致されたと考えていた家族は、ミュータントとして覚醒したという事実を一向に受け入れようとしません。さらにファビオらの前にSHIELDのエージェント達が。同じくミュータントでありながらSHIELDのエージェントとなったダズラーが、ファビオを拘留してサイクロプスらの居場所を尋問しようとしていたのです。ミュータントだからというだけでダズラーへ発砲する父、そのダズラーも自分を良くしてくれたサイクロプスらを酷く悪し様に語るではありませんか。従来の世界で盾となった組織に幻滅し、居場所だったはずの家族へ裏切られ、ファビオはサイクロプスの訴える意味が理解出来ました。この世界ではなんの疑問も持たれず差別される。変えなくては。自らの新たな居場所を求めるように、助けに現れたサイクらX-Menへと再加入します。
f:id:ELEKINGPIT:20230521005444j:image拘束されたファビオを助けるX-Men。脱退したはずの自分を助けに来た元仲間へ、残された唯一居場所を見出す。

 

X-Menは新たにハイジャックというミュータントを加えていました。ハイジャックは新世代ミュータントの1人で、乗り物ならば車や戦闘機、果てはヘリキャリアまで自在に操れる能力者です。少しずつメンバーを増やし、着実に革命へと近づきつつあるX-Men。そんなある日、サイクロプスはある情報を手に入れます。なんと民衆が大統領へミュータント差別反対のデモ運動を行っているというではありませんか。さらに嬉しいことに、民衆は多くがサイクロプスX-Menを支持している様子。遂に若者へ啓蒙活動が伝わったのでしょうか? 罠である可能性も排除できませんが、このデモが意味のあるものだと信じてサイクロプスらはすぐさま移動、民衆へ激励の言葉を送ろうとします。しかしその時でした。一部の民衆から変異したのは、未知のセンチネルです。野次馬的に集まっていた群衆をかき分け、巨大な拳が襲い掛かります。この新たなセンチネルは金属を一切含んでおらず、更にX-Menの戦闘データ全てを複合し、ちょっとの攻撃ではビクともしないほど堅牢な防御力を手に入れていました。
f:id:ELEKINGPIT:20230521012212j:image群衆をおしのけ現れたのは、新型のセンチネル。しかしこれを派遣した人物は謎のベールに包まれたままだった。

 

〈痛みへのカウンター〉

ファビオが味わったミュータントの差別。前回のセンチネル襲撃も含め、自分たちを取り巻く環境はしっぽ巻いて逃げても解決できないほど深刻に根付いたものだと体感したことでしょう。日常を欲した青年さえ革命を求めたのです。実際サイクロプスらを支持する声は少なからず存在していることもまた事実。革命を求める声は確実に上がっていると考えていいでしょう。では、人々が革命を求めるとはどういうことでしょうか? 世界で最も有名なフランス革命を例に考えていきましょう。フランス革命の場合、原因は主に2つありました。産業革命に伴いイギリスの安価な生産品が大量に流入し、フランス経済へ大打撃を与えたこと。そして不景気の中でも経済力を持ち始めたブルジョワの第三身分(いわゆる市民)に人権意識が芽生えたことです。その日暮らしが精一杯の生活では自らの権利を鑑みる余裕さえないでしょう。しかし明日の食事を心配する必要がなくなれば、自らが受ける不当な扱いについて思案をめぐらせるのはごく普通の流れだったに違いありません。要は人々は気付いたのです。自分たちの痛みに。人間は痛みを簡単に我慢できる生き物ではありません。社会不安と苦境、そして何より自らが受けた痛みを跳ね返すかのように革命は起こったのです。これはミュータントも同様でしょう。長年にわたる差別、フェニックス・フォースの事件でより強まった憎悪、分裂したX-Men……ミュータントやそれを支援する人々にとって、蓄積した痛みが爆発してもおかしくないタイミングなのです。しかし革命には多くの血が流れます。フランスでは革命期に戦争が勃発し、またロベスピエールによる恐怖政治で多数の人間が不当に処刑されてしまいました。果たしてサイクロプスはどこまで犠牲を考慮しているのでしょうか? 被差別者だからといって新たな戦争を呼び起こすことは絶対に許されません。サイクロプスの革命の行方が悪い結果にならないことを祈るばかりです。