スターウォーズの象徴的な悪役といえばダース・ベイダーでしょう。感情の読み取れない無機質な仮面に独特な呼吸音、自身に歯向かう部下へ容赦なく行われたフォースチョークに恐怖した方も多いのではないでしょうか? また新三部作(EP1~EP3)で描かれたダースベイダー誕生の経緯は誰もが納得せざるを得ないものでした。しかし怒りと憎悪に支配された彼が何故冷酷無比な殺戮マシーンと生まれ変わったのか、ダース・ベイダーとしてシスに仕えてから何があったのか、映画だけでは描かれていない部分も多いはず。
今回紹介する作品は、DARTH VADER:IMPERIAL MACHINE。スターウォーズEP3:シスの復讐、ムスタファーの戦いで傷ついたアナキンが生命維持装置を取り付けられ、パルパティーンからパドメの死を知らされた直後から物語が始まります。愛する人の死から闇へ落ちたかつてのアナキン・スカイウォーカー。燃え盛る憎悪を宿した彼が更なる闇へ向かう様を見届けましょう。
DARTH VADER vol1 IMPERIAL MACHINE
日本語版コミック
〈あらすじ〉
遠い昔、はるかかなたの銀河系で…
パドメが死んだ! 愛する人を失い、父と慕う人を裏切ったかつてのジェダイ・ナイト、アナキン・スカイウォーカーに残された居場所は暗黒面しかなかった。
絶望の最中、恐るべきシスの皇帝パルパティーンは最後の試練を言い渡す。己の憎悪でライトセーバーを紅く染め上げるのだ。
怒り狂う黒衣の怪物は銀河を駆ける。残るジェダイを抹殺するために……
〈ダースベイダーの誕生〉
先程も述べた通り、物語はEP3の直後からスタートします。怒りのあまり周囲をフォースで吹き飛ばし、皇帝をも殺しかねない勢い。しかし皇帝はピシャリと言い付けます。「そなたの怒りが選んだ結果だ」と。そしてベイダーにシス最後の試練を言い渡しました。紅いライトセーバーを作ることです。生命維持装置に生かされている体にもかかわらずこのパワー。シスにとってこれを利用しない手はない。
喪失感も冷めやらぬうちに皇帝はベイダーを連れて、銀河共和国の首都コルサントの中枢へ連れていきます。そこにはジェダイの象徴、ライトセーバーを処分するクローン兵の姿が。その光景を見つめながら、皇帝はシスのライトセーバーが何故紅いのかを語り始めます。それはライトセーバーの源であるカイバークリスタルが、暗黒面のフォースによって血の涙を流しているからなのだそう。シスのライトセーバーはジェダイから奪ったそれのカイバークリスタルに暗黒面のフォースを浴びせて作り上げているのです。つまり、ベイダーがシスのライトセーバーを手に入れるにはオーダー66から生き延びたジェダイを探さなければなりません。
処分されるライトセーバー達。その中にはマスターヨーダの物も。
〈ライトセーバーを巡って〉
そんなダースベイダーが見つけ出したジェダイの生き残りは、キラク・インフィラと呼ばれる人物でした。彼はバラシュの誓いという修行のため外縁帯の星へ身を隠しているのです。バラシュの誓いとはフォース以外の全てから解放されるため、ジェダイとしての活動から一切手を引くというもの。彼自身ジェダイの粛清(オーダー66)に気付いてしましたが、誓いのためいかなる行動を起こすことも禁じていました。
ベイダーの接近を知りながらバラシュの誓いを続けるインフィラ。灰色の肌と胸の大きな傷が、彼もまたアウトローなジェダイであると物語る。
ベイダーと対峙するインフィラは彼に「モンスター」「クリーチャー」という言葉を何度も浴びせていました。最初はその容貌を見てそう言ったのかと思いましたが、どうやら違う様子。インフィラ曰く、ベイダーのフォースは確かに暗黒面だがシスのそれではないとのこと。つまりダースベイダーのフォースは暗黒面に落ちながらも、未だ迷いが断ち切れていないのです。ジェダイではないがシスでもない。ならばダースベイダーは何者なのか? 彼にその答えを与えるのもまた皇帝パルパティーンしかいないでしょう。
大勢の無関係な人々を巻き込みインフィラのライトセーバーを奪うベイダー。その姿はジェダイか、怪物か。
こうして他者のライトセーバーを奪い取ったベイダーはシス最後の試練を開始するためにムスタファーへ向います。カイバークリスタルに暗黒のフォースをあびせるには、自身の憎しみが最も高まるであろう場所で行う必要がありました。しかし対するカイバークリスタルはジェダイマスターが使っていたもの。易々と自分のものにできる代物ではありません。ダークサイドのフォースを浴びせるつもりが逆にライトサイドのフォースを浴びたベイダー。その脳内は、アナキンが再びジェダイへ帰還するヴィジョンが映されていました。皇帝を裏切り、父と慕うオビ=ワンへ許しを乞う自らの姿に、ベイダーはそれが「軟弱な選択」だと悟ります。憎しみに包まれた自分にそんな選択はありえない。憤怒の火を絶やすわけにはいかない。ベイダーは全身全霊を持って憎悪のフォースを発します。
母の遺体、愛するパドメ、皇帝……失われたものへの渇望と失ったことへの憎しみが、真紅のライトセーバーを生み出した。
〈皇帝パルパティーン〉
ダースベイダーの視点で見ると、皇帝はまるで神のような存在だと感じました。パドメの死を知らせ共和国の終焉を目の当たりにし、アナキン・スカイウォーカーの生きる目的と逃げ道を奪い取ります。そしてダースベイダーとしての目標を与えたのです。ベイダーにとっては正に与え奪う存在そのものでしょう。自分の居場所を唯一提供してくれる人物でもあり、彼がパルパティーンに忠義立てるのは当然の成り行きだったと言う他ありません。任務を言い渡す時も命令口調ではなく、あくまで「そなたの力が必要なのだ」とどちらかというと皇帝が乞う形式。自由に何よりも重きを置くアナキンにとっても居心地のいい場所だったのは間違いないでしょう。