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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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STAR WARS PURGE THE TYRANT'S FIST【2022年2月の私的ベストアメコミ】

レジェンズ(平行世界)のシスの復讐直後を描いたSTAR WARS PURGEシリーズもいよいよラストとなりました。これまで数々のジェダイを粛清(purge)してきたダース・ベイダー。怒り狂った黒衣の怪物は、粛清を重ねる毎に冷静に、そしてより冷酷な殺戮者となりました。より暗黒面に近づきつつあるベイダーが行った最後の粛清とは?
f:id:ELEKINGPIT:20220215124436j:imageSTAR WARS PURGE THE TYRANT'S FIST#1

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〈あらすじ〉

遠い昔、はるかかなたの銀河系で……

帝国にとって試練の時が来た。惑星ヴァクリンが大規模な反乱を起こしたのだ。

恐るべきベイダー卿は反乱を率いる3人のジェダイの内、2人を始末した。だが最後の1人チョナ・ベネの粘り強い抵抗に苦戦を強いられる。

ジェダイ伝説の根付くヴァクリンに正義の鉄槌を。帝国の粛清は始まったばかりだ……

 

〈例え暴君の拳でも〉

惑星ヴァクリンは古くからジェダイ伝説が根付く星でした。街の中心にはジェダイ銅像が建てられ、町外れには驚くほど多くのジェダイ寺院や遺跡がある星に、粛清から逃れたジェダイが多く行き着いたのは当然だったのかも知れません。しかしシス卿が治める帝国にジェダイは脅威でしかありません。更に粛清から逃れたジェダイパルチザンを率いて蜂起、帝国軍に宣戦布告します。情報をキャッチした帝国はダース・ベイダー率いる大軍を送り込みました。皇帝の期待通りベイダーは1人を捕虜に、もう1人を処刑。ヴァクリンとの戦いは帝国有利でスタートします。ところがヴァクリン最後のジェダイ、チョナ・ベネの優れた戦略に苦戦を強いられる場面から物語が始まりました。
f:id:ELEKINGPIT:20220216101436j:image帝国軍に奇襲を仕掛けるチョナ・ベネ。住民からの信頼も厚く、パルチザンを率いる実質的なリーダー。

 

チョナ・ベネの策略で部隊を半壊させられたベイダーは、捕虜のジェダイを拷問して居所を喋らせようとします。しかしそのタイミングでチョナ・ベネが襲撃。捕虜を盾にどうにか難を逃れますが、帝国軍は前線基地を放棄せざるを得なくなるほど追い込まれてしまいました。数を減らす度により強固になるパルチザン。ならば圧倒的な物量による砲火で鎮圧しようとベイダーは提案しますが、皇帝の許可は得られません。皇帝としてはパルチザンを殲滅し惑星全体を屈服させることで、帝国の圧倒的な力と統治を銀河中に知らしめたかったようです。そこでベイダーはパルチザンの精神的支柱、戦意を徹底的に潰す作戦を執ります。ジェダイ伝説を根こそぎ破壊するのです。
f:id:ELEKINGPIT:20220216112017j:imageジェダイ銅像を砲撃し粉々にする帝国軍。暴君の拳は街のシンボルをも砕く。

 

町周辺のジェダイ寺院や遺跡を燃やすのはもちろん、ジェダイにちなんだ名も改名させるほどの徹底ぶり。また帝国が運営する学校を設立し、子どもたちにはジェダイを悪と徹底して教育させます。周到すぎるジェダイ否定に、町でジェダイの名を口にする人々は徐々に徐々に減っていきました。更にチョナ・ベネが潜んでいるとされる洞窟を爆撃して炙り出すことに成功。ついにベイダーvsチョナ・ベネの決闘が始まります。しかしこの決闘すら帝国の策略でした。洞窟の地中に溜まっていた毒ガスが爆撃により噴出、防護マスクのないチョナ・ベネはじわじわと体力を削られ続けます。決着は予想以上に早く着きました。
f:id:ELEKINGPIT:20220216113933j:image毒ガスに苦しむチョナ・ベネをあえて放置するベイダー。誇り高きジェダイの騎士最期の姿は、市民に助けを乞うばかりだった。

 

〈帝国の拳〉

ヴァクリンの歴史からジェダイを粛清することでその征服を試みたベイダー。物語の終盤では日常生活に溶け込んだ帝国軍と、もはや誰も訪ねなくなった粉々のジェダイ寺院が映し出されていました。ヴァクリン市民にとっての「ジェダイ」は完全に殺されてしまったのでしょうか?

ここで注目したいのは、帝国とジェダイの歴史です。帝国は樹立からわずか20年程度で壊滅してしまいました。一方ヴァクリンに根付くジェダイ伝説は1000年以上もの歴史を有します。例えば白雪姫を思い浮かべてみてください。白雪姫はおとぎ話として多くの人が知る物語ですが、もし「あの物語は現代の価値観にそぐわない」といった理由で白雪姫に関する書籍や記録が全て処分されたとして、皆さんは白雪姫を忘れることが出来るでしょうか? そんな白雪姫すら1000年の歴史は持ちません。増してそのような出来事があれば誰も口にしないだけで覚えているはず。人々の心理を変えるのに恐怖と暴力だけでは不十分なのです。

では何故ベイダーはそのような行動に走ったのでしょうか? 私は「パドメを忘れるため」だと考えています。正確には、心の中のパドメを殺した行動と同じ事をヴァクリンでも行ったと考えます。ある帝国士官はベイダーを「恐怖なしでは物事を語れないのでは」と見ていました。ベイダーは恐怖をもって部下と接していたことが分かります。ベイダーがこのような行動を初めてとったのは? ムスタファーにてパドメの首を絞めた時です。パドメが裏切ったと勘違いしたアナキンは、その首を絞めて自分の言うことを聞かせようとしていました。後に皇帝からパドメの死を聞かされた時、アナキンはこの光景が思い浮かんだことでしょう。それがきっかけで死んだのだと。人は大いなるトラウマを抱えると、そのストレスから心を守るためにその出来事を忘れることがあります。ベイダーが愛する人を手にかけたというトラウマから自らを守るために、パドメを殺したと考えても大きく飛躍はしていないでしょう。ヴァクリンに行ったことはまさにこれと同じ。ヴァクリン市民にジェダイ=悪、ジェダイ信仰=恐怖という記憶を植え付けたのです。しかし先程も述べた通り人の心を変えるのに恐怖では不十分。個人ではその方法で忘れさせることも出来るでしょうが、集団に同じことをしても結果は違うでしょう。今のダース・ベイダーは、どれほど恐怖で支配しても自分しか見えていないのです。