アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ULTIMATE POWER

よりリアリティある世界を目指し構築されたアルティメットユニバース……とは言うものの、アルティメットユニバースも広義のマーベルユニバースの1平行世界に過ぎません。ファンタスティック・フォーがゾンビユニバースを観測したように、既にアルティメットユニバース側もそれは感知しています。今作はそんなアルティメットユニバースが他の平行世界と本格的に関わる意欲作です。3人がリレー形式で執筆しており、9話という長尺から繰り出される展開は驚きの連続。他の平行世界ともクロスオーバーしており、MARVELユニバースの懐と世界の広さを改めて思い知らされる1作でした。
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〈あらすじ〉

岩石人間のシングを元に戻すため、あらゆる方法を試みたリード・リチャーズは、頭を抱えていた。リードはその解決策を違う世界の地球へ求めた。しかしこの仲間を思う純粋な気持ちが、最悪の悲劇を生み出すとは誰も予想していなかった……

 

〈誰が誰を見張るのか?〉

リードは悩んでいました。岩石人間シングの体を元に戻すと約束したものの、その方法をいくら探しても見つからないのです。世界一の天才である自分が見つけられないなら、この世界の誰が探しても見つかるはずがないでしょう。リードはその方法を別世界、平行世界まで探しに行こうと考えます。SHIELDに協力を求めますが、フューリーは個人的な事情に援助できるほど余裕はないと拒否。それでも諦めきれないリードは、5つの次元探査装置を各平行世界へ送り込みます。翌日、いつも通りの日常が始まろうとしていたその時でした。バグスタービルディングが轟音と共に攻撃されます。空から現れたのは、見たことも無い謎の超人軍団。攻撃の瞬間を偶然目撃したスパイダーマンとキティが加勢、やがてアルティメッツやX-Menも増援に現れますが、謎の超人軍団は恐ろしいほど硬い覚悟を持っているのでしょう。一切劣勢になる様子はありません。当初は超人軍団も混乱し言葉も話せないようでしたが、徐々に鮮明に話し始めます。超人軍団のチーム名はスコードロン・スプリーム。元いた世界はこの世界のある人物によって破壊し尽くされてしまった。リード・リチャーズの手で。リーダーのハイペリオンの言葉に最も驚いたのは当然リード本人でした。別次元を攻撃したことも、スコードロン・スプリームの姿にさえ覚えがないのです。ところがスコードロン・スプリームの一員、パワープリンセスが掲げたある物を見て背筋が凍りつきました。先日送り出した次元探査装置の1つだったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230626234607j:imageアルティメットユニバースに突如現れたスコードロン・スプリーム。その目的は、リードを捕まえることだった。

 

それは数日前のこと。アース31916は悲鳴と混乱に包まれていました。世界中へ巨大な謎の生物が現れたのです。人間さえ攻撃する巨大生物は、そもそもどのような生物なのか、どこから来たのかさえ分かりません。そのため「有機体」としか呼称する他なく、大統領も理解の追いつかない事態に焦るばかり。スコードロン・スプリームが対処に当たりますが、巨大かつ大群なためキリがありません。そんな中ハイペリオン有機体の中に微弱な電磁波を感知。そこが有機体の核だと推測し、見事取り出すことに成功します。それは非常に精巧な技術の詰まった何らかの装置でした。調査の結果、その装置は別次元から送られた言わば観測装置と判明。装置の中にはリード・リチャーズのメッセージが込められていました。スコードロン・スプリームらは、別次元の天才すぎる子どもが身の丈に合わない実験を行った結果凄惨な悲劇がこの世界で起きたと結論付けます。こうして事態解決のためにリードを連行しようとスコードロン・スプリームが現れたのです。激しい罪の感覚に襲われるリード。自分が悲劇を生み出したなら、せめて協力し少しでも罰を負わねば。パートナーであるスーザンの制止も振り切り、リードは1人スコードロン・スプリームの世界へ行くことにします。
f:id:ELEKINGPIT:20230627000949j:image次元の向こうへ消えるリード。大きすぎる悲劇の責任全てを1人で抱えようとさえしていた。

 

アルティメットユニバースの面々は、リードがいなくなった直後からスコードロン・スプリームの世界へ追跡しようとしていました。こちら側にしてみれば世界一の天才かつヒーローが誘拐されたも同然、助けに行かないわけにはいきません。ソーが次元間に穴を開け、残されたFF、スパイダーマンX-Men、アルティメッツ、SHIELDがスコードロン・スプリームらのいる世界へ突入します。一方別世界へ連れられたリードは、早速「有機体」の調査と対策の研究を始めていました。生々しく惨劇の跡が残るワシントンでは未だに注力するだけで精一杯。政府に協力するバーバンク博士によると、正確な数字は不明なものの1000万人以上の被害が出たことは確実だそうです。思わず手が止まりそうなほどショックを受けるリード。しかしその重すぎる十字架も責任も、全て自分で背負い込むと決めた覚悟だけは一切揺るぎません。しかし謎の有機体が現れた原因は分からないまま、リードも次元探査装置が次元間を移動する間に謎の生物がくっついてしまったとしか言い様がありませんでした。またしても頭を抱えるばかりのリード。その時、外から轟音が。アルティメットユニバースの面々とスコードロン・スプリームの戦闘が始まっていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230627144949j:image激突するアルティメッツらとスコードロン・スプリーム。誰も望まない第2ラウンドが始まった。

戦闘が始まる少し前、スパイダーマンとキャップはフューリー長官の言動に少し違和感を覚えていました。フューリーは何かを隠している。キャップのメモを受け取ったスパイダーマンは、戦闘のどさくさに紛れて捜査を始めます。ところがフューリー長官は何者かに気絶させれているではありませんか。目覚めたフューリー長官は、スパイダーマンの尋問に遂に隠していた真実を話し始めます。リードが平行世界の調査協力をSHIELDに求めた時、フューリー長官は否定しても単独での調査を行うだろうと読んでいました。そこでラトベリアのDr.ドゥームへ裏取引を持ちかけます。リードの次元探査装置を、バグスタービルではなくSHIELDにデータ送信されるよう改造して欲しいと。得られたデータは対価としてドゥームにも提供を約束します。リードが「有機体」の把握を確認できなかったのはこのためでしょう。ところがドゥームは平行世界へ移動した瞬間離反。ドゥームの目的は平行世界のデータを得ることではなく、それを元に支配することだったのです。一方リードはバーバング博士の手で安全な場所まで連れられていました。ところがその瞬間、リードの意識が混濁し始めます。バーバング博士の案内した部屋は無色無臭の催眠ガスが漂っていたのです。リードの意識が失われつつある中、バーバング博士は勝利宣言とばかりに全ての真相を明かします。かつてバーバング博士は世界一の天才と称されるほど科学を極めていました。ところがしばらくすると、新聞の1面はハイペリオンばかり取り上げるように。超人的な能力に透き通るような善人性、ハイペリオンは全国民が憧れる存在となっていました。バーバング博士は激しく嫉妬します。そしてハイペリオンを恐れる政府と意見が合致し、密かにハイペリオンを殺すための秘密兵器を作り始めたのです。それが悲劇を産んだ「有機体」の正体でした。またバーバング博士は有機体を放つ直前に次元探査装置を発見しており、これを核とすることであたかもリードがやったかのように見せかけていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230627151157j:image勝ち誇ったように全てを打ち明けたバーバング博士。1000万人を超える惨劇は、全て醜い心から生まれたものだった。

 

Dr.ドゥームの裏切りとバーバング博士の真相。全てのピースは揃いました。あとは全てを白日の元に晒し、今行われている無意味な戦いを止めねばなりません。フューリー長官と目覚めたリードは戦いを終わらせるために動き始めます。疲弊したアルティメッツとX-MenではDr.ドゥームを止められず、フューリー長官はヘリキャリアに封印していたハルクの投入を決定。一方リードはバーバング博士を拘束し、全員の前で真実を話そうとします。ペンタゴンが崩壊するほどの激しい戦闘。アイアンマンがドゥームに倒され、リードがX-Menに救出されたその時です。ただでさえ混乱する戦場が更に混沌に包まれます。アース712のスコードロン・スプリームが現れたのです。戦場はDr.ドゥームvs712スコードロン・スプリームvs31916スコードロン・スプリームvsアルティメッツ連合軍というカオス極まりない状態に陥ってしまいました。
f:id:ELEKINGPIT:20230627152607j:image現れたのはアース712のスコードロン・スプリーム。三つ巴、四つ巴の戦闘が始まる。

 

〈誰も見張りを見張れない〉

今作は驚くような展開の連続に目を奪われてしまいますが、随所にDCコミックスWATCHMENのパロディと思われる場面が見られました。例えば「有機体」はオジマンディアスのイカ爆弾、バーバング博士はオジマンディアス本人のパロディと考えられます。では今作に流れるテーマも当然「誰が誰を見張るのか?」でしょう。今作はフューリー長官、Dr.ドゥーム、バーバング博士と3人の黒幕が登場していました。中でもフューリー長官とバーバング博士はヒーローを管理、監督する役割です。ヒーローが暴走しないよう手綱を握ることが仕事と言えますが、今作はその2人が暴走しなければ起こらなかった事件です。ならばウォッチメンと同じく「誰が誰を見張るのか?」という疑問が生まれます。今作では混沌とした展開にこのテーマが置いてけぼりとなってしまった感は否めませんが、初めからキャップがフューリーをずっと疑っていなければ更に事態は深刻となっていたでしょう。強いて言うなら相互監視が本作の結論だと考えられます。しかしそれだけでは解決できないのもまた事実。例えば今作の終盤、スカーレット・ウィッチの大きすぎる活躍がありました。チームメイトの強すぎる力をどう扱うべきなのか、キャップさえ悩む始末。ヒーロー同士の相互監視はこの連続です。アルティメットユニバースはどうすべきだったのか? 誰が誰を見張るのか、今一度考えねばなりません。