アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ULTIMATUM【2023年7月私的ベストアメコミ】

アルティメットユニバースを代表する作品群の1つに、ULTIMATUMが挙げられるでしょう。今作はそれまでの物語の区切りとなっており、今作以前と以降で分類がわけられるほど大きなターニングポイントとなりました。そのためアルティメットユニバース全体へ与えた影響も大きく、これ無しには語れないといってもいいほどマストリードな1冊です。ストーリーは賛否両論多くみかけますが、是非を判断するならば自身の目で確かめてみることを強くオススメします。ともかく、ユニバース全体を揺るがした今作。衝撃的な展開の連続で片時も目が離せません。

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Ultimatum (English Edition)

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本作には津波の表現が描写されています。当記事では作品を尊重し津波の描写を記載することがありますので、苦手な方はブラウザバックを推奨します。

 

〈あらすじ〉

世界全体が揺れ動いた。磁界王の怒りが地球をも動かしたのだ。泣き叫ぶ時間もなく積み重なる死屍累々。多くの仲間が死にゆく中、それでもヒーローは立ちあがった。アルティメットユニバースに迫るのは終末か、それとも……?

 

〈究極の報復〉

日もそろそろ暮れようという頃。誰も数秒後に地獄が始まるとも知らずに、いつもと変わらない光景が繰り広げられていました。別れの挨拶をする暇など当然なかったでしょう。悲鳴は掻き消され、瞬きもせずに生への道が閉ざされた人さえ多くいたはず。それほど唐突に、前振れもなく、何よりも理不尽に、ニューヨーク全てを沈めるような大津波が襲ってきたのです。それはヒーローにとっても同じでした。アルティメッツは散り散りに、X-Menは一瞬で多くの仲間を失い、ファンタスティック・フォーもジョニーが行方不明となり混乱に陥っていました。スーザンが最大出力のフォースフィールドのドームを展開したことで、ニューヨークが海底に沈むことだけはどうにか免れます。この災厄、天変地異はどこから現れたのでしょうか? 世界でただ1人、エグゼビア教授だけは直感で理解していました。マグニートーです。ミュータントを神に選ばれた人類の進化種として、世界に革命をもたらそうとしたあの磁界王です。マグニートーは、愛する双子が人間のせいで死んだと激怒していました。世界をより良くしようと革命に邁進するとテロリストの烙印を押し付け、挙句我が子さえ……。我慢の限界などとうに達していた。それでも世界のため耐えていた。なのに。言うなれば、これは磁界王が人類へ下した最後通牒です。津波は怒りを、雷鳴は叫びを、異常気象は悲鳴を表しているかのようでした。マグニートーは自らの能力を使い、地球の地軸をズラすことで未曾有の大災害を引き起こしていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230702202014j:image全ての悲劇を引き起こした磁界王。ムジョルニアさえ磁力で操り、その心は怒りの炎で凍てついていた。

すぐにでもマグニートーを倒したいヒーロー達ですが、まずはそれ以上に優先すべきことがあります。仲間の安否確認と連絡手段の確立、何よりも生き残った市民の救出と避難を行わねばなりません。時が経つにつれ未曾有の悲劇がより鮮明に浮かび上がってきました。死者は現在わかるだけで600万人を超え、その中にはエマ・フロストら名だたるヒーローもいます。またSHIELD本部のトライスケリオンを、ブラザーフッドのメンバー、マドロックの分身が自爆攻撃を敢行。被害は拡大するばかりです。そしてあのスパイダーマンも行方不明に。アルティメッツは全メンバーをトライスケリオンに集結させようとしていましたが、それがいつになるかさえ検討もつきません。ピム博士はパートナーのワスプを血眼になって探していました。一方ソーは、パートナーであるヴァルキリーの死を覆すため、死神ヘラへ戦いを挑んでいました。結果はどちらも悲劇に終わります。ピム博士がワスプを見つけた頃にはブラザーフッドブロブに体の一部を食べられており、既に息絶えていました。悲しみを受け止めきれなかったピム博士は自爆攻撃を続けるマドロックの大軍を相手にし爆死。ソーはヴァルキリーを蘇生させるために自らの命を生贄に捧げていました。誰もが津波へ怒り、雷鳴へ叫び、異常気象へ悲鳴を上げていました。戦力と体勢を整えたヒーロー達は、遂にマグニートーへ決戦を挑むこととなります。
f:id:ELEKINGPIT:20230702210007j:image史上類を見ない惨劇の数々に、それでも立ち上がるヒーロー達。究極の戦いが始まろうとしていた。

 

一方マグニートーの怒りは収まらず。エグゼビア教授へ宣戦布告をした後絞殺し、自らの居城で悠々とヒーロー達を待ち受けていました。究極の最終決戦の始まりです。地軸をズラすほどの磁力と、何よりも凄まじい気迫がマグニートーを巨大に見せていました。圧倒的多数に対しても磁界王は互角に渡り合います。そして自らの能力を発揮し、アイアンマンのアーマーとサイクロプスのバイザーを同時に制御、ウルヴァリンへ集中砲火を浴びせることで不死身のミュータントさえ殺して見せました。戦慄するヒーロー達。それでも反撃の手を休めることはありません。ウルヴァリンが遺した最後の攻撃で遂に怯んだマグニートーを、今度はフューリーらが追い詰めます。瀕死に近いダメージを負ったマグニートー。このままトドメを指すことは容易でしょう。しかし600万人の命を奪い、日々の営みを破壊し、ニューヨークを死の街へと変えた罪は単なる戦死では償えません。少なくともフューリーはそう判断したのでしょう。フューリーはジーン・グレイの能力を介し、「ミュータントの真実」をマグニートーの脳へ直接叩き込みます。ミュータントは神に選ばれた人類の進化種ではない。超人兵士を生み出す実験の最中、試験管の中で偶然生まれた存在に過ぎないと。
f:id:ELEKINGPIT:20230702225323j:imageミュータントの真実を知るマグニートー。半生を捧げたアイデンティティが崩壊した瞬間だった。

 

〈究極を超えて〉

今作はアルティメットユニバースが崩壊しかけるほどの大規模なクロスオーバーイベントとなりました。X-Men誌、ファンタスティック・フォー誌も今作を区切りにシリーズが終了しており、この世界へ与えた影響がどれほどのものか片鱗を味わうことができます。では何故このような悲劇が起こったのでしょうか? 当然作中ではマグニートーが双子の子ども達を失い、全人類へ失望混じりの激怒を顕にしたからだと説明されていました。しかしそれに至るには様々な陰謀も巡らされており、すべての責任をマグニートーだけに求めることは出来ません。さらに元を辿るなら、全ては超人兵士を生み出そうという計画が根本中の根本。ウォッチャーの言葉を借りるなら、アルティメットユニバースは「責任」を負った結果となります。超人兵士を生み出す計画の中で偶然生まれたミュータント。それらはやがて種族と認識されるほど数を増やし、ミュータントは人類に差別されるほど分断を生み出していました。人を超えたヒーロー達で構成されたアルティメッツは、当初SHIELDの特殊部隊という側面が強く、超人と常人の間で生まれた溝に苦悩する描写が何度もありました。このちょっとしたズレ、歪み、アンバランスさがこの大惨劇を招いたのではないでしょうか。中でもこのアンバランスな世界に立たされていた1人がマグニートーと言えるでしょう。世界のために革命を起こそうとするとテロリストと憎悪を向けられ、ミュータントからも敵視される存在となっていました。ほんの少しでもバランスが崩れると……その結果が本作なのです。エージェントとして超人を行使しようとするSHIELD、未熟ながらヒーローであり続けようとするアルティメッツ、人類とミュータントの平和的共存を図ろうとするX-Men、埋められたかもしれない歪みの全てがマグニートーにもしわ寄せとして及んでいたのでした。このような悲劇は、恐らく現状維持だけでは再び起きてしまうでしょう。2度とこの大惨劇を起こさないためには、この歪みを埋めなければなりません。方法はたった1つ、これほどシンプルながら難しいことは無いでしょう。結束です。私は等身大の超人達が何度も立ち上がる姿を究極のヒーローと考えていました。しかしそれだけでは何度も悲劇を繰り返すのみ。ヒーロー達に求められるのは、立ち上がり結束すること。究極をも超えることです。分断すると失墜しますが、結束すると立ち上がるのです。アルティメイタムを乗り越えたヒーロー達が、究極を超えていく姿に期待したいです。