アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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AVENGERS INFINITY AVENGERS

物語を盛り上げる要素に、伏線と呼ばれるものがあります。後の展開の布石となるポイントを仕込むことで、物語の整合性を確保すると同時に説得力を持たせるのです。国内外問わず多くの作家がこの手法を用いますが、アメコミライターで伏線の使い方が上手いとされるライターに、ジョナサン・ヒックマン氏を挙げる人は多いでしょう。マーベルナウ!でアベンジャーズを、そして最近ではX-Menを担当した同氏の作品はどれも計算され尽くした展開の連続で驚かされるばかりです。駆け抜けるように素早く展開されながら、丁寧に回収される伏線と次にばら撒かれる新たな伏線……連載当時にこれを読めばどれほどワクワクしたかと膝を叩きたくなってしまいます。さて、今回紹介するAVENGERS INFINITY AVENGERSはそんなヒックマン氏が手がけたアベンジャーズシリーズの1作です。そのほとんどが邦訳済みではありますが、未邦訳の今作でより物語に深みがでることでしょう。
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日本語版関連コミック

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〈あらすじ〉

ウォッチャーが殺された! 隠すべき秘密が白日の元に晒され、世界は瞬く間に混乱を極めている。それはアベンジャーズも同じだ。キャップは全てを思い出していた。裏切り者の名はトニー・スターク。最高の親友で、最悪の殺戮者。

 

〈未来を繋ぐ信念〉

その日、キャップは悪夢にうなされていました。迫り来るもう1つの世界、インフィニティ・ガントレット、自分を取り囲むイルミナティの面々……全ては過去に起きた出来事。しかし消されていた記憶。あらゆる秘密が白日の元に晒された今、キャップもまた思い出したのです。イルミナティが自らにした所業を。マルチバースが衝突し消滅する現象、インカージョンの存在をイルミナティとして知った日の出来事でした。キャップは初めて遭遇したインカージョンをインフィニティ・ガントレットの力で防ぐことに成功しますが、そのせいか全てのインフィニティ・ストーンがバラバラとなってしまいました。唯一の可能性を失ったイルミナティは、助かる道は他のマルチバース全てを破壊し続けるしかないと覚悟を決めます。しかしそれでは大量殺戮と変わりません。キャップは他に道があるはずだと懸命に説得しますが、そもそもあらゆるマルチバースがそれ以外道はないと結論付けているのです。他に道などないことは、キャップ以外皆分かっていたことでした。それでも別の解決策を探すべきと叫ぶキャップを、イルミナティは記憶を消した上で追放したのです。全てを思い出したキャップの怒りは計り知れないほどでした。トニーを裏切り者と断定し、力づくでも問いただそうとしたのです。アベンジャーズを巻き込んだ怒りに、キャップとトニーは一触即発状態。しかしそこで誰もが予想外のハプニングが発生します。インフィニティ・ストーンの中で唯一行方不明となっていたタイム・ストーンが突如出現、アベンジャーズを未来へタイムスリップさせたのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20220820020600j:image突如現れたタイム・ストーン。この石がもたらす数奇な運命とは?

 

気がつくと、眼下には見慣れない街が広がっていました。地球の意思の力を持つスターブランドによれば、ここは約50年後の未来です。突如起きたタイムスリップにアベンジャーズは戸惑うばかり。一方でトニーだけはやや安堵した表情を浮かべています。全ての平行世界が消滅するインカージョン。終末しかないと思われていた世界に「未来」があったのです。恐らく何らかの方法でインカージョンを耐えたのでしょう。私達の行いは間違ってはいなかった。現代よりさらに隆盛を極める街並みに、トニーは勝ち誇ったような笑みを浮かべていました。タイムスリップに戸惑ったのは現代のアベンジャーズだけではありません。異常を察知して駆けつけたのは、約50年後のヒーローチーム、アベンジャーズ・ユニオンです。チームを率いているのはなんと老いたホークアイ。現代との繋がりを感じさせる人物に皆が安堵しました。しかし老いたホークアイは険しい表情のまま。かつてのインカージョンで多くの仲間を失ったと告げる未来のホークアイは、怒りのままにトニーを攻撃したのです。トニー・スタークのせいで大勢が死んだのだと。
f:id:ELEKINGPIT:20220820120428j:image怒りでトニーを殴り続ける未来のホークアイ。その表情は50年前の絶望を感じさせた。

 

ストーンによるタイムスリップは、500年後、そして5000年後へと続きます。500年後の未来ではウルトロンによって人類が支配され、総人口が300万人を切ったほど。アベンジャーズを模したアベンジャーズAIが、ただ脅威を排除し続けていました。そして5000年後の未来。なんとリード・リチャーズの子、フランクリンが全てを知っていたかのように出迎えたではありませんか。今や地球は荒廃しきった星となり、人類は機械と融合することで生き長らえていました。そしてそんな人類を守るための存在が、アベンジャーズ・ユニバース。惑星レベルの脅威を一瞬で倒すほどでした。そんな世界でフランクリンは告げます。この事件から手を引くべきだと。フランクリンは世界が終わる日のことを語り始めました。イルミナティはインカージョンの阻止に失敗する。しかしそれは、イルミナティに非があったわけではない。キャプテン・アメリカの妨害によるものだと。今の世界を、世界のままにしたいのなら何もすべきではない。キャップがそうするはずがないと知りながら、フランクリンはただ言葉を続けました。
f:id:ELEKINGPIT:20220820121847j:imageフランクリンの言う未来の予告。終末が迫る中、キャップは争いをやめなかったのだ。

 

続く5万年後の世界では、アイアンラッドがキャップを迎えました。良いニュースと悪いニュースがあると。良いニュースは、ここでタイムトラベルが終わりということ。悪いニュースは、このままでは帰れないこと。キャップがインフィニティ・ガントレットでインカージョンを阻止した影響で、平行世界のタイムストーンはほとんどが破壊されてしまったのです。この世界にいたのはアイアンラッド、カーン、そしてイモータスでした。3人はキャップに未来世界を見せ続け、インカージョン阻止のために動くトニー・スタークと戦う運命を変えようとしていました。しかしキャップの意思は鋼より硬いまま。正義のために犠牲を強いるのは間違っている。私はただ、力を持たぬ人々を、そして助けを求める人々のために存在しているのだと。大いなる力の前では個人の道徳観なぞなんの意味もないと説かれても決して考え方は変わりません。カーンらの持つタイムストーンを強奪したキャップは、現代に戻ります。そして5万年分の未来を見た結果改めて敵を見定めました。討つべきは裏切り者イルミナティだと。
f:id:ELEKINGPIT:20220821014012j:image大量殺人犯イルミナティと戦う覚悟を決めたキャップ。例え親友が相手でも正義を曲げるわけにはいかない。

 

〈信念vs宇宙意思〉

何としてでもイルミナティを討伐すると決心したキャップ。しかし、それよりも火急の課題があるのは今作だけでも一目瞭然です。全並行世界が滅亡するインカージョンをどうにかしなければ、イルミナティの罪に関わらず全滅してしまいます。もちろん、キャップの言う救うべき人々も全員。多くの未来人に諭されながら真逆の決断を下したキャップ。何故インカージョンよりもイルミナティ断罪を優先したのでしょうか?

鍵は約50年後の未来にあります。タイムスリップの直前、未来のホークアイはキャップにだけこっそりと耳打ちしました。選択肢は2つ。トニー・スタークという化け物を放っておくか、助けるかと。長年アベンジャーズとして共に戦ってきたホークアイが、トニーを化け物と呼ぶほど憎む出来事。一体何があったのかは想像するしかありません。恐らくこの時からキャップは結論を出していたのでしょう。多くの人々が死ぬのを見過ごすわけにはいかない。それも親友の手で殺されるならなおさらです。キャップはトニーに、平行世界爆滅という大量殺戮をして欲しくなかったのではないでしょうか? そして未来を渡る毎にそれしか方法がないと悟ったのでしょう。インカージョンを阻止するには自分の盾は小さすぎる。だからこそ自分に出来ること=殺戮の阻止という選択肢を取らざるを得なかったとも言えます。後のキャップの行動はまるでインカージョンを視野に入れてすらいないと思えるほどイルミナティ討伐に傾倒していました。キャップにとってインカージョンよりも優先度が高かったのです。後のキャップの暴走の根源。それは親友の手を赤く染めないため、自分に出来ることを最大限尽くそうとしていたからではないでしょうか?