アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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NEW AVENGERS PERFECT WORLD

世界中の悪と戦い続ける裏で、避けられない世界滅亡に立ち向かうイルミナティの物語。それがヒックマン氏のNEW AVENGERSシリーズです。平行世界同士がぶつかり消滅するインカージョンを退けるには、他の地球を破壊するしかない。ないと分かっていながらも他の方法を模索するイルミナティが次に遭遇するのは、同じくヒーローが活躍する世界とのインカージョンでした。取るべき選択肢はただ1つ。しかし本当にそれができるのか? イルミナティの覚悟が試されます。
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日本語版関連コミック

 

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〈あらすじ〉

平行世界観測装置「ブリッジ」で、他の世界がどのようにインカージョンに対処しているのか記録しようとするイルミナティ。しかし観測した世界は全てインカージョンの前に敗北していった。そんな中、アベンジャーズのように高潔な魂を持つヒーローチーム、グレート・ソサエティがインカージョンを阻止する様を観測。純粋な正義の志に感心するイルミナティだが、無慈悲にも次のインカージョンはグレート・ソサエティの世界と判明する。

 

〈落日〉

今から8時間後、人を殺す。それも数え切れないほどに。インカージョン接近の通知とは、何よりも重いものでした。それまでのように、インカージョンでぶつかる地球が無人だったなんてことはもうありません。ブリッジで観測した偉大なるヒーローや大勢の人間が暮らす地球を、自分たちが生き残るために消滅させなければなりません。ブラックパンサーは先祖の霊に今1度その行いの是非を問い、トニーはブラックスワンへもう1度この先の未来を問います。どちらの答えも、2人にとってこの上なく無慈悲なものでした。迫るインカージョンを前に、イルミナティは最後の希望を胸にグレート・ソサエティが住む地球へと向かいます。グレート・ソサエティはこれまで2度インカージョンを阻止していました。その方法を聞き出そうと考えていたのです。グレート・ソサエティのリーダー、サンゴッドはイルミナティを見てすぐに高潔な魂の持ち主であると見抜き、歓迎しました。今から起こるインカージョンに対する情報は多く持っていませんでしたが、それでも快く提供します。インカージョンを阻止した方法。それは本世界のインフィニティ・ガントレットに似たアイテムの力でした。無限の力を持つガラス片で迫り来る地球を押しのけたのです。最後の希望が絶たれた。イルミナティはガックリと肩を落とします。無限の力を持つガラス片もまた、インカージョンを阻止した後にバラバラに砕け散っていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20220826233309j:imageグレート・ソサエティがインカージョン阻止に使用したアイテム。しかし今や存在すらしない。

 

今のグレート・ソサエティにインカージョンを阻止する手立てはない。ならば従来通り地球を爆破して防ぐしかありません。ところがイルミナティは、これからインカージョンを予防する手立てを考えようと言い出すではありませんか。グレート・ソサエティに自分たちがしようとしていることを話した上で、協力すら求めようとします。理屈っぽい話を並べ立てて誤魔化そうとしているに過ぎません。どの道グレート・ソサエティの地球は葬らねば未来はない。誰もが分かっているのに、誰もやろうとはしませんでした。これに業を煮やしたのがネイモアです。どう見ても時間の無駄な会話に痺れを切らし、いきなりグレート・ソサエティを攻撃。力でねじ伏せて地球破壊爆弾を起動させようとしました。グレート・ソサエティが地球最強のヒーローチームなら、イルミナティは地球最上のチーム。ありとあらゆる手を持つイルミナティに、グレート・ソサエティは敗れ去ります。虫の息となったサンゴッドの懇願に背を向け、地球破壊爆弾の準備は完了しました。
f:id:ELEKINGPIT:20220826235431j:image戦いに敗れ、涙を流すしかないサンゴッド。その意志すら無下にして進むしかない。

 

自分たちの地球へ帰ってきたイルミナティ。空の彼方に見える地球を破壊する準備は出来ました。あとは起動するのみ。しかしその役割を誰も全う出来ません。手をかけても体が震え、力が入らないのです。覚悟が足りなかったと言われたらそれまででしょう。実際イルミナティは、来るとわかっていたこの瞬間に誰も備えていなかったのですから。しかし人を殺すためにヒーローを志した者など、この中にいるでしょうか? 誰が人殺しの覚悟などできましょうか? やむを得ない犠牲。必要な最低限の犠牲。世界を救うための犠牲。それでもなお犠牲。犠牲。犠牲。犠牲……2文字ばかりがなんという重さでしょう。勇んで引き金に手をかけたブラックパンサーすら、涙を流して崩れ落ちました。イルミナティには世界は救えないのです。しかしネイモアは違います。分かっていたことだとトリガーを奪い取り、躊躇なく起動したのです。
f:id:ELEKINGPIT:20220827002256j:image起動する破壊爆弾。火を噴く彼方の地球。こうして世界は血溜まりの上に立った。

最早軟弱なイルミナティとは居られない。ネイモアは1人その場を去りました。そんな時です。無慈悲にも次のインカージョン接近警報が届きます。今のイルミナティに世界を救う力はない。これ程その事実が痛く突きつけられたことは無いでしょう。ならばもう、何もできることは無い。イルミナティは思い思いに地球最後の日を過ごすこととします。誰も知らない地球最後の末時間。しかしこれでいい。人知れず涙を流し、ギュッと目を閉じていました。ところがどれほど待ってもインカージョンは始まりません。それどこらか、予報されていた時間を大幅に過ぎても何も変わらないほど。一体何が起きたのでしょうか? 再び集まったイルミナティが真相に辿り着くのはそう難しい話ではありませんでした。
f:id:ELEKINGPIT:20220827010958j:image復活したサノスを率い、地球を救おうと実行したネイモア。これより世界はカバルの手で救われる。

 

罪と罰

今作ほどイルミナティの弱さが描かれたコミックは、アメコミの海がどれ程広かろうとそう無いのではないでしょうか? キャップの記憶を消して追い出してでも実行しようとしたことが、直前になって震えが止まらないからと出来なかったのですから。これも必要な犠牲であると、他人に犠牲を強いて世界を維持しようとする傲慢さは儚くも自らの覚悟の足りなさで実現しなかったのです。私はこれこそがイルミナティの犯した罪に対する罰だと考えます。これは起こるべくして起こったことなのです。

まずはイルミナティの罪について考えていきましょう。世界トップレベルの天才や、その種の代表者で構成されるイルミナティ。元は陰ながら世界の平和を維持することが目的で結成されたチームでした。しかしそれは裏から世界をコントロールしていることと同義です。インカージョン判明前ではチーム自体に乗り気でない者もいたほど。インカージョン判明後は、これを対処するためのチームとなりました。秘密裏にあらゆる手段で世界を救う。それはキャップへの所業などにも現れていることです。まるで自らを神と勘違いしたかのような傲慢な行いの数々。イルミナティの罪をあげるなら、その傲慢さで世界を救おうとした事だと言えます。そしてその罰が、今作で描かれたイルミナティの姿でしょう。自分たちが傲慢にも定めた「犠牲」の重さに耐えきれず、引き金すら引けなかったイルミナティ。インカージョンというルールに負けたのです。本来ならばあのままイルミナティの敗北ということで世界は終わっていたでしょう。しかしネイモア率いるカバルの台頭で世界は延命されます。世界を救おうとした罪に、世界を救えなかったという罰が与えられたイルミナティ。未だ生き長らえる世界の中で、与えられた罰から罪を見直す時期かもしれません。