アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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HOUSE OF M

マーベルユニバースは特に過酷で残酷な世界をしています。例を挙げなくとも、皆様の知るヒーローの半生を振り返るだけで思い知らされることでしょう。それを生き地獄と表すこともできるでしょうし、実際に精神崩壊してしまったヒーローも存在します。今作は強すぎる能力により精神崩壊を引き起こしたスカーレット・ウィッチを描いた作品です。21世紀を象徴する新たなX-Menアベンジャーズのクロスオーバー作品でありながら、それ以上に本作は作品の内容で話題を呼びました。何故なら本作が以降のX-Menの運命を決定的に変えてしまったのです。
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日本語版コミック

 

 

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〈あらすじ〉

現実改変能力を持つスカーレット・ウィッチは、多くの苦難から精神崩壊を起こしていた。最早エグゼビアでさえ現状維持に務めるのが精一杯の状態で、ヒーロー達はスカーレット・ウィッチの今後を話し合う。しかしその時、世界が閃光に包まれた。光の向こうは誰もが羨む理想郷、マグナス王家の世界だった。

 

〈理想郷〉

アベンジャーズタワーには、現アベンジャーズのメンバーだけでなく、旧アベンジャーズX-Menまでも招集されていました。両チームにとってこの上なく重要な議題が待っていたのです。スカーレット・ウィッチの今後について。様々な苦難から精神崩壊を起こしたスカーレット・ウィッチは、自身の現実改変能力を暴走させかねない危険がありました。現在はエグゼビアが能力で抑えていますが、それさえもいつまで持つのか分かりません。以前にも能力を暴走させヒーローを殺した過去があり、次またいつ暴走させ、被害を出すかも分かりません。明確な被害規模など予想できるはずもなく、また次の被害がヒーローではなく市民に及ぶ影響も当然考えられます。ならばそうなる前に、スカーレット・ウィッチを殺してしまえば良いのでは? 過去を思えばそのような過激な意見が出るのも仕方ないでしょう。増してスカーレット・ウィッチはミュータント、もしここで市民に被害が出ると、せっかく築いてきたミュータントと人類の平和的共存が遠のいてしまうどころではありません。しかし戦いの果て、苦難の果てに精神崩壊を引き起こせばそのヒーローを殺してもいいというとんでもない前例を作ってしまいます。間違いを犯せば殺すという理屈が罷り通っていいはずがありません。ではスカーレット・ウィッチをどうしたら良いのか? 議論は平行線のまま、ヒーロー達はスカーレット・ウィッチのいるジェノーシャへ向かいます。ところがワンダが療養しているはずの場所には人影1つ見当たりません。探し回るヒーロー達。その時、スパイダーマンは確かに世界が光に包まれる瞬間を目撃しました。閃光が視界を奪い、次に目を開けたその時には、世界は何もかも変わっていました。
f:id:ELEKINGPIT:20230823182513j:image何もかも変わった世界。それは誰にとっても理想郷を目指したものだった。

 

ウルヴァリンが目覚めたのは、ヘリキャリアの内部でした。傍らにはミスティークが親しげな様子でいます。食い違う会話、見たことも無い景色、どうやらウルヴァリン以外はかつての世界の記憶を失っているようです。ヘリキャリアを強引に抜け出しニューヨークを訪れたウルヴァリンは、この世界はミュータントがマジョリティになっていること、中でもマグニートーを中心にしたマグナス王家が頂点に君臨していること、近く近隣の国々との式典が行われることを知ります。更に調査を進めているうちに、ウルヴァリンルーク・ケイジらに出会いました。ルークはミュータントも人間も関係なく平等な生活をすべきとレジスタンス活動を行っているよう。この世界では人間がミュータントから差別を受けているようです。ウルヴァリンがどれほどかつての世界の話をしても、ミュータントを相手にしているからか警戒されるばかり。そもそもこの世界にアベンジャーズが存在せず、噛み合うはずがないのです。しかしウルヴァリン以外で唯一アベンジャーズの名を知っている者が。小さな背丈をしたその子どもは、旧世界の記憶をはっきりと覚えていました。怖がる子どもへウルヴァリンは優しく問いかけます。子どもの名前はレイラ・ミラー。気付いたらこの世界に来ており、元の世界へ戻る方法は分からないようです。しかし驚くべきは元の記憶を保持していることではありません。なんとレイラはルークを見ると、元の世界の記憶を取り戻させたではありませんか。レイラが無自覚なミュータントであることを確信したウルヴァリンは、これが元の世界へ戻る鍵になるのではないかと考えていました。この世界の中心がマグニートー率いるマグナス王家である以上、事件の真犯人はマグニートーでしょう。少なくともマグニートーを倒し真相を聞き出さねばなりません。ウルヴァリンらはレイラの力を使い、次々とヒーローの記憶を取り戻し続けます。まるで地獄のように歪な理想郷に、記憶を取り戻したヒーロー達は怒りを隠せません。地獄の理想郷から世界を取り戻す覚悟は問うまでもありませんでした。
f:id:ELEKINGPIT:20230823185905j:image記憶を取り戻し、怒りを隠そうともしないエマ・フロスト。再起とともに復讐を誓う。

20人近く集まったでしょうか。世界の頂点に立つようなマグナス王家と戦うにはそれでも少ないように感じます。しかし元の世界を取り戻すため、全員が強い覚悟と怒りを持っています。誰も彼もが落ち着かない様子。それもそのはず、この戦いは必勝不敗が最低条件です。負けるなんてもってのほか。それでも不利なのは間違いなく、全員に緊張が走るのは当然のことでしょう。絶対に負けられない戦いが始まろうとしていました。作戦は至って簡単です。少数精鋭が多数に挑む場合、正面からの奇襲が最も早く敵の不意をつけるでしょう。正面突破あるのみ。作戦はマグナス王家の式典の日に決行されることとなりました。式典当日。招待された国々の王が続々と姿を見せ、最後にマグニートーが現れたその時です。上空からセンチネルが降ってきたではありませんか。マグニートーの能力で降ってきたセンチネルは止められますが、その影からヒーロー達が現れます。混乱する会場をよそにヒーロー達とマグナス王家や他の王達による乱戦が始まりました。一方ドクターストレンジはスカーレット・ウィッチの元を訪れます。何故このような狂気が起こったのか、その原因を直接探ろうとしたのです。ワンダは真実の記憶をストレンジへ見せます。その記憶に驚くべき事実が刻まれていました。この事件を起こした全ての元凶は、マグニートーではなくクイックシルバーだったのです。同刻、戦場にはレイラがエマとともに現れます。そしてマグニートーへ元の世界の記憶を取り戻させました。磁界王の怒りが戦場を包みます。熾烈を極める戦いの中、磁界王の怒りが炸裂しました。悲劇が悲劇を呼ぶ中、スカーレット・ウィッチは目の前の惨劇に耐えきれなくなります。そして一言呟きました。ミュータントなんていなくなればいい、と。
f:id:ELEKINGPIT:20230823223239j:image悲劇の数々に呟いた一言。スカーレット・ウィッチのこの呟きがミュータントの命運を左右する。

 

〈独りよがりの理想郷〉

今作の主な舞台は、スカーレット・ウィッチが暴走の末作り上げた歪な理想郷でした。スカーレット・ウィッチは可能な限り人々の思考を汲み取り、その人にとっての理想の世界を可能な限り実現させます。では何故そのような、人々の願いを叶えた理想郷が歪に、何より絶望さえ表すように登場したのでしょうか? まず、人々の「理想郷」というのは実現可能なのか? 答えは火を見るよりもずっと明らかでしょう。極端な例えですが、ある人の死を何よりも願っている、なんて願いを叶えれば願いによって死んだ人の願いは叶えられなくなってしまいます。全員の理想を叶えようとすると必ず歪な形になってしまうのです。そして今作の理想郷は、ミュータントが人間を差別する世界として描かれました。純粋に全ての願いを叶えようとすると圧倒的マイノリティであるはずのミュータントが支配的になることは恐らくほとんどないはず。スカーレット・ウィッチが汲み取った願いはミュータント、あるいは自身と近しい人に偏っていたことがわかるでしょう。総じて本作の理想郷は非常に歪んでいたことが分かります。かの理想郷はスカーレット・ウィッチの、あるいはクイックシルバーの独り善がりによって生み出されたのです。そんな独り善がりの理想郷の歪みがウルヴァリンでしょう。元の記憶を取り戻したいという願いは旧世界の記憶を保つという形で実現され、今作のキーパーソンとなりました。ミュータントのその後を長く暗雲たらしめた本作。その原因となった理想郷は、独り善がりと言わざるを得ないものだったのです。