アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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STAR WARS KNIGHT OF OLD REPUBLIC①(#0〜#6)【2023年9月私的ベストアメコミ】

スターウォーズという物語は、「スカイウォーカー」だけが主人公ではありません。広大な銀河を巡るシスとジェダイの戦いは、反乱軍と帝国軍だけでなく、図式や構図を変えて無限に近い年月に渡り続けられています。映画本編はそんな長い長い歴史の数ページに過ぎないのです。本シリーズ、STAR WARS KNIGHT OF OLD REPUBLICは映画本編より数万年前に遡った、旧共和国時代の物語です。戦争でジェダイが戦力として重要視されるようになり、後にジェダイ最盛期を迎える転換期と言えるでしょう。レジェンズ(非正史)ではありますが、銀河とジェダイの歴史を紐解く重要なシリーズです。なお、同名のゲームシリーズとは関係ございませんのでご注意ください。

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〈あらすじ〉

遠い昔、はるかかなたの銀河系で……

戦争の時だ! マンダロリア戦争で共和国の資源は枯渇し、あちこちで疲弊が見え隠れしていた。

軍事力としてジェダイが重要視される中、ジェダイ騎士団はダークサイドへ堕ちる戦士の存在を危惧していた。戦争は人を影に落とすのだ。

惑星タリスを守護する若きゼインは、自身のマスターがパダワンを虐殺する現場を見ていた。師はシスなのか? 正義なのか? 苦悩する若者は答えを探し銀河へ飛び立つ。

 

ジェダイと運命〉

惑星タリスも、今や犯罪ばかりが蔓延る星となってしまいました。戦争で資源を使い尽くした共和国はその疲弊が隠せなくなっており、各地で多数の影響が現れつつありました。犯罪は増すばかりで、共和国軍では治安を維持出来ないほどです。そこで共和国は各地へ最低1人以上のジェダイを派遣、治安維持に務めさせます。中でも惑星タリスの治安悪化は顕著でした。かつては貿易の拠点として隆盛を極めたこの星も、昔日のような豊かさは見る影もありません。そんな栄枯盛衰の真っ只中のタリスで、パダワンのゼインは今日も犯罪者を追いかけ回していました。パダワンとして未熟なゼインは、フォースの使い方もライトセイバーの腕も不慣れな部分が目立ちます。しかし掟には忠実で熱意もあり、将来が楽しみなパダワンと言えるでしょう。そんなゼインが追いかけているのは、小狡い犯罪に手を染めた大富豪のグリフ。2人がタリスを駆け回る光景は最早日常茶飯事となりつつありました。ところが今日のゼインは違います。泥を被っても根性で食らいつき、ついにグリフの逮捕に成功したのです。明るかった空はすっかり暗くなり、無機質なビル群が灯りを灯し始めていました。任務の成功に喜びを隠せないゼイン。早速自身のマスター、ルシアンへ報告しようとジェダイの住むジェダイタワーに向かいます。その日のジェダイタワーは異様な空気が全身をヒリつかせるほど漂っていました。この違和に勘づいたのは直感としか言いようがないでしょう。ゼインはルシアンを探しジェダイタワーを歩きます。誰もいない部屋をいくつか通り抜け扉を開けると、異様な空気の正体を見つけます。5本のライトセイバー、倒れ伏す仲間たち。なんとルシアン含むジェダイマスター達が、ゼインと親しかったパダワン4人を虐殺していたのです。ジェダイマスターらはゼインにも光剣を向けます。何が起こったのか? 何故師はこんなことをするのか? 様々な疑問が瞬時に脳を駆け巡り、しかし直面した死の予感にゼインの体は全力で走り出していました。ジェダイマスター5人を相手にゼインが勝てるはずもなく、逃げる以外の選択肢などないのです。グリフ追跡で培われた足の速さは5人のジェダイマスターをも振り切ります。そしてグリフを乗せたスピーダーに跨ると、トップスピードでその場を離れました。師の裏切りにあったゼイン、巻き込まれたグリフ。2人の人生が大きく変わった瞬間でした。
f:id:ELEKINGPIT:20230910072200j:imageゼインが目撃した虐殺の瞬間。師の剣は何を思い、何のために振るわれたのか?

 

巻き込まれる形でゼインの逃走劇についていくこととなったグリフ。当然文句や不満ばかりですが、それさえも封じるかのように夜のニュース番組が始まります。ゼインはパダワン虐殺の罪を被せられ指名手配、グリフもその共犯として名前が挙げられていたのです。観念したようにグリフは肩を落とします。どちらにせよ牢獄行きは免れず、罪が重くなっただけ。グリフは己の人生を勝ち取るためにもゼインと共に逃げ延びることを決意します。逃走の第1歩として、グリフはロウワータウンへ行くことを提案しました。タリスは発展を遂げるにつれ、惑星のほとんどが都市化してしまいました。そのため建物の階層を上へ上へと積み上げることで都市の延長に成功したのです。しかしそれは、同時に明確な格差を生み出しました。階層が上になるほど富裕層が、下になるほど貧困層が集まるようになったのです。そこで富裕層の町をアッパータウン、貧困層の町をロウワータウンと呼ぶようになりました。中でもグリフの指すロウワータウンは最下層、地に足をつけて生活を送る人々です。元々闇市場を牛耳っていた闇商人のグリフはロウワータウンの隅々まで知り尽くしていました。最下層には密輸さえ厭わない運び屋がおり、グリフと親交があったのです。その運び屋ならば自分たちを惑星外へと運ぶことも可能でしょう。ゼインもこの方法しかないと考え同意。2人はジェダイマスターの目をかいくぐり下層を目指します。待っていたのはジャンク屋のキャンパーと呼ばれる老人、そしてジャラエルという人物でした。ジャラエルは警戒心が強いようですが、ゼインがあのパダワン殺しのジェダイと知りほくそ笑みます。キャンパーもグリフが来た時点で依頼を察しており、早速船の準備を始めます。キャンパーらの使う宇宙船ラストリゾートは、スクラップにまみれた地で長くいたせいか自身もスクラップ寸前な有り様でした。それでも成層圏外まで飛び立てたのは、ひとえにキャンパーの腕前があってこそでしょう。このままどこか別の星へ……全員がそう考えていましたが、ゼインだけは違いました。何故マスターがあんな凶行を犯したのか? 何故その罪を自分に被せたのか? 殺されたパダワン達は共に修行に励み研鑽した仲間たち。兄弟姉妹同然の仲でした。そしてマスターはたった1人の親のような存在でした。真実を解明したいという心理が湧くのは必然でしょう。ゼインはタリスの衛星、ローグムーンで1度降ろすよう言います。そしてこの事件に興味を抱いたジャラエルもゼインヘついて行くことになりました。この衛星は数日前、パダワンらの合同訓練があった地です。ここならば何かヒントがあるかもしれない。ゼインはそう確信していました。ジェダイの「確信」とはまるで予言のよう。ゼインの予感した通り、ローグムーンの地表には記録ドロイドの残骸があったのです。これを修復し解析したら……事件の核心へだって迫れるはず。早速記憶データの解析を始めます。ドロイドが持っていたのはマスターらのとある映像でした。自身らのパダワンの今後について話し合っているようです。瞑想の果て、フォースを極めた先に5人のジェダイマスターは「確信」していました。この先5人のパダワンのうち誰かが必ず暗黒面に落ちる。そして暗黒面のフォースはいつか銀河を包み、世界は血と憎悪に塗れるだろう……ジェダイマスターはこの運命を確信していました。何者かが暗黒面に落ちるなら、それを阻止するため、銀河の平和を守るために自身のパダワンへ刃を向けたのです。ゼインは1人震えていました。マスターらの刃から自分だけが唯一逃げ延びたのです。ならば暗黒面に落ちるのはゼインなのか? ゼイン自身さえそう思わざるを得ないほどでした。
f:id:ELEKINGPIT:20230915082644j:imageジェダイマスターらが見たフォースのヴィジョン。師の剣は銀河を守るためにあったのだ。

 

このまま逃げ延び、銀河の端で暗黒面に落ちてしまうのだろうか? ゼインは改めて自分へ問います。発達したフォースの予感は未来予知に等しく、ゼインがダークサイドへ下ることは避けがたい運命のようにさえ思えてしまいます。しかしゼインはフォースの未来予知へはっきりとNOを突きつけます。自分が暗黒面に落ちるなんて有り得ない。自分を最もよく知っているのは自分自身、マスターやフォースではありません。ゼインは自分が暗黒面へ行かないことを証明するため、自ら師の元へ出頭することを決意します。1人タリスへ降り立つゼイン。待っていたのは大勢の治安維持部隊と師匠でした。パダワン虐殺の汚名を着せられ、その罪で連行されるのです。ジェダイタワーへ連れられ、5人のジェダイマスターに囲まれるゼイン。無機質な刃の音が一斉になり始めます。降伏の意を示し何の武器も持たないパダワンをジェダイマスターは恐れ、殺そうとしているのです。ゼインの訴えは届きませんでした。親のように思っていたマスターは自分の声に耳も傾けず、信じたのはフォースのみ。怒りや憎悪はありませんでした。それでも、ゼインの中で「正義」が決定的に揺らいだのは間違いありません。怒りを抱いたのはむしろジャラエルでした。ゼインの運命へ同情を寄せていたジャラエルは、こっそりゼインの後を追っていたのです。ゼインが変えようとする運命の行方を見届けようとした時、ジェダイマスターらのライトセイバーの起動音と共に勝手に動いていました。ジャラエルはゼインのライトセイバーを使いゼインの拘束を解除、脱出を促します。運命を変えるために出頭したゼイン。恐らくここが運命の分かれ道なのでしょう。ここで死ぬか、生き延びるか。未来ある若者にとって、正義の価値観が揺らいだ1人のパダワンにとって、答えは1つしかありませんでした。ゼインはジャラエルの手を取ります。裏稼業に従事していたジャラエルの脱出劇は見事としか言いようがないでしょう。ジェダイマスター5人を相手に、ゼインの力を借りながらも巧みに攻撃を回避。グングンとその距離を離し、母船ラストリゾートまで辿り着いたではありませんか。ゼインの師、ルシアンはここで刃を収めます。ジェダイマスターならばフォースを駆使し、船を沈められることだって可能なのに。ルシアンの視線を背にラストリゾートは加速、あっという間にタリスの成層圏外まで飛び立ちました。ここでゼインはジェダイマスターらへ通信を行います。家族同然だった仲間たちパダワンを殺した罪、そして事実を隠し罪を擦り付けた罪、それがライトサイドの行いだとして、どこに正義があったのでしょうか? ゼインはかつての師へ宣戦を布告します。必ず真実を銀河に知らしめ、本当の正義を証明すると。
f:id:ELEKINGPIT:20230920081818j:image銀河の平和を守るため、降伏したゼインへ刃を向けるジェダイマスター。正義の行方はどちらにあるのか?

 

〈運命の行き先〉

明日、自分がどうなっているか正確に知っている方は存在するのでしょうか? 今日と同じように仕事や家事に従事し、あるいは学校へ行くとは必ずしも言いきれません。もし大切な人が体調を崩したら? 突然クビを宣告されたら? 車にぶつかる可能性も0ではありません。分単位で明日の予定を決めても、その通りになると誰が断言できるでしょうか? 明日の自分を想像出来ても、明日を知ることは出来ないでしょう。しかし古代の人々は恐らくそうではありません。明日の姿を正確に知ることは出来ないにせよ、具体的な未来の姿を見ていたことは間違いありません。現在の我々はその手段を宗教と呼んでいます。世界の原理が解明される以前、人々はあらゆるものを超自然に結びつけて世界を知ろうとしていました。千差はあれ、根幹は全て同じでしょう。しかしその身を全て超自然にのみ任せていたわけではありません。人々は時に革命を起こし、戦争をしてでも新たな道を歩もうとしていました。

さて、話が大きくなりすぎてしまいましたが、この話と本作には共通点があるように思えます。本作では明確に宗教や神の存在が描かれていません。しかしその代わりを務めるようにフォースの力が何度も登場しています。超自然的な力を持つフォースは、フォースユーザーが扱うのみならず信仰に近い感情を抱かれています。一方でフォースは偶像化されておらず、少なくとも本作ではフォースを彫像にしたり絵画にすることはなく、ただ「フォースの導き」を信じるのみです。フォースは神ではなく、フォースユーザーにとって身近な存在でありながら超自然的な存在でもあるのです。フォースの導きに従いその力を使う者たちにとって、フォースの示す運命がどれほど大切なものかを私たちは想像しなければならないでしょう。それはルシアンらジェダイマスターがパダワンを虐殺したことにも繋がり、ゼインの決意が如何に困難かの理解を手助けするはず。私たちは未来を知る方法として神を頼りますが、フォースユーザーはフォースを教師のように考えているかもしれません。常に使い手を導き、道を指し示す。その身を委ねてしまえば「間違い」を犯すことはないのです。その教えに付き従うことは多くの人々にとって必然で、反故することがどれほど難しいか。

さて、ここで最初の話に立ち戻りましょう。紀元前より人々は神の力を借りて未来の姿を想像していました。時にそれは死後の世界をも映し出し、我々がやがて何者かになるかの答えを導いていました。しかし神の力を借りる王へ反旗を翻し、時に革命を起こしてでも時代を変え、自らの意思を証明していました。大いなる運命には逆らえない。しかしそれでも、自らの手で道を切り開いてきたのです。決して神のみに頼らず、己の力を使い新たな未来を創造してきたのです(それが人々の本当に望んでいたものかはまた別の話ですが)。古来より人々は宗教に頼り未来を予想していました。しかしただ運命に身を委ね続けていたわけではありません。ゼインの選んだ道もこれと同様でしょう。フォースの運命に身を委ねるだけでなく、時に自らの意思を示す。これほど困難な道はありません。しかしただフォースを盲信するのではなく、最後に道を決めるのは己自身。このまま運命の通り暗黒面に落ちるのか、それともまた違う道を歩むのか。古来の人々が未来を切り開いたように、ゼインもまた、己の運命を己自身で決めようとしているのです。