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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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DEATH OF CAPTAIN AMERICA vol1 THE DEATH OF THE DREAM

ヒーロー同士の争いを描いたシビルウォー。衝撃的なストーリーはキャップの降伏と逮捕をもって閉幕となりましたが、後年にシビルウォーを語るにおいて欠かせないのが、終戦直後に起こった悲劇、キャプテン・アメリカの死です。古き良きアメリカの象徴でもあったキャップの死は、複雑に移りゆく現代社会への強烈な皮肉とも取れるでしょう。ともかく、戦争の終結によって起きた悲劇はヒーロー社会をさらなる時代へ推し進めることとなります。その経緯を見守っていきましょう。
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日本語版関連作

シビル・ウォー (MARVEL)

シビル・ウォー (MARVEL)

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※今回は紙の本から画像を引用しております。見えにくいなどありましたらコメントいただけると嬉しいです。

 

〈あらすじ〉

超人登録法の是非を争ったシビルウォーは、キャプテン・アメリカの敗北で終戦した。伝説の超人兵士の敗北は、全米が驚きその後の処遇さえ人々の意見は真っ二つに分かれる。そんな中、キャプテン・アメリカの裁判が始まろうとしていた。それが内戦最後の悲劇が迫るとも知らずに。

 

〈夢の終わり〉

世紀の裁判が始まろうとしていました。キャップの降伏で終戦を迎えたシビルウォー。そのキャップの処遇をめぐり、裁判が開かれるのです。人々はキャプテン・アメリカに対して複雑な感情を抱いていました。市民を裏切った元英雄か、長年アベンジャーズを率いた栄光のヒーローか。戻ってきて欲しいと願うものもいれば、野次を飛ばし罵詈雑言を叫ぶものもいました。どう受け止めていいのか分からないのです。一方フューリーは、バッキーと協力してキャップを取り返す作戦を密かに実行しつつありました。勝負はキャップが裁判所へ移送される一瞬のみ。大勢の野次馬とメディアが詰めかける中、シャロンとも連絡を取り実行の機会を慎重に見極めます。その時です。キャップだけが見つけました。自身の警護員に当たるレーザーポインターを。スナイパーです。レーザーポインターが照射される位置からスナイパーの居場所を素早く推測するキャップ。そして銃弾が発射された瞬間、自らが盾となり銃弾へ飛び込みます。血飛沫、悲鳴。フューリーさえ事態を完璧には把握できていません。パニックになりながらもシャロンはキャップへ駆け寄ります。次の瞬間、更にキャップへ銃弾が2発叩き込まれました。弱々しい声で人々を避難させるよう指示するキャップ。救急車のサイレンが近づく中、シャロンは必死にキャップへ呼びかけ続けます。その結果がどうなったかは、翌日全世界知ることとなりました。キャプテン・アメリカの訃報で。キャップは死んだのです。人々は皆悲しみに包まれました。
f:id:ELEKINGPIT:20240131192308j:image銃弾に倒れるキャプテン・アメリカ。1つの時代が終わりを告げた。

 

キャップが狙撃された瞬間、ファルコンとバッキーは共に狙撃ポイントを素早く割り出し急行していました。2人は初対面ながらキャップのサイドキックであったためすぐに意気投合。狙撃手クロスボーンズをあっという間に追い詰めます。ここで2人は別行動に移りました。ファルコンは超人登録法反対派でしたが、あえて登録することで自由に動けるようになりクロスボーンズ逮捕のきっかけを作ります。一方バッキーは、フューリーの手からも離れ独自に行動を開始。その行き先を誰にも伝えず地下へ潜ります。バッキーは復讐に燃えていました。キャップの死の元凶を作ったのは2人。レッドスカルとトニー・スタークだと考えたのです。そのため2人を殺すことで復讐をなそうと考えていました。まずはキャプテン・アメリカの象徴たる盾を取り戻さねばなりません。現在はSHIELDの長官となったトニーが保有しており、葬儀後何処かへ移送するはず。バッキーの目論見通り、厳重な警備に囲まれ、盾はこっそりと運び出されていました。同刻、ファルコンはシャロンと協力関係にありました。フューリーはバッキーの暴走を予見しており、2人にその阻止を依頼していたのです。シャロンはキャップの死以来SHIELDを休職しており、精神的な不安定さは残るものの自由に動ける状態でした。しかし2人は、バッキーが盾を取り返す瞬間に間に合いませんでした。バッキーはキャップの盾を手に入れると再び潜伏、行方が分からなくなってしまいます。それもそのはず。その後バッキーはレッドスカル(ルーキン)の元へ向かいますが、そこで捕らえられてしまっていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240131212656j:imageレッドスカルへ挑むバッキー。しかしそこで捕らえられてしまう。

 

シビルウォー後、SHIELDの長官なったトニーはキャップ暗殺事件の真犯人を追いかけるために奔走していました。唯一の繋がりであるクロスボーンズは、記憶が消されたのか有用な証言は得られません。そんな時です。レッドスカルの子どもであるシンが、ヴィランチームのサーペントソサエティを率いクロスボーンズを奪還しに来たのです。トニーがそれを知ったとき、既にクロスボーンズは奪われたあとでした。いくらサーペントソサエティの力を借りたとして、これほどスムーズにSHIELDの警備を破ることができたのか? 疑問はすぐに解決します。警備カメラによると、襲撃を受けたSHIELDの隊員は全員クロスボーンズの元へシンたちをスムーズに案内しているのです。トニーはこの隊員たちにある共通点を見出します。全員が同じ精神科医の診療を受けていたのです。カウンセリングの過程で洗脳されたと考えるのが妥当でしょう。当然隊員たちに当時の記憶はなく、これが洗脳されたと確信を与えます。同じ頃、トニーにある1通の手紙が届きます。差出人はキャプテン・アメリカスティーブ・ロジャースです。既に筆跡鑑定は済ませてあり、トニーも本物だと確認しました。内戦中に自身が志望した状況を想定して書かれた手紙のよう。これはキャップの遺書です。最後の意思を、バッキーでもシャロンでもなく、現代の無二の親友と内戦中も信じたトニーへ託したのです。トニーはそれを読み、ただうなだれるしかありませんでした。もう1度酒を飲ませる気かとぼやいてしました。トニーは改めてキャップが死んだ当時の映像を見返します。遺体から推測できるのは、銃弾が3発打ち込まれたこと。そしてうち1発は遠距離、恐らくクロスボーンズが狙撃したものでしょう。そして最後の2発は至近距離で放たれたものです。絶対的な致命打となったのはこの2発。100以上の報道カメラが大挙し、しかし誰も2発の銃弾が発射された瞬間を目撃していません。当然映像にも、誰が撃ったか記録されていません。映像が時々キャップを移さないのは、フューリーの工作でしょう。しかしそれを抜きにしても、明らかな暗殺者が見つからないのです。いいえ。トニーにはある推論がよぎりました。SHIELDの隊員を洗脳した精神科医が治療していたのは、恐らくもっと多かったでしょう。現在休職している隊員にまで範囲を広げれば、診断を受けていた隊員たちのリストに答えはあるはずです。トニーは真犯人に辿り着きました。
f:id:ELEKINGPIT:20240131221321j:imageキャップが死んだ当時の映像を見返すトニー。辿り着いた真相はあまりにも残酷なものだった。

 

〈時代の終わり〉

キャプテン・アメリカの死亡という衝撃的すぎるエピソードを描いた本作。内戦最後の悲劇として、この出来事は後年にまで人々の心に刻まれます。しかしここである疑問が浮かぶはずです。何故キャプテン・アメリカは死ななくてはならなかったのか? シビルウォーはキャップの降伏と逮捕により終結しています。本作のスタートはその後であり、キャップの死=シビルウォー終結を描きたかったわけではないことは明白です。では何故キャップは死ぬ必要があったのでしょうか?

キャプテン・アメリカスティーブ・ロジャースというキャラクターの要素の1つに、「時代に取り残され永遠に戻れない孤独を抱える」というのが挙げられるでしょう。キャップは古きアメリカの象徴なのです。古きアメリカとは? 本作ではそれを簡単に説明しています。1920年代生まれのキャップは、アメリカの貧しい時代も豊かな時代も見てきたと。アメリカ経済が劇的に発展した1920年代は、誰もが狂乱し世界最大の大国へと向かう自国を誇りに思っていたでしょう。ところが1929年末、世界恐慌が始まり狂喜に塗れていたアメリカは大きな被害を受けることとなります。たった10年でアメリカは世界の頂点と奈落を体感したのです。そんな中でもアメリカは自由の精神を忘れることはありませんでした。当時から様々な人種が混ざり合って暮らしていたアメリカでは、文化的、人種的な衝突がありながらも発展を遂げます。黒人文化が花開いたのもこの頃です。ハーレム・ルネサンスと呼ばれたこの文化運動は、ジャズを定番化させ、アフリカ系アメリカ人の多くが仕事を求め南部から北部へ移動しています。また若者による新たな文化も誕生し、モラルやマナーの規範が新たになったのもこの時代です。少し話はそれてしまいましたが、このような時代にスティーブ・ロジャースは生まれました。多くの問題を孕みながらも新時代への希望と自由を夢見た狂喜狂乱の時代と言えるでしょう。誰もが自由と希望を抱く。これこそがアメリカンドリームの根幹でしょう。このアメリカンドリームを内包して生まれたのがキャプテン・アメリカだと言えます。では、現代(発刊当時)はどうでしょうか? 2度目の大戦も勝利で終え、世界最大の大国となったアメリカは、世界の警察を自負し様々な国の戦争に介入していました。ベトナム戦争やアフガン紛争などがこれに当たるでしょう。しかしそれらを経て、アメリカは世界へ憎悪をばらまいただけだと気付きます。それが9.11同時多発テロです。アメリカ本土が初めて大きな被害を受けた衝撃はもちろんですが、その元凶の更に元凶を辿るとアメリカに行き着く事実は多くが受け入れがたく、しかし目を背けられないものだったでしょう。飛行機がビルに突っ込む瞬間を目撃し、誰がこの先の未来へ希望をいだけるでしょうか? この時代を狂喜狂乱できたでしょうか? 狂喜狂乱はアメリカンドリームの真髄ではありませんが、増大したアメリカという力はやがて、無邪気に自由と希望を抱く人々を自国民から減らしてしまったのです。

改めてマーベル・ユニバースの当時を振り返ってみましょう。スタンフォードの悲劇を始め、当時はヒーローによる人的被害が繰り返されていました。この時代に希望を見出すには悲観すべき事件が多すぎました。それでもキャプテン・アメリカは、アメリカンドリームを掲げ続けていました。人々がその姿をどう受け止めたかは、劇中の端々でも分かります。少なくとも、アメリカンドリームを簡単に信じられる状況ではないことは皆が思っていたのでしょう。その結果がシビルウォー終盤、キャップを止める市民の姿です。市民とキャップの間に大きなズレが生まれていたのです。あの頃のアメリカンドリームを掲げるには、時代は変わりすぎたのです。ではアメリカンドリームは終わってしまったのでしょうか? 劇中では、トニーがSHIELDの長官となった新体制でのアベンジャーズ結成が発表されるシーンがありました。そこでトニーはキャップが新アベンジャーズに加わらないのか? という質問を受けていました。人々はキャップの死を目撃していながら、なおもキャプテン・アメリカというヒーローを求めたのです。人々はアメリカンドリームを完全に諦めたわけではないのです。キャプテン・アメリカの死は、アメリカンドリームの終焉を象徴していました。1920年代から現代ではあまりに時代が遠くなりすぎたのです。しかし人々がアメリカンドリームを諦めたわけではありません。人々が求めるアメリカンドリームの行方はどうなるのか? その答えは次巻以降にアンサーが提示されるでしょう。