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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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【第2回】キャプテン・アメリカ視点で見るシビルウォー

超人登録法の賛否を巡って争ったシビルウォー。前回はトニーの視点でシビルウォーを紐解いて行きましたが、シビルウォーの主役はトニーだけではありません。理想に邁進したキャップはなぜ政府と戦ってでも超人登録法に反対したのでしょうか? 題して、「キャプテン・アメリカ視点で見るシビルウォー」です。今回も、前回同様シビルウォーについてオタク語りをする記事となっております。ご了承ください。
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前回はこちらelekingpit.hatenablog.com

 

関連作品及び日本語版関連作品はリンク先でお確かめください。

 

〈ヒーローから見た超人登録法〉

キャプテン・アメリカの視点でシビルウォーを考えるには、まずヒーロー視点で見た超人登録法を紐解いていかねばなりません。そこで注目したいのが、Road to civil warでのファンタスティック・フォーのスーザンが発したとあるセリフ、「選挙の票集め。そうに決まってる」というものです。若いヒーローのミスにより死者600名以上を出したスタンフォードの悲劇以前から超人登録法の存在は公になっていました。しかしスーザンはこれを選挙で注目を集めるための施策だと考えているのです。Iron man civil warでも、トニーが票や小金目当ての政治家ばかり集まってくると嘆く姿が描かれていました。実際政治家にとって超人登録法というものはその程度のもので、スーザンの推察は間違っていなかったと言えます。また、ヒーローにとって超人登録法の成立が唐突であったというのは、Civil war序盤のバグスタービルディングでの会合を見ると明らかです。それ以前に「法が成立した場合」の話し合いを行っていなかったと考えられます。ということは、ヒーローの視点で見ると登録法はスタンフォードの悲劇がなければ成立はあり得ないものだったという認識だったのでしょう。またIron man civil warでは、当時トニーが超人登録法を反対するために動いていたことをキャップは知っていたセリフがありました。キャップの視点で考えても、トニーに任せていれば解決するものだと信じていたようです。スタンフォードの悲劇で成立が確定的となるまで、キャップもまた他のヒーロー同様に成立しない法だという認識だったことがわかります。
f:id:ELEKINGPIT:20240210103232j:imageバグスタービルディングで超人登録法のについて話し合うヒーロー。悲劇が起きるまでは支持されない法だと考えていたよう。

 

楽観的ともいえる対応ですが、それほど超人登録法には多くの問題がありました。第1に、ヒーロー活動を行う場合その正体を政府に登録せねばなりません。また給料が保証される代わりに、SHIELDの指令を受けなくてはなりません。反対派が指摘する問題点はこれらにありました。身分を政府に登録すると、ハッキングが得意なヴィランから正体に露呈するのでは? 正体を明かしているヒーローも、事実上SHIELDのエージェントとなる条項には猛反対しています。また、キャプテン・アメリカは超人登録法が構築するシステムに問題があると指摘しています。その指摘が最も分かりやすく主張されているのは、What if? civil warでしょう。トニーが死んだ世界で超人査問委員会と議論するキャップは、死者が出ないように戦い続けるのは不可能だと主張します。国家や世界を転覆させようとする敵を相手に誰も巻き込まないことは、誰よりも戦い続けているキャップが無理だと実感しているのです。また1人、あるいは数人の個人の支配下にヒーローが身を置くようなシステムは非常に危険な誘惑だといいます。強大な力を持つ組織は必ず腐敗するのです。最初は誠実な理念のもとで組織が運営されたとしても、腐敗が進めば特定個人の利益のためにヒーローの力が行使されてしまいます。多くの過去を見てきたからこそキャップは声高に主張するのです。この法には断固反対だと。
f:id:ELEKINGPIT:20240210112726j:image超人登録法の施行が確定となった瞬間から断固反対を主張するキャップ。腐敗を招くシステムにヒーローが利用されるなら、絶対に成立はありえないのだ。

 

キャプテン・アメリカvs超人登録法〉

登録法の成立が不可避となった瞬間から、キャップは地下へと潜りました。法が構築するシステムが腐敗を呼び、ヒーローを利己的に利用できるものならば成立することさえハッキリとNOを突きつけなくてはなりません。アイアンマンのように内部革命が名目だったとしても、悪法であれば従うことは許されません。それがキャプテン・アメリカの正義であり、自由の守護者としての振る舞いなのです。それがたとえ政府であったとしても、悪法に従うのは少なくとも「キャプテン・アメリカ」ではありません。New avengers civil warでは、スティーブ自身がそれを言い聞かせている描写があります。また、自身の主張を書籍や絵画で発表しようか思案しているシーンがありました。誰も信用できない状況に陥ったからこそ、少しでも賛同者を得ようとしていたのです。地下へ潜り、賛同者も得にくい状況で内戦を迎えたキャップ。その覚悟が現れているシーンがCivil war本編で描かれています。シビルウォー中の有名なシーンとして、話し合いを提案するアイアンマンへキャップが、握手すると同時に電磁スクランブラーでアイアンマンを攻撃するシーンです。よくキャプテン・アメリカはそんなことをしないと話題になる場面ですね。何故キャップはそのような行動に出たのでしょうか? 超人登録法に従うことはキャプテン・アメリカにとってありえません。それは立場を同じくするヒーローも同様です。ならば超人登録法が否決するまで戦い続かなくてはならないのです。トニーと同様にキャップもまた、必勝不敗の戦いになると考えていたに違いありません。反対派の敗北は即ちSHIELDや政府へヒーローが従属することを意味し、自由と正義を守るものがいなくなってしまうのです。以上を踏まえると、絶対に負けられない戦いにおいて、親友を倒すことで後戻りできない状況に自らを追い込み、褌を締め直したようにも考えられます。この戦いで賛成派と反対派の対立が露わになったことが何よりもそれを示しているでしょう。
f:id:ELEKINGPIT:20240210205538j:imageアイアンマンをも攻撃するキャプテン・アメリカ。それはキャップ自身の覚悟を表すものだったのかもしれない。

それほど超人登録法に断固拒否して必勝不敗の覚悟を示したキャップですが、最後には自ら手首を差し伸べ逮捕されてしまいます。何故キャプテン・アメリカは最後に出頭したのでしょうか? キャップが出頭する直前、キャップは追い詰めたアイアンマンへとどめを刺そうとしていました。しかしそれを市民が庇い止めたのです。これにキャップは涙を流し、守るべきものを思い出して出頭するという一連の流れがありました。キャップの守るべきものは、平たくいうと自由と正義です。キャップはヒーローの自由が侵されるから超人登録法に反対しました。そしてファンタスティック・フォーのスーザンの推測通り、超人登録法は元々選挙の票集めや小金目当ての政治家が生み出したものだと考えられます。超人登録法は成立以前から高潔な理念や精神がなく、そこに正義はないのです。守るべきものが守られていないから反対しているのです。しかし最後にキャップが降伏したのもまた、守るべきものが守られていないからでした。これはどういうことなのか? 答えは簡潔で明白です。キャップのいう自由と正義は全て市民のためにあるのです。キャップが戦うのは、市民が自由と正義を全うするためです。それは宿敵のレッドスカルがナチズムを信奉していることからも読み取れます。キャップはシビルウォー最後の戦場となったマンハッタンが黒煙に塗れ、市民が自分の攻撃から身を挺してでもアイアンマンを守ったことから悟ります。市民が選んだ自由がそこにあると。自由とは自分勝手に好き放題振る舞うことではありません。その選択を自ら選択し、また選んだ責任を自身で負うことです。自由の守護者たるキャップがそれを理解していないはずがありません。守るべき市民を蔑ろにし、また市民の選んだ自由を守れていなかったからこそキャップは出頭を選択したのでしょう。
f:id:ELEKINGPIT:20240210211727j:image市民に攻撃を防がれるキャップ。守るべき正義はそこにあった。

 

〈まとめ〉

超人登録法は、ヒーローにとって成立しないものだと思われていました。選挙の票や小金目当ての政治家が作成した法律であって国民が納得するはずがないと考えていたからです。キャップ自身、トニーが反対活動を行っていることを認識しながらも何らかの動きを見せなかったことから、成立しないと考えていたことが分かります。ところがスタンフォードの悲劇以来、超人登録法の成立が確定的となった時点でキャップは地下は潜ります。超人登録法を断固反対するためです。超人登録法には多くの問題が存在していますが、中でもキャップが反対しているのは、システムによる腐敗でした。個人または少人数がヒーローコミュニティの上に立つことを危惧していたのです。最初は高潔な理念によりシステムや組織が運営されたとしても、やがて腐敗し、特定個人の私利私欲のために使われる恐れがあるためです。例え政府と戦うことになろうとも、それがキャップの正義でした。そのためトニーのような内部改革はキャップの中に選択肢としてありえませんでした。内部改革には時間かかりますし、改革が終わらぬうちはSHIELDに従うも同然です。自由と正義にのみ従うキャップであればそれは明白だったでしょう。自由と正義に反するならば超人登録法は絶対に許されません。しかしそんなキャップが最後には降伏したのは、守るべきものが守れていなかったからでした。キャップは自由と正義の守護者です。自由と正義とは、市民にとっての自由であり正義です。それを内戦によって蔑ろにしてしまい、また市民が選んだ側がアイアンマンであることを悟ったからこそキャップは降伏したのでした。

現実的な勝利を目指すトニーと、理想の勝利を狙ったキャップ。その差は読者への印象の違いという形で顕著に現れました。理想のために命をかけ、自由と正義の盾として戦い続けたキャップ。戦いに負けはしましたが、降伏した理由も含めて最後まで主義主張が一貫していたことは間違いありません。判官贔屓もあるかもしれませんが、シビルウォー中のキャップに多くの支持が集まるのは、そんな理想を貫き続けた力強い姿を崩さなかったからこそでしょう。