アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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FALLEN SON DEATH OF CAPTAIN AMERICA

キャプテン・アメリカの死は、本編では周囲の反応とその後に焦点を絞られて描かれました。しかしキャップを尊敬し敬愛しているのはそれだけではありません。本作はキャップの死を、「死の受容プロセス」になぞらえて多くのヒーローが受け入れる姿を描いています。アメリカの落日にヒーローはどのように向き合うのか、目が離せません。
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日本語版関連作

blistercomics.jp

 

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※今回は紙の本から画像を引用しております。見えにくいなどありましたらコメントいただけると嬉しいです。

 

〈あらすじ〉

キャプテン・アメリカが死んだ。この揺るがし難い事実をまざまざと思い知ったヒーローたちは、否定し、怒り、取引し、落胆し、受容していく。日はまた昇り、再び光を人々へ見せるために。

 

〈落日と日の出〉

ウルヴァリンデアデビルと協力し、ヘリキャリアに侵入していました。内戦が終わっても超人登録法を違反している現状、2人は犯罪者なのです。ドクター・ストレンジの手で10分間特定の人物以外視認できないようにしてもらい、2人はある人物の元へ向かっていました。拘束されたクロスボーンズです。クロスボーンズは2人の姿が見えています。ウルヴァリンデアデビルはクロスボーンズを尋問。そしてキャップの遺体を確認しようとします。このタイミングでストレンジの魔法が切れ、アイアンマンに見つかってしまいました。キャプテン・アメリカは死んだのだ。そう言うアイアンマンへ、ウルヴァリンはその言葉が誰に向けたものかを問うのでした。この行動になんの意味もありません。ウルヴァリンは確かめようとしていたのです。本当にキャプテン・アメリカが死んだのかどうかを。当然確かめるまでもなく、棺に横たわっていたのは見知った顔でした。その表情は固く変わらぬまま、ウルヴァリンデアデビルは隠れ家へと帰っていきました。隠れ家には、既に潜伏していたシークレットアベンジャーズが集結していました。カードでちょっとした賭け事をしているようです。同じ頃、政府公認のマイティアベンジャーズはタイガーシャークと呼ばれるヴィランと戦っていました。ところがリーダーのミズ・マーベルはどこか様子がおかしく見えます。必要以上に敵を攻撃しているのです。怒りに任せ、喪失感をごまかすように敵を痛めつけるアベンジャーズ。本来それを諌める立場であるはずのミズ・マーベルが積極的に行っているようにさえ見えるほどでした。
f:id:ELEKINGPIT:20240202225740j:imageタイガーシャークと戦うミズ・マーベル。しかし必要以上に叩きのめしてしまう。

 

また同じ頃、トニーはある人物に会っていました。クリント・バートンです。クリントはワンダの手で死から蘇っており、超人登録法もシビルウォーもまだ充分に知ってはいないようです。そこでトニーが持ちかけたのは、クリントにキャプテン・アメリカを引き継いでほしいという話でした。当然驚くクリント。持ち前の技術を活かして盾の扱いは完璧でしたが、何故自分が選ばれたのか疑問が晴れません。盾とコスチュームを託され、2人が向かったのはヤングアベンジャーズヴィランが戦っている場所でした。ヤングアベンジャーズにとって大した敵でもなく、すぐに勝利。問題はここからです。クリントの仕事はここからだとアイアンマンは言います。なんとこの若者達を逮捕しろと言うのです。ヤングアベンジャーズは超人登録法違反で拘束対象。ならばこの措置も当然なのですが、クリントは納得できません。そもそも、何故自分にキャプテン・アメリカを継がせようとしたのか? キャプテン・アメリカを失いたくないあまり、意味のない取引を持ちかけているだけではないか? クリントは盾とコスチュームを返却し、シークレットアベンジャーズへと合流しました。少し後。スパイダーマンはベンおじさんの墓の前で佇んでいました。何度も大切な人を失っても、この感情には慣れません。ふと隣を見ると、宿敵ライノが立っていました。何故ここに? 何か良からぬことを企んでいるのか? スパイダーマンは、まだ何もしていないライノを攻撃し始めます。ハイパワーなヴィランに苦戦するスパイダーマン。脳裏にはハルクと戦い、キャップに助けてもらった時の記憶が浮かんでいました。スパイダーマンは戦いのあと、グウェンが死んだ場所にいました。この喪失感をあと何度体感したらいいのだろうか。励ますウルヴァリンの声もどこか遠くに聞こえるようです。
f:id:ELEKINGPIT:20240202234058j:image雨に打たれ、ただ耐えるスパイダーマン。あと何度この気持ちを経験したらいいのだろうか。

 

拒絶し、怒り、取引をし、落胆してもいつかは受け入れなければならない日は来るでしょう。その絶好のタイミングの1つが葬式かもしれません。その日は分厚い雲が空を覆っていました。キャプテン・アメリカの棺には国旗が被せられ、静かに葬儀場へと運ばれ始めます。名だたるヒーローや、悪夢の大戦に参加した老人たちも参列していました。ナチスの収容所からキャップに助けられた人も参列していました。誰もがキャップを尊敬し、その死を悼んでいました。葬儀の代表スピーチを行うのは、トニー・スタークです。キャップの現代の盟友として、最も信頼されていた人物の1人です。しかし死の直前まで超人登録法の賛否を巡り争い、互いに深い傷を負ったまま死に別れてしまいました。そんな人物の言葉に皆が注目します。ところがトニーは、未だキャップの死を受け入れられていない様子。「こんなはずでは……」そう言い残し、壇上を後にしてしまいました。トニーが気付いたの死を受容したのは更に数日を要します。トニーは「キャプテン・アメリカの墓」とは別に、「スティーブ・ロジャースの墓」を用意していました。現代でキャップが発見された氷原です。この近海に棺を沈めることで、スティーブ・ロジャースを弔うことでトニーはその死を受容しようとしていたのでした。アベンジャーズとして共に戦い、内戦もキャップが敵対したからこそ信頼して本気で争うことができた。もう2度と戻らないであろう栄光の過去に思いを馳せ、トニーは棺を沈めるのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20240203003020j:image残ったアベンジャーズのオリジナルメンバーと共に棺を見送るトニー。その死をゆっくりと受け止めようとしていた。

 

〈死の受容〉

本作の影の主人公は、トニー・スタークではないかと思われるほど存在感を発揮していました。全編にわたって登場し、そのたびに弱り果てた心を指摘されていたトニー。最後にはスティーブ・ロジャースキャプテン・アメリカを切り分けることでその死を受け入れようとしていました。何故切り分ける必要があったのでしょうか?

私達読者にとっても、キャプテン・アメリカの死というのは受け入れ難いものでしょう。実際、後にキャップは復活しマーベルユニバースで活躍し続けます。この「暗黙の了解」がなければ、より耐え難いものとなっていたに違いありません。本作は、そんな読者もキャプテン・アメリカの死を受け入れるための物語なのでしょう。本作では、キャップの遺体が1度も描かれていません。それがどこにあるのかは明白でありながら、1度もキャップが死んだ姿が登場していないのです。私達はスティーブ・ロジャースキャプテン・アメリカを求めます。その高潔な精神は他の誰も真似できない、不屈の精神共々最強の武器であることを理解しているからです。スティーブ・ロジャースこそキャプテン・アメリカとして優れた資質を持っており、代え難いものだと知っているからです。しかし実際はキャプテン・アメリカの名前も受け継がれ、その中身は変わっていきます。キャプテン・アメリカを死なせてはいけない。これはスティーブの遺志でもありました。トニーはスティーブの遺志を実行することで、その死を受け入れようとしていたのです。クリントにキャプテン・アメリカを引き継がせようとしたように、トニーは新たな「キャプテン・アメリカ」を誕生させることでスティーブの遺志を実行し、少しずつ死を受け入れようとしたのでした。では何故スティーブとして弔ったのか? トニーはスティーブへ安からに眠ることを望んでいました。当然死者へそれを願うのは皆変わらないでしょうが、わざわざ北極の氷原に墓を選んだことからその本気度がうかがえます。そのため、スティーブからキャプテン・アメリカという荷物を降ろしたかったのではないでしょうか? スティーブ・ロジャースとして弔うことで、キャプテン・アメリカは死ななかったことを証明しようとしていたのかもしれません。一方、トニーは後日(別作品ではありますが)キャップの死を悼んでいる様子がありました。スティーブではなくキャップにです。トニーはスティーブからキャプテン・アメリカの称号を別の人物へ引き継がせます。しかしそれでは、よりスティーブの死を実感したことでしょう。動きもクセも話し方も、何もかもが文字通り別人なのですから。現代の盟友だからこそ、トニーはスティーブとの違いをより実感するはず。トニーにとって、キャプテン・アメリカとはスティーブ・ロジャースしかいないという思いの証が、未だキャップを悼む心なのでしょう。