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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN HYPERVEROCITY【2021年8月の私的ベストアメコミ】

今回はアイアンマンのミニシリーズを紹介したいと思います。時系列としてはシビルウォー後、トニーがSHIELDの長官になった辺りでしょうか。もちろんそういったことを考えずに楽しめる作品となっておりますので、ご安心を。HYPERVEROCITYのタイトル通り、超高速の迫力ある戦闘シーンはもちろん怒涛の展開の連続に惹き込まれること間違いなし。是非本編もチェックしてみてください。
f:id:ELEKINGPIT:20210829112110j:imageIRON MAN HYPERVEROCITY

※なお今回は紙の書籍から画像を引用させていただきます。見えにくい等ございましたらコメントにて教えて頂けると幸いです。

 

〈あらすじ〉

SHIELDのケープキラーに追われるアイアンマン。彼には使命があった。数時間前、トニー・スタークに瀕死の重傷を負わせた敵の正体を突き止めるのだ。彼の名はトニー・スターク2.0。世界最速の装甲と計算速度を誇るAIである。

 

〈トニー・スターク2.0〉

ケープキラーとは、簡単に言えばSHIELDが組織した対超人部隊のことです。シビルウォーの最中に施行された超人登録法に違反したヒーローを逮捕する目的で組織されました。では何故ケープキラーがSHIELD長官であるアイアンマンを追うのか? そもそも、通常では不可能な程の速度で飛行するアイアンマンは何者なのか? という疑問から本作はスタートします。
f:id:ELEKINGPIT:20210829165608j:image「正確にはトニー・スタークではないが」そう言いながら頭を付け直すアイアンマン。その中にはいるはずの鉄人がいなかった。

その正体は、アイアンマンの最新型アーマーに搭載された自律型AIがトニーの意識データをコピーしたものなのです。オリジナルに比べ、AIは自身をトニー・スターク2.0と名付けていました。トニー・スタークであってトニー・スタークではない。しかし彼もまたアイアンマンなのです。

しかしそもそもトニーが自分以外にアイアンマンを託す時、トニー自身にのっぴきならない事情があることがほとんどでしょう。それは今回も例外ではありません。今から数時間前、新型アーマーが完成したトニーの前に見たこともない敵が現れます。首と肩が一体化したような人型で、影が立ち上がったかの如く真っ黒な体をしていました。全身には様々な言語が散りばめられており、文字がぼうっと光って浮かび上がっています。怪物なのか、装甲スーツなのか、それすらも分かりません。グロテスクとも怪異とも取れる「それ」はレールガンでアイアンマンの装甲を貫き、トニーの意識を一瞬で奪いさります。そこでアイアンマンに搭載された自律型AIが咄嗟に意識データをコピーしたのです。しかし咄嗟に行われたこの作業、敵の攻撃に晒されながら実行されたためか79%までしか達成されませんでした。トニー・スターク2.0とは、「トニーであってトニーではない」という自嘲も込めたネーミングなのでしょう。
f:id:ELEKINGPIT:20210829212328j:imageトニーを襲う謎の敵。その正体も目的も分からない。

 

〈アブシンセの魔の手〉

もちろんケープキラーもそれを把握していました。なおもスターク社の開発した最新兵器で2.0を追うのは、トニー・スタークと同じ頭脳を持つAIがSHIELD以外の手に渡ることを恐れたからなのです。2.0を追う人物は他にもいました。アブシンセを名乗るそれは、トニーの記憶を遡っても一切面識はありません。その正体も目的も分からないのです。2.0自身、最初はアブシンセのことを幻覚か何かだと考えていました。しかしアブシンセの手で2.0がハッキングされていたと分かるとそうも言っていられません。
f:id:ELEKINGPIT:20210829234242j:image2.0を執拗に追うアブシンセ。2.0を「トニーゴースト」と呼び、嘲笑い続ける。

アブシンセやSHIELDのレーダーから逃れるため、2.0は海中へ逃れることにしました。そこでは沈没船を使ってパーティを開く、人間を裏切ったロボット達が。それらは元LMD(ライフ・モデル・デコイの略。SHIELDが使う囮ロボ)を含む人間を憎むロボット達なのです。2.0もロボットの残骸を纏い、この機械群に紛れてアブシンセをやり過ごそうとします。しかしその時、オリジナルのトニーを襲った敵と同様数々の言語が体中に浮き上がるのです。同時、アブシンセのハッキングで命令を受けたロボット達が2.0を襲撃します。

 

〈華麗なるゴミ〉

圧倒的な数の前に2.0は堪らず上空へ逃げ出しました。しかしこれこそがアブシンセの狙いなのです。2.0を再びレーダーで捕捉したケープキラーが迫ります。同時、ケープキラーのヘリキャリアにトニーを襲った不気味な敵が姿を現しました。2.0もすぐさまケープキラーの救援へ向かいますが、アーマーをも貫く強力な火器を持つそれらに敵うとは思えません。システムを全て攻撃に回して何とか迎撃しようとしたその瞬間、今度はアブシンセが再度ハッキングを試みます。最早防御手段のない2.0。記憶中枢にまで魔の手が伸びるのにそう時間はかかりませんでした。アブシンセは早速2.0の記憶データの書き換えを始めます。一方オリジナルのトニーを襲った「正体不明の敵」はアブシンセに「華麗なるゴミ達」と呼ばれ、その命令に従いヘリキャリアに搭載された熱核爆弾を起動させます。
f:id:ELEKINGPIT:20210830005934j:image次々と消され始める2.0の記憶。そこには常に「アイアンマン」の姿が。

 

〈アブシンセの正体〉

絶体絶命の2.0。しかしこれで終わるようなトニー・スターク2.0ではありません。逆転の一手として、記憶中枢に潜り込まれた瞬間アブシンセへ意識データを移し、その記憶を探っていたのです。そこでアブシンセの正体へと辿り着きました。それはデータの集積体。今まで2.0が見ていたのはそれが作り出したアバターに過ぎなかったのです。かつてAIMやハイドラ等、様々な組織が行った実験がありました。人間の意識をデジタル化するのです。しかしどれも実験はうまくいかず、多数の犠牲者を出しただけでそれらは廃棄されました。「人間だった」アブシンセもその犠牲者の1人です。そして「華麗なるゴミ」も。禁忌の実験の第1世代となるアブシンセと「華麗なるゴミ」のデータは、当初使い捨てになる予定でした。そのためデータは廃棄されず、現在に至るのです。
f:id:ELEKINGPIT:20210830012705j:image明かされたアブシンセの悲惨な過去。本名も家族もいる、普通の生活が突然奪われたのだ。

アブシンセの記憶データに残る書き換えられる前の記憶を取り戻した2.0。自身の計画を崩されて打つ手のないアブシンセは2.0のデータ内でその様子を見守り始めます。そう、「華麗なるゴミ」と熱核爆弾の問題は未だ解決していないのです。2.0のスピードを上回る「華麗なるゴミ」を更に超高速で圧倒するため、2.0は瞬時にスピードアップ用のアプリケーションを開発、自身にインストールしました。アブシンセ同様ハッキングで味方同士を争わせるなど、ついに「華麗なるゴミ」を凌駕した2.0。すぐさまカウントダウンの始まった熱核爆弾の対処に向かいます。残る時間はわずか5秒足らず。今の自分なら100分の1秒で爆弾を解除出来ると語りますが、爆弾に到達する頃には、残された時間は0.009秒。2.0の運命はどうなってしまうのでしょうか。
f:id:ELEKINGPIT:20210830015220j:image2.0が閃光に包まれながら幕を閉じる本作。その後の結末は皆様の想像次第。

 

〈アブシンセと2.0〉

実はアブシンセと2.0は作中で数多くの共通点があります。両者ともデジタル化された「元人間」であること。凄まじい速度で進化することです。特にクライマックスの高度な頭脳戦は本作の醍醐味と言ってもいいのではないでしょうか。そしてもう1つ、実は2.0を構成するAIも先に述べた「人間の意識をデジタル化する実験」を基に作られていることです。2.0は廃棄されたデータの海賊版を入手し独自の技術で手を加えたのですが、両者とも基は同じ存在なのです。では両者の決定的な違いとは? これこそがトニー・スタークと2.0がアイアンマンであることの証拠だと私は考えます。そもそもアブシンセが執拗にトニーや2.0を狙ったのは、自分や「華麗なるゴミ」の速度を更に高める頭脳の持ち主だからなのです。つまりより速くなる(進化する)ためだったのです。進化を他人に委ねるのか、それとも自分が進化し続けるのか。そのたった1つの、しかし決定的な違いこそがラストバトルにも表れているのではないでしょうか? アイアンマンが何故アイアンマンなのか。それは自らが常に進化し続ける存在だからなのです。