アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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TALES OF SUSPENSE #42

最初期のアイアンマンといえば、どちらかというと「反共の戦士」という側面もあったように思います。冷戦下当時の空気を醸し出すようですが、正義vs悪という構図になりやすいヒーローものではこういった政治的側面を切り離すことは難しいのでしょう。ベトナム戦争から誕生したアイアンマンは、今作のように度々「反共の戦士」としてソ連系の敵と戦うことがあります。発売から半世紀以上経った現代であえてこの作品を読むならばそういった歴史的背景を頭の隅に置いておくことは非常に重要です。
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〈あらすじ〉

東の彼方からやってきたのは、脅威の侵略者だった! あらゆる人物になりすますことが出来る「アクター」は、トニー・スタークに化けることで米国の武器弾薬に関する情報を抜き出そうとしていた。しかしアクターが見つけたのは、米国さえ知らない驚くべき情報だった……!

 

〈脅威の侵略者!〉

大型貨物船の甲板で飛び交う銃弾。アイアンマンが戦っていたのは東の大国からやってきたスパイです。なんとスパイは最新型原子爆弾を盗みだそうとする寸前でした。しかしアイアンマンの巧みな作戦が功を奏し、なんと積荷が原子爆弾からアイアンマンに入れ替わっていたのです。そうしてアイアンマンとスパイの激闘が始まっていました。強固な装甲に自由自在の磁力で発射された弾丸さえ操ってみせるアイアンマン。スパイの作戦が完全に失敗したのは明白です。東の果て、為す術なく倒されるスパイの姿を見て握り拳を震わせる人物がいました。レッドバーバリアンと呼ばれるその人物は、最新型の核兵器の情報を何としても我がものとするため早速次なる作戦を考案します。そこへ響く静かなノックの音。ドアの先にいたのはなんと連邦国をまとめる中央委員会の第1書記長ではありませんか! 震え上がるレッドバーバリアン。あっという間に拳ではなく腰が震え始めるレッドバーバリアンですが、実はこれはアクターと呼ばれる人物の変装だったのです。レッドバーバリアンが次なる作戦のために呼び寄せた優秀なスパイです。アクターは自分の実力を試すために第1書記長に変装していたのでした。からかわれた怒りよりも安堵で座り込むレッドバーバリアン。これほど優秀な変装術を持つならば期待していた成果を手に入れるなど容易でしょう。作戦は至ってシンプルです。レッドバーバリアンは米国軍事産業の要にいるのがスターク社であると睨んでいました。そこでまずトニー・スタークを偽の会合で呼び出し、アクターがトニー・スタークへ変装して機密情報や開発したばかりの発明品をできる限り持ち出すのです。成功すれば最新型核兵器の情報だけでなく、軍が発注した武器の種類やその対策、弱点までも分かるでしょう。そうなれば米国と直接戦争しても勝利する可能性だって十二分にあるはず。今後の国家運営さえ左右しかねない重要な作戦が動き出します。
f:id:ELEKINGPIT:20230929184047j:imageレッドバーバリアンの指令を受けるアクター。その自信たっぷりな様子と確かな技術が信頼を引き寄せていた。

 

作戦当日。偽の上院議員に呼び出され、作戦通りトニー・スタークはまんまとありもしない会合に出かけていました。アクターはトニーそっくりに変装し、堂々と正面玄関からスターク社へ忍び込みます。社長室の構造から隠し部屋があることを推測したアクターはあっという間に隠し部屋を発見。ここでアクターは驚くべきものを見つけ出します。隠し部屋で丁重に保管されているブリーフケース。施錠されてはいますが鍵を開けることは容易でした。問題はその中身です。なんとそこには黄金に輝く装甲たちがあるではないですか。アクターは確信します。トニー・スタークこそがアイアンマンだったと。アイアンマンの正体はトニー・スタークなのだと。これはこの上なく重要な情報です。目論見通り新開発した品や機密情報を盗み出したアクター。何よりアイアンマンの正体まで掴み、これまでにない大戦果を上げたと言えるでしょう。栄転間違いなしの手柄にアクターは笑みが止まりません。早速祖国の帰路につきます。本物のトニー・スタークがスターク社へ戻ってきたのはそのすぐ後でした。特段荒らされた様子はありませんが、社長室には微細ながら違和感、異質感が漂っていました。トニーは最悪の事態が起こったと直感します。そしてその直感通り発明品や情報が盗み出されたことを確認、何より隠し部屋へ入られたことは痛手でしょう。恐らく敵はアイアンマンの正体に勘づいた。肝心のチェストプレートがないからかアイアンマンのパーツそのものは盗み出さなかったようですが、こうなっては1秒でも早く敵の正体を見極めて止めねばなりません。わずかな証拠から敵が東の大国から来たスパイであることを突き止めたトニーは、早速本国へ乗り込もうと決意します。しかし今から飛行機に乗ったとして、到着する頃には敵のスパイが上官へ報告し終わっているでしょう。ならばスパイが到着する前に着けばいいまで。飛行機よりも早く飛ぶ試作型ロケットにアイアンマンとして搭乗、これなら下手なミサイルよりも早く敵国へ辿り着くことが出来ます。
f:id:ELEKINGPIT:20230929190640j:image最新型ロケットに乗り込むアイアンマン。祖国の平和を守るため、そして自らの正体を明かさないため、簡単に命を賭ける。

 

〈トニー・スタークしかできないこと〉

手を1つでも誤れば東西大戦という最悪の事態にさえ繋がりかねない、それまでの物語に比べ極度に高い緊張感のある本作。明確に敵国が、それもほとんど名指しで登場するのですから、やはり最初から雰囲気が違うことがわかります。しかしそんな本作ですが、アイアンマンのテーマが貫き通されている作品でもあります。

本作では、アイアンマンにできること、トニー・スタークにできることがハッキリと現れていました。後にトニーは自身をアイアンマンの部品でしかないのか? と思い悩む姿が描かれますが、決してそうでは無いことが初期の頃から描かれていたのです。では、まずはアイアンマンにできることを見ていきましょう。アイアンマンのできることは明白です。空を飛び敵と戦い、最も派手な活躍をすることが出来ます。また当時は着用しようと思えば誰でも可能なこともポイントです。ではトニー・スタークのできることは? 頭脳担当であるトニーですが、それ以上にアイアンマンをヒーローにしている根幹です。何故アイアンマンが敵に恐れられるのか? 何故アイアンマンが味方に敬われるのか? その全てをトニーが担っているのです。本作は1つ手を誤ると世界大戦になりかねない極度の緊張感があるストーリーでした。しかし本作をきっかけに戦争が行われたような形跡はなく、奇跡的に全ての手を誤らなかったと考えるべきでしょう。事件を解決したトニーはこの高度な政治的駆け引きを制しアイアンマンとして勝利したのです。これができるのはトニー・スタークしかいないでしょう。