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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN CRASH【2022年7月私的ベストアメコミ】

未来を創造するテクノロジーの体現者、トニー・スターク。現代では再現できないような発明品を次々と開発し続けた、文字通り正に100年先を行く人です。ではそんなトニーが、実際未来ではどのような行動を取っているのか? 気になる人も多いのではないでしょうか。今作IRON MAN CRAHは、現代から少し離れた未来が舞台の物語です。以前紹介したIRON MAN THE ENDと似たコンセプトとなっていますが、なんとこちらは1988年に発売されたもの。さらに全てCGでアートが制作されており、当時の読者にとっては未来のアメコミを想像させる1冊となったことでしょう。

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〈あらすじ〉

トニーがスターク・インターナショナル社のCEOとなってから半世紀以上の時が過ぎた。今やスターク社は世界のあらゆる産業で頂点に君臨し、トニーも自他ともに認める「全てを手に入れた男」となった。しかしトニーは突如アイアンマン関連の技術SAVを他国企業に売買すると発表。世界はテクノロジーを巡る戦争に巻き込まれようとしていた。

 

〈更に先の時代へ〉

どれほどの時が過ぎた時代でしょうか。老化防止血清で若い姿を保ったままのトニーは、アメリカ中から非難の的となっていました。なんとトニーはアイアンマン関連の技術(SAV)を他国へ売ると発表したのです。確かにアイアンマンの技術は使い方次第でいくらでも社会の助けとなります。場合によってはマストアイテムにもなりかねないでしょう。しかし使い方次第では大勢を殺しかねない危険な技術。それを他国の企業へ売るなぞ、どれほどのリスクが伴うことか。実際SHIELDのニック・フューリーは猛反発。何度もトニーへ直談判する程でした。一方トニーとて考え無しに発表したわけではありません。そもそも、スタークテックの軍事利用は長らくアメリカが行ってきたこと。アメリカ軍の武器兵装はほとんどがスタークテック或いはそれを改良したものです。またSHIELDの装備品も同様です。テクノロジーとは誰かのものでも、ましてトニーのものでもありません。世界が平等にテクノロジーの恩恵を受けるべきというのがトニーの考えでした。老いたトニーが、自らの技術を次世代へ繋ぐための手段。それが他国への売買だったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20220721101420j:imageアイアンマン関連の技術SAVを巡り激論を重ねるトニーとフューリー。根本的に違う両者の考えは大きな溝を生んだ。

 

そんな時です。売買先の日本企業ESONから、SAVのデータが流出したという報せが入ってきます。しかも流出させたのはESON社の元社員。全世界が、そしてフューリーが恐れた最悪の事態。トニーは全力で事態鎮圧に当たるため急ぎ来日することに。とはいえ流出先が分からない以上、ESON社へ監視の目を厳しくする他ありません。その間トニーを暗殺しようと企む集団が登場するなど、心休まる瞬間は1秒足りともありませんでした。しかし長らくの潜入が功を奏し、ついに敵の目的を掴むことに成功。ESON社元社員の松本宏はSAVを盗み、その技術を独自に成熟。その武力を背景にESON社と軍事提携を結ぼうとしていたのです。敵の思惑通りに進めば世界がひっくり返るかもしれない、危険すぎる計画です。相手が武力を用いるならばこちらも「力」を使うまで。トニーは最新のアーマーを装着、また新世代のアーマーとして開発した無人アイアンマンことIM2を起動させます。ESON社の社長へ脅迫が行われる直前……怒りに燃えるトニーが突入。松本宏のSAVとトニーのアイアンマンは激しい戦闘を始めました。予想外なのは松本宏の用意したSAVが既に9体も完成していたことでしょう。人間戦車とも言うべき戦闘力を有するSAVが9体。トニーの機転とIM2の連携で互角には戦えるようになりましたが、それでも苦戦を強いられるのは当然のこと。しかしここでトニーにも想定外の事件が起きます。なんとIM2に搭載していたAIが自己進化を遂げ、自らの人格を有するほどとなったのです。元来遠隔操作が主体のIM2ですが、その必要すら無くなったのです。100%戦闘に集中できるようになったトニーはSAVを次々と撃破。またIM2もそれに負けないほどSAVを倒し、遂に全滅まで追い込みました。追い詰められた松本宏は、いくつかの呪詛を吐き自爆。こうして事件は幕を引きました。一方事件の余波で人格を得るほど覚醒したIM2は、自らが2代目アイアンマンであるとトニーの前で宣言。どこかへ飛び立ち、以来行方不明となってしまいました。
f:id:ELEKINGPIT:20220722013036j:imageトニーが新時代のアイアンマンとして開発したIM2。後に自我を獲得し、2代目アイアンマンを名乗るが……

 

〈新時代へ〉

さて、今作ではクライマックスのシーンでIM2が次世代のアイアンマンとなり、トニーの前から姿を消すという展開で幕を閉じました。以前紹介したIRON MAN THE ENDでも2代目アイアンマンがトニーから称号を継承するという形で物語を終えています。共に未来世界でのトニーを描いた作品。似た結末を辿った両者ですが、その違いはなんでしょうか?

IRON MAN THE ENDのラストは、戦いについていけなくなった老トニーが将来有望な若者へアイアンマンの全てを引き継がせ、自らは「ただのトニー・スターク」として引退するという展開でした。全くの別人が栄光の称号を引き継ぐというのは、他にも少なからず例があります。マー=ヴェル大尉から巡り巡ってキャロルへ継承されたキャプテン・マーベルや、スティーブからその魂と共にバッキーやファルコンに受け継がれたキャプテン・アメリカ、世界には雷神が必要だとしてムジョルニアを持ち上げたジェーンなど、高名なヒーローは大抵称号の継承を行っていたと言えるでしょう。トニーにしか務まらないと考えられていたアイアンマンの継承は、そんな多くのヒーローと同じように行われた儀式とも言えます。作中では、トニー意外有り得ないと考えられていたアイアンマンが、常に進化し続ける象徴として描かれていました。老いを迎えたトニーがその称号を若者へ譲るのは当然の展開だったと言えるでしょう。

一方今作では、無人アイアンマンというコンセプトで開発されたIM2が自我を獲得、トニーへこれからは自らがアイアンマンであると名乗り飛び去るという展開でした。まるでトニー・スタークという人格とアイアンマンという人格が分離していったよう。トニーからアイアンマンが引き剥がされたように感じてしまいます。トニーはこの事件の後、IM2は僥倖の賜物だったとして再制作しないことにしていました。ただその存在を幸運としていました。一体どういう意味でしょうか? アイアンマンはとてつもなくトニーへ負担を強いる物、というのはこれまでの物語でも幾度となく示され続けていたことです。IM2とは、誰も傷つけずにそれを肩代わりしてくれる存在となりました。トニーにとってこれがどれほどのことかは想像するしかありません。IRON MAN THE ENDと違い、世界は未だトニー・スタークという人間が必要不可欠です。しかしトニー・スタークへアイアンマンを強いる必要はなくなったのです。