アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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THOR GOD OF THUNDER vol1 THE GOD BUTCHER

最強のアベンジャーは誰か? そんな会話をしたことはあるでしょうか。怒りで上限のないパワーを持つハルク、クリーと人間のハイブリッドであり決して挫けない精神力を併せ持つキャプテン・マーベルetc……人によって様々な名前を思い浮かべるかもしれません。しかし雷神ソーは必ずと言っていいほど名前が挙がるヒーローの1人。現代に生きる北欧神話の神であり、その武勇は多く語り継がれています。今回紹介するTHOR GOD OF THUNDERはファンから大好評のシリーズです。聞くところによると2012年にスタートした今作が2019年のクロスオーバーイベントWAR OF REALMSに繋がるというのだから驚き。現代に生きる雷神はどのような伝説を残すのか? その軌跡を辿りましょう。
f:id:ELEKINGPIT:20211022124402j:imageTHOR GOD OF THUNDER vol1 THE GOD BUTCHER

 

〈あらすじ〉

祈りが聞こえた。地球の外から届いた祈りに応えるべく、雷神は宇宙を駆る。深宇宙に存在するインディガーへ降臨し神の慈悲をもたらしたソーがそこで見つけたのは、神をも恐れさせる凄惨な過去だった。

 

〈神を屠りし者〉

北欧神話の雷神だけでなく、アベンジャーとしても名を馳せているソー。まさかそれが深宇宙まで広がっているとは思いもよりませんでした。もちろん信じる者がいればどこへでも救いに行くまで。宴の中、ソーはインディガーの首長へ問います。「何故自分たちの信仰する神に頼らなかった?」首長の答えは驚くべきものでした。なんと自分たちの世界に神はいないというのです。悠久の時を過ごすソーもそんな世界に出会ったことはありません。人々に恐怖がある限り世界が神を忘れるはずがない。現にインディガーは神のいない世界でソーへ祈りを捧げました。不思議に思い周囲を探索していると、やはりと言うべきか神殿を発見します。ところがこの神殿、長い間使われた形跡がありません。宝物庫や武器庫もほとんど手付かずの状態。誰にも会わないまま神殿の奥地にたどり着くと、そこはかんぬきに鎖が巻かれ厳重に施錠された扉を見つけます。何故神殿にこんなものが? 答えは扉の向こうにありました。
f:id:ELEKINGPIT:20211022160521j:imageまるで畜生のように殺されていたインディガーの神々。その死相は千年経った今でも恐怖に歪められている。

 

こんなことが出来るのはソーの知る限り1人しかいません。屠殺者ゴァ。神を虐殺し続け、1度はソーをも破った悪魔のような敵です。千年以上前に殺したと思っていましたが、それを見る限り未だ神殺しを続けている様子。一刻も早く捕まえるべく行動を開始します。まずはその足跡を追うため、全知の殿堂と呼ばれる場所を訪ねました。そこは太古と呼ばれるほど昔に建てられたいわば図書館。宇宙のあらゆる知識が納められた知の宝庫です。その中にある亡失の殿堂は、死亡あるいは行方不明になった神々の記録が保管されています。ソーはこの膨大な記録からゴァの繋がりを見出そうとしていました。どうやら少なくとも二千年以上前から神殺しを始めた様子。ソーが目撃した死体の数々には、なんと5年前に殺された神も含まれていました。骸となった神へ跪き、なおも祈りを捧げる人々を見て雷神は誓います。これ以上神は殺させない。自分が決着をつけると。しかし千年前、ゴァと戦った時に囚われた洞窟をトニーに特定してもらった時、ソーの目には恐怖が浮かんでいるとトニーは指摘します。これまでにないほど緊張し、動揺していると。確かにかつてそこでは凄惨な拷問が行われ、人間達の助けがなければ心が挫けていたほどです。あの時の自分は傲慢だったとソーは振り返ります。己のプライドのため誰にも知らせることなく、誰にも頼ろうとせず。しかし今は頼れる仲間がいます。自分に何かあったらすぐアベンジャーズを招集するようトニーに伝え、ソーは遂に単身洞窟へ足を踏み入れました。
f:id:ELEKINGPIT:20211022230239j:imageトニーに心配されるほど戦慄していたソー。それを自覚しているからこそ、仲間に頼るのだ。

 

しかしそこにゴァの姿はありません。代わりに待っていたのはシャドラクという名の神でした。ワインと滝を司るというシャドラクは、かつてゴァによってまぶたを切り落とされ兄弟の悲惨な死を見せつけられた過去があります。シャドラク曰く次の目的地は恐らくクロナックス、時間の神々が住む秘境です。シャドラクの言う通り、そこにはゴァと魔物ブラックバーサーカーがいました。ソーの目の前でまんまと時の神を殺してみせたゴァは、血の滴った泉へ身を沈めます。どうやらタイムスリップをする気です。ソーもブラックバーサーカーを振り切り後を追います。ソーが辿り着いたのは現在からさらに千年後の世界。全能の父となりアスガルドの王座についた老ソーが未だゴァと戦い続けている世界でした。しかし老ソー曰くゴァは既に別の場所へ移ったとのこと。またしても遅れを取ったことにソーは歯を食いしばるしかありませんでした。ゴァは何者なのか? そして何故神殺しをするのか? 多くの謎を残したまま、物語は次回へ続きます。
f:id:ELEKINGPIT:20211023000836j:image老ソーと共闘する現代のソー。最強の雷神同士が手を組めば敵う者はいない。

 

〈神である前に〉

今作は簡単に言えば様々な神を殺す敵にアベンジを誓うという図式でスタートしました。しかしこれに違和感を覚えた人もいるかもしれません。「様々な神」とは当然異教の神も含まれています。宗教にとって最も恐るべきは異教であり、信者は異教徒を恐れていたという歴史がありました。例えば日本にキリスト教が伝来した時もそうでしょう。キリスト教徒となりキリシタン大名と呼ばれる武士が現れた一方で、時の為政者は禁教令を出し固く禁じていました。旧約聖書では異教の教えを広めた女性を「町に悪魔を呼び込んだ悪女」として伝えています。宗教にとって異教の神は悪魔に他ならないのです。では何故ソーは異教の神を救うのでしょうか?

それを表す象徴的なセリフが、インディガーの首長に向けられた一言だと思います。「何故自分たちの信仰する神に頼らなかった?」ソーは異教の神を悪魔扱いしていないどころか、自分と同じ神と認識していたことが分かります。確かにマーベルユニバースにはギリシャ神話の英雄ハーキュリーズヘラクレスの英語読み)や戦神アレスも活躍していますが、それだけで異教の神を同列に扱うとは考えられません。

ソーは神である前にヒーローなのです。ヒーローは守る対象を選ばず、また異教徒を悪魔の使いと恐れることはありません。神は善悪を超越した存在と言えますが、ソーの行いはあくまで善によったもの。常に人々のために動き、善き行いに従事しています。それはソーが善悪を超越できていない、つまり神としては未熟であることでもあります。人間には操れない超自然的なパワーを扱いますが、ソーは神というよりヒーローなのです。だからこそ物の価値観は我々人間に近いものなのでしょう。異教徒を必要以上に恐れず、また異教の神も神として認識できる。ではもしソーが全能の父、アスガルド王として君臨したら? 異教の神々は悪魔として認識するのでしょうか? それは神のみぞ知ることなのでしょう。