ALL-NEW MARVELに突入し、ジェイソン・アーロン氏のソーもこれにてひとまず一区切り。GOD OF THUNDER誌は以降THOR誌へと続きます。今シリーズでは度々「現代の神」の意味を問われていました。トリを飾る今作では一体どんな神話が紡がれるのでしょうか?
THOR GOD OF THUNDER vol4 LAST DAYS OF MIDGARD
〈あらすじ〉
SHIELDの新米隊員、ロザリンド・ソロモンはある情報を手に入れて南極へ向かった。そこでは予想通りロキソン社が悪事を働いているらしい。駆けつけたソーの活躍でその場はなんとか収まったが、ロキソン社のCEO、ダリオ・アガーは雷神を貶める陰謀を企むのだった。
〈神々と人間〉
ロキソン社とは、マーベルユニバースで度々登場する黒い噂の絶えない企業です。表向きは国際的な大企業として名を馳せていますが、ヴィランを雇ったりヴィラン用の兵器を開発していたりとまともな企業では無いでしょう。実はMCUでもその存在が確認されており、今後注目度の上がる可能性はあるでしょう。CEOのダリオ・アガーは自らの会社を国家以上の資金力を持つと自負しており、それを使ってソーを打ち倒す計画を考えます。一方ソロモン隊員とソーは、ロキソン社が行っていた一大事業が地球環境へ大きな影響を与えていることを突き止めます。環境問題の専門家でもあるソロモン隊員は激怒していました。巧妙な隠蔽工作でロキソン社の悪事は誰にも知られていません。SHIELDの隊員でもこれを白日の元に引き出そうとすれば、たちまち名誉毀損等で訴えられるでしょう。ならば神のやるべきことは? 人間の作った法に縛られないソーは、その雷をもって裁きを与えました。
地球環境へ深刻な被害を与えているロキソンの工場を破壊するソー。人の裁けない悪を裁くのが神の仕事だ。
1連の事件は原因不明の自然災害として処理されました。しかしダリオは状況からソーの仕業と断定。神には神のやり方があるというのなら、ダリオも手段を選ばない行動に出ます。当時アスガルドはアメリカ中西部のオクラハマ州ブロクストンの上空に位置していました。そこでロキソンはブロクストンのほとんどを丸ごと買収、あえて町を汚染させます。当然帰ってきたソーは怒り、ロキソンの工場で戦闘に入ります。全てダリオの目論見通りでした。工場施設が破壊されたことで提訴すると脅し、ブロクストンとロキソン社施設の立ち入り禁止命令を下したのです。
法の裁きを盾に雷神を退けたダリオ。現代、人間の上に立つのは神ではなく法なのだ。
とはいえこのままではブロクストンが住めなくなってしまいます。ソーはダリオに許しを乞うことでブロクストンの人々の生活を守ろうとしますが、ダリオにとっては神を弄ぶ絶好の機会。打倒ソーのため雇っていたウリク達トロールを呼び出します。さらにダリオ自身も正体を明かしました。なんとダリオは恐ろしいミノタウロスに変身したのです。許しを乞うソーを一方的に殴りつけるウリク。しかしソーはこの瞬間ニヤリと笑います。実力勝負なら雷神に敵う者はいません。瞬く間にトロールとダリオを倒し、これにて問題は一件落着かと思われました。
ミノタウロスに変身したダリオ。ソーをも貫く角と突進力で神に挑む。
転んでもただでは起きない、とはダリオのためにある言葉かのようです。後日ブロクストンで記者会見を開いたダリオは、1連の事件全てをアスガルドの仕業と主張しました。ソーとトロールの戦いを目撃した者は多くいましたが、これら全ては「アスガルドと他次元の戦争」であり、アスガルドがこの地球にある限り人間が被害を受けるのだと語ってみせたのです。これがきっかけで全米でアスガルド排斥運動が起こります。人間に歓迎されない神々。ならばこれ以上留まるのは互いのためにならないでしょう。人が住めなくなったブロクストンに永遠の泉と千年の木を与え、アスガルドは元の次元へと去ってしまいました。
荒廃したブロクストンを眺めるソーとソロモン隊員。初めて人間に出会った時から余りにも世界が変わってしまったことを嘆く。
〈神か金か〉
現代社会、多くの人々は特定の宗教が誇る神々へ祈ることはほとんど無くなりました。代わりに人々はお金を崇め、お金であらゆる問題を解決しようとしました。これがいわゆる拝金教です。金の亡者を皮肉った表現なのですが、実は宗教という柱を持たない人間の多くが拝金主義に染まっていると捉える考えも存在します。現代の宗教といっても過言ではないでしょう。
ダリオの行動や動機は拝金主義者のそれと正に同じです。お金をまず第1とし、環境問題を謳いながら環境を破壊するようなプロジェクトを進めていました。またソーが詫びようとした時「金はいらない」と受け取りを拒否。自分はそんなものに興味はないという態度のダリオでしたが、逆にその姿がお金を第1にする姿勢を際立たせたようにも思います。CAPTAIN AMERICA NEW DEALの時もお話したように、現代人の課題は虚無主義からの脱却です。「我々は何者でどこへ向かい、何者になるのか?」という問いに対して答えを求めたのが宗教でしょう。ところが拝金主義もまたこの問いに答えを用意できます。ダリオの周到な作戦と執拗な執念の起源はこの辺りにあったと考えられます。
ではそれを打ち破るには? 残念ながら今作ではそれが示されませんでした。ダリオ達を見るとソーは旧来の神であり、信じられるのはお金だけという考え方。しかしお金のみを第1にすることで様々な綻びが生じていました。環境問題を無視したようなプロジェクトがそうです。一方ソーも良くも悪くも「パンチで物事を解決する」というやり方でしかダリオ達を打ちのめすことは出来ませんでした。何故か? 今回の戦いは拝金教と宗教であり、人間と神の戦いだからでしょう。神に匹敵する科学力を駆使する現代、人間と神が共存するには互いの協力が必要不可欠。特に神々は神話の時代からそうやって生きてきました。IRON MAN/THORをはじめ数多くのシリーズで示された通りです。現代ならばそこに異教かどうかは何の関係もありません。何故ソーは拝金主義に冷や飯を食わされたのか? 何故ダリオは旧来の神に負けたのか? 拝金主義や宗教に問題があったのではありません。互いに協力出来なかったからなのです。