アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN LEGACY OF DOOM

スタートから10年の時を経て完結した名作IRON MAN DOOMQUEST。しかし円卓の騎士の代名詞的な重要アイテムを拾いきれていなかった感は否めません。そこでさらに15年以上後に続編として刊行されたミニシリーズが、今回紹介するIRON MAN LEGACY OF DOOMです。クリエイター陣は当時とほとんど変わらず。当時の空気をそのまま持ってきたような空気感は、余程堅物なファンでもない限り納得してしまう程でしょう。
f:id:ELEKINGPIT:20211026172544j:imageIRON MAN LEGACY OF DOOM

elekingpit.hatenablog.com

 

〈あらすじ〉

ある日トニーは古いパワードスーツに残されたデータを発見した。それはトニーの記憶にない、もう1つのドゥームとの戦いだった。何故この戦いは記憶から消されたのか? 全世界が忘れたはずの戦いが蘇る。

 

〈騎士の悪夢〉

全編にわたってトニーの回想という形で語られる本作。まるでDOOMQUESTが刊行された当時を思わせるようなナレーションが多く、この作品がやはり続編であるという雰囲気を出しています。どうやら記録によると、物語は人工衛星を修理中のアイアンマンへドゥームが訪ねる場面からスタートするようです。共に中世ヨーロッパを旅した実力者として、ある場所へ来て欲しいというのです。最初は断るアイアンマンでしたが、プライド高いドゥームが他人を頼ろうなど何かあるに違いありません。ついにはドゥームの居城、ラトヴェリアへ足を向けていました。ドゥームによるとタイムマシンの改良中に新たな機能を発見したとの事。この機能を使って別次元へ行き、ある人物にあって欲しいと言います。トニーは念の為ドゥームの装置を調べ、また装置の一部を一時的に預かることを条件に同行することにしました。
f:id:ELEKINGPIT:20211026180336j:image辿り着いたのは、トニー曰く「ダンテのインフェルノ」を思わせるような光景。ここは地獄、大悪魔メフィストの根城だ。

 

途中スライム状の怪物に襲われながら、ようやく2人は目的地に着きます。なんとそこにいたのはメフィスト。どうやら何かドゥームと取引をしていたようで、報酬として「ある金属」の欠片を受け取ったドゥームはサッサと元の次元へ帰っていきました。ドゥームは「ある金属」とアイアンマンを交換したのです。残されたアイアンマンはメフィストの暇つぶしとして、地獄の怪物と戦わされることとなりました。さらに余興を盛り上げるため、メフィストはある人物の魂を改造した上でトニーへ放ちます。地獄製のパワードスーツを着たハワード・スタークです。
f:id:ELEKINGPIT:20211026182314j:image「お前にできることは俺にもできる」地獄で自らパワードスーツを作成しトニーに挑むのは、ハワード・スタークだった。

 

一方現代へ戻ったドゥームはある人物の元を訪れていました。モーガン・ル・フェイです。かつてアイアンマンとの戦いでどこかへ去ったル・フェイは、その後メフィストの次元に滞在していたことがドゥームの口から語られます。そしてメフィストから手に入れた「ある金属」の破片とは、聖剣エクスカリバーだったのです。ル・フェイを捕えていたドゥームはペンドラコンの血族のみが唱えられる呪文を使うよう脅します。その呪文があればエクスカリバーの力を我がものとすることが出来ます。ル・フェイはやむをえず呪文を詠唱、こうしてエクスカリバーと一心同体になった最強のDr.ドゥームが誕生したのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20211026191255j:imageエクスカリバーと同化したドゥーム。何人足りとも敵う者はいないだろう。

 

激闘の末地獄から生還したトニーは、エクスカリバーと同化したドゥームに遭遇します。たった今騙されたばかりのドゥームを信用出来るはずもなく、2人はすぐさま戦闘へ。ドゥームの武器はトニーにとって予想外なものでした。一振の剣です。ドゥームの様子が変わっていたことは気付いていましたが、銃弾を無傷で跳ね返す鉄壁のアーマーに剣で挑むとは驚きです。しかしその剣こそ聖剣エクスカリバーそのもの。鋼鉄の鎧を超え、中の人間まで斬り付けるなど造作もないことでした。闇雲に戦えばあっという間に倒されてしまうでしょう。トニーは一時撤退、策を練ることとしました。とはいえ、伝説の聖剣エクスカリバーを打ち破る方法なんて存在するのでしょうか? 無敵の剣を防ぐ術とは? 疑問に答えるように現れたのは、偉大なる魔術師マーリンでした。マーリン曰く聖剣エクスカリバーに切れない物質はありません。ただ一つ、エクスカリバーの鞘を除いて。
f:id:ELEKINGPIT:20211028125450j:image突如現れたマーリン。「目より頭を使え」というアドバイスの後、消えるようにすうっと去って行った。

 

マーリンの言葉に従い、ストーンヘンジへやってきたトニー。どこで知ったのか同じくエクスカリバーの鞘を狙うドゥームも現れます。エクスカリバーの登場を察知したのか、ストーンヘンジの石柱は2人をぐるっと囲むように地面から現れ、例えるなら闘技場へと変化しました。周囲はエネルギーフィールドに覆われ、アイアンマンのリパルサーブラストもまるで効きません。しかしこの異常事態こそエクスカリバーの鞘がここにあるという証明でもあるのでしょう。エクスカリバーの鞘を手に入れたのはトニーでした。ドゥームと同じくアーマーがエクスカリバーの鞘と同化、無敵を超えた無双の鎧が完成したのです。ところが……ヒビ割れた次元の壁からこちらを覗く者がいました。
f:id:ELEKINGPIT:20211029024055j:imageヒビ割れた次元からこちらへやってきた目玉の怪物。ドゥームの恐れていた事態が現実のものに。

 

〈ドゥームとトニー〉

今作での2人は、普段の役割を交換したような展開が続いていると感じました。目玉の怪物が現れるのを阻止しようと考えていたドゥーム、地獄で親の魂と出会ったトニー。本来ならそれぞれ担っていた役割は逆だったでしょう。今作はDOOMQUESTでの共通点と違いを踏まえた上で、あえて役割を交換させたのではないでしょうか。こうしてドゥームとトニーというキャラクター像をより深堀しようと考えたに違いありません。ここで2人の共通点や違いをより考えるのも良いですが、それは実際に読んだ方々に任せましょう。ここではそれを念頭に置いた上で、「トニーはドゥームになる可能性があるのか?」について考えていきたいと思います。

まずは前提として2人の共通点と違いに軽く触れておきましょう。母の魂という過去を重んじ、それらに全てを捧げるドゥーム。100年後の未来のために、世界を奔走するトニー。確かに2人には多くの違いがあります。しかし多くの共通点も。鎧を纏う科学者であり、世界平和を目指していることも挙げられます。ドゥームが世界征服を企むのは、自らが世界を統治してあらゆる戦争を無くすためなのです。その姿勢は今作にも現れていました。目玉の怪物が人々を襲った時、トニーはもちろんドゥームも焦っていたのです。単なる悪人では無いことが分かります。とはいえ、絶対に善人とも言えないはずです。世界平和が目的とはいえ、世界を支配しようと企んでいるのですから。

ではトニーはドゥームになる可能性があるのでしょうか? 私は「なろうと思えばなれるが絶対にならない」と考えています。トニーはアイアンマンであると同時に、国際複合企業(コングロマリット)の経営者でもあります。世界征服……とまでは行かずともある程度コントロールすることは可能でしょう。ドゥームが目指す目標にトニーは1歩リードしているのです。しかし決してそんなことをしようとはしません。独裁政治のメリットは有能な統治者ならば国会などの面倒な手続きを踏まえずとも素早く問題に取り掛れることだと思います。しかしデメリットとして、ワンマン政治だと目の届かない問題が出てくること。そして有能な統治者の次の代も有能とは限らないことです。実際日本でも、江戸幕府8代将軍徳川吉宗の次に将軍職に就いた9代目徳川家重は「吉宗の子とは思えぬ凡庸さ」と酷評されています。統治者の次の代を考える、というのはシビルウォーⅡでも同様でした。トニーは未来主義者として、ドゥームの目指す未来のさらに先まで見通していたと考えられます。

ドゥームとトニーは傲慢な人物として知られています。しかし2人の傲慢さは全く違うものです。世界征服で平和をもたらそうとするドゥームは「自分しか平和な世界を作れない」と考えているのでしょう。しかしトニーは違います。最後に未来を作るのは大衆だと信じているのです。例えばDOOMQUESTにてアーサー王の軍に加勢し、ドゥームと戦った時もそうでしょう。トニーは背後にいるモーガン・ル・フェイの存在を見破り、死者を操る術を解除させようとしました。その間アーサー王の軍が負けることなど考えてもいない様子。そして最後にはアーサー王達は勝利の雄叫びを上げていました。この姿勢からもわかる通り、トニーはあくまで未来の導き手、未来を創造する主役ではないのです。

確かにトニーは国際複合企業の経営者であり、世界をコントロールしようと思えばできるのでしょう。しかし最後に未来を作るのは大衆と信じているからこそ、絶対にそんなことはしないのです。