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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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TALES OF SUSPENSE#65

何故トニーでなければアイアンマンではないのか? という問いはアイアンマンという作品の命題の1つとも言えるでしょう。当ブログで紹介した作品だけでもWAR OF THE IRON MENHYPERVEROCITYDOOMQUESTTHE ENDなどが挙げられます。またMCUこのテーマは追求されていました。どれほ突き詰めてもまた新たな答えが現れるという事実だけでもトニーがアイアンマンである証明といえますが、実は生みの親スタン・リーもまたこのテーマに挑戦していたことはご存知でしょうか? アイアンマンを創造したスタン・リーだからこそたどり着いた「何故トニーでなければアイアンマンではないのか?」その答えに注目です。

※なお当時のTALES OF SUSPENSE誌はキャップの短編とアイアンマンの短編をそれぞれ1話ずつ刊行していました。今回紹介するのはアイアンマンの短編です。
f:id:ELEKINGPIT:20211108133331j:imageTALES OF SUSPENSE#65

 

〈あらすじ〉

ペッパーとハッピーを本社に残し、アメリカ中西部のとあるロケット工場を視察しに来たトニー。自らが開発した超出力を操るトランジスターの性能を確かめ帰路に着くが、そこである重大なミスに気付く。一方トニーの秘密ラボにはある侵入者が忍び込んでいた。

 

〈アイアンマンvsアイアンマン!〉

ウィーゼル・ウィルズは前科3犯の凶悪な強盗でした。トニーも信頼する優秀な警備員をまんまと欺き難なく秘密ラボへ侵入したウィルズ。金目の物を盗んでさっさと逃げるつもりでしたが、そこでトニーの忘れたあるアタッシュケースを発見します。アイアンマンのパワードアーマーが入ったアタッシュケースです。どうやら安全装置を外したまま置き忘れていたらしく、ウィルズはパワードアーマーを盗み出して銀行を襲撃する計画を思いつきました。アベンジャーが銀行強盗とは前代未聞のはず。銃弾も全く効かない鋼の鎧で大量の給料袋(今作が発刊された当時はATMがなく、給料は現金支給)を持ち出す姿を新聞がこぞって報じます。トニーも新聞の速報でパワードアーマーが盗まれたことを知ります。
f:id:ELEKINGPIT:20211108162616j:image最新型のアーマー、モデル2を着用するウィルズ。世界最強の鎧が初めて悪事に使われた。

 

トニー曰く本来ならアベンジャーズを出動させる大事件ですが、当時アベンジャーズはそれぞれの拠点で独自に活動しており、米国中からメンバーを集めるには時間がかかるという弱点がありました。頼れるのは旧型のモデル1-3とトニー・スターク自身のみ。さて、ここでは新型と旧型でどれほどの性能差があったのかを見ていきましょう。まずは旧型。砲弾を簡単に受け止める堅牢な装甲と石壁を粉々にする破壊力、車6台を同時に宙に浮かせるほどの超磁力が主な特徴でした。パワーだけなら新型すら上回っており、地球への侵略を目論んだ宇宙ロボットすら倒しています。しかしその分鈍重な動きと活動時間が短いことが弱点。それを解決するために開発されたのが新型のモデル2です。スピードと運動性能は旧型の比ではなく、伸縮金属と軽くなった重量のおかげで着用スピードが大幅にアップしました。また弱点だった出力は、トランジスターを2つ搭載することで解決(旧型は1つ)。活動限界時間の延長にも成功しています。余った出力を有効活用するためか武装も豊富で、指から放つエネルギーブラストやアーマーの出力を全て使う必殺のリパルサーレイを有します(現在は連発していますが、当時は1回しか使えませんでした)。旧型に劣るとはいえパワーもキャプテン・アメリカに「自分より強い」と言わせるほど。このように新型は旧型を大幅に上回る性能を持っており、これからトニーが挑む戦いは余りにも絶望的なものなのです。
f:id:ELEKINGPIT:20211108170951j:image旧型アーマーで敵を襲撃するトニー。この戦いに勝機はあるのか?

 

ウィルズはトニーの襲撃に驚きますが、すぐに気持ちを切り替えます。いくら相手がアイアンマンといえど今自分が装着しているのは最新型。無敵なのは自分だという確信がありました。遠距離攻撃でトニーを翻弄し、10トンもの巨大な装置で押し潰そうとします。一方アイアンマンの知識では誰にも負けないと疑わないトニーは何とか近距離戦に持ち込みました。2人の予想に反してこの戦いは互角です。しかしここで旧型の弱点が露呈します。活動限界時間が迫っていたのです。f:id:ELEKINGPIT:20211109005503j:image互角に戦うトニーとウィルズ。だがトニーの恐れていた事態がやってくる。

 

〈無敵の鉄人〉

もし新型と旧型がバトルしたら? のような空想を見事に実現した本作は、スタン・リーが「アイアンマン」とは何かを考える貴重な手掛かりとなるでしょう。中でも気になったのは「お前は何者でもない」というトニーのセリフでした。最近型のアーマーを装着し、まさに今自身の命を脅かす存在へわざわざ投げかけたこのセリフ。同様の場面で見られた他のセリフとは明らかに異彩を放っていました。見方によっては不自然ともとらえかねませんが、私はこのセリフにこそスタン・リーの考えるアイアンマン像 があると考えています。「鉄人」にあってウィルズにないものとはなんでしょうか?

当時はフューチャリストという概念すら登場しておらず、トニーが未来を守る戦士という自覚はまだありません。それでもトニーだけがアイアンマンになれるのは、大いなる勇気があったからでしょう。今作のトニーは何度も勇気を振り絞ってウィルズへ挑んでいます。一方ウィルズは最新型を装着しているという驕りからか、最後の最後まで勇気を見せる場面はありませんでした。無敵の鎧とはなんのためにあるのでしょうか? 今作で示されたのは、勇気の1歩を踏み出すためにあるということでしょう。いくら高潔な心を持っていても、単なる人間ではたちまち返り討ちにあってしまいます。そしてアイアンマンがヒーローとなったきっかけはインセン教授が勇気を振り絞った結果です。だからこそトニーらウィルズへ何者でもないと言ったのでしょう。最強の鎧だけではアイアンマンとはいえません。無敵の勇気と合わさった英雄こそがアイアンマンなのでしょう。