アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN RAPTURE

映画が公開されて以来爆発的に人気が急上昇したアイアンマン。特に2008年〜2012年までの間はミニシリーズの刊行数も増加しており、MARVELの期待っぷりも窺えます。今回紹介するIRON MAN RAPTUREもその1つ。2010年に刊行された今作は平行世界の物語です。そのため正史とは関係ありませんが、映画に大きな影響を受けた場面も多く、初めての方でも存分に楽しめる内容となっております。
f:id:ELEKINGPIT:20211101005407j:imageIRON MAN RAPTURE

 

〈あらすじ〉

億万長者の発明家にしてゴールデンアベンジャー、トニー・スタークは順風満帆の日々を過ごしていた。しかしある日、重度の心臓病で倒れてしまう。心臓を移植しなければ命は危ういが、移植をしても残りの寿命が短いと覚ったトニーは禁断の発明に手を伸ばす。

 

〈狂喜の世界〉

平行世界とはいえ、心臓病でトニーが倒れるところからスタートする本作。トニーが好きな私としてはいきなりの衝撃展開に頭が混乱してしまいました。それは秘書で恋人のペッパーや親友のローディも同じのよう。一流の名医のおかげで何とか一命を取り留めますが、曰くそれすらも奇跡なほど。心臓移植をしなければいつまで持つかも分かりません。早速移植の手続きを……と思いきや、なんとトニーはそれを拒否。2日後には自宅へ戻り、自作の心臓補助器具と共に日常を過ごそうとします。移植手術をしたところで10年程度しか生き残れないと突っぱねたのです。世界はアイアンマンを、トニー・スタークを必要としている。ここで死ぬわけにも、10年以内に死ぬわけにもいかないとトニーは考えていました。遂には何日もラボに篭もりっきりとなり、ペッパーにすら顔を見せようとしません。周囲の人間の心配は増すばかり。そんな時に現れたのが、アイアンマンです。
f:id:ELEKINGPIT:20211101235355j:imageペッパーの前に現れたアイアンマン。思わずペッパーも後ずさりするほどの威圧感が。

 

社内の通信機器をジャックしたアイアンマンは、スピーカーから「生身から解放される時がやってきたのだ」と宣言します。会社を閉鎖し全社員が閉じ込められたその瞬間、突然社員達が次々と倒れていきました。どうやらアイアンマンが電子機器から怪電波を流している様子。これでは携帯電話もろくに使えません。この異常事態に、ローディはウォーマシンとしてアイアンマンを倒すことを決意。そしてペッパーは「トニーは新世界の最初の住人となった」という言葉から、あえてアイアンマンの攻撃を受けます。目が覚めると、そこは無機質な空間が広がる電脳世界でした。トニーは恐らくここにいるに違いない。ペッパーは歩を進めます。一方ローディもついにアイアンマンと会敵。激しい攻防が始まりました。
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f:id:ELEKINGPIT:20211102005813j:imageアイアンマンの攻撃で電脳世界へ転送されるペッパー(画像上)とウォーマシンと戦うアイアンマン(画像下)。それぞれの決戦が始まった。

 

トニーは電脳世界の奥地、岩場のような場所に囚われていました。ペッパーが何とか解放すると、トニーはこれまで何があったのかを説明します。病院から帰ってきたトニーは以前から開発していたとある研究に着手していました。人間の意識をデータ化し、永遠の命を手に入れることです。そのためにはまず年齢と共に劣化し、常に病原菌とのリスクがある肉体から意識を開放する必要があります。ところがトニーの人格をコピーしたAIが暴走、強引な方法で人類を「開放」しようとしたのでした。自分のアイデアは間違っていた。アイアンマンを止めるため、最後の「発明」を君に託そう。そう言ってトニーはペッパーを現実世界へ戻します。トニーが託した最後の「発明」。それは電脳世界を破壊し、アイアンマンを止めるためのコードです。もしこれを使えば電脳世界のトニーも死んでしまうでしょう。アイアンマンとウォーマシンの激闘を背に、ペッパーは覚悟を決めました。
f:id:ELEKINGPIT:20211102012025j:imageトニーから与えられたコードを使うペッパー。ペッパーの覚悟とトニーの犠牲で世界は守られたのだ。

 

〈「プロメテウス」は何をもたらした?〉

劇中、ペッパーによって解放されたトニーは自らをギリシャ神話のプロメテウスに例えます。プロメテウスは天から火を盗み、人類にもたらしたことで罪に問われた神です。岩に囚われ、オオワシに腸を啄まれ続けるという拷問刑に処されたことでも有名でしょう。確かに囚われたトニーの姿はプロメテウスの逸話とそっくり。オオワシが腸を啄むところまであったので、恐らくアイアンマンがトニーをこのプロメテウスに例えていたのでしょう。ではアイアンマンは何をもってトニーをプロメテウスのようだと認識したのでしょうか? 

そもそもプロメテウスが天の火を盗んだのは、暗く寒いところでしか暮らせない人間のためでした。プロメテウスは善意で罰すら覚悟の行いを決行したのです。ところが火は人間は暖を取る以上の使い道を見つけてしまいます。放火や火矢はもちろん、弾丸を打つことすら火がなければ出来ないでしょう。これを今回の物語に当てはめるならば、この「プロメテウスの火」こそがアイアンマンなのでしょう。今回のアイアンマンはトニーに作られた存在ですが、「永遠の命」を社員全員が手に入るように知恵を絞ります。しかしアイアンマンが出した結論は本編の通り。暴走の末死亡するという展開でした。

アイアンマンがトニーをプロメテウスに例えたのは、この結論を知っていた、予測していたからだと私は考えています。今回のアイアンマンはトニーの人格をコピーした存在。フューチャリストの頭脳を持つならば、自分が強引な方法を取った時点でどうなるか分かっていたことでしょう。永遠の命という人類の夢を叶えながら、強引な方法に頼り犠牲を出してしまう自分を罰する、被虐的な行いだったのかもしれません。