アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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TALES OF SUSPENSE(1995)【2022年1月の私的ベストアメコミ】

CAPTAIN AMERICA & IRON MANというタイトルのミニシリーズが発売され、変わらぬ友情を見せてくれる2人。長年の共闘や争いを経て2人にしかない化学式を持つのかと思わせるほどのコンビでしょう。さて、そこで今回紹介するのは1995年に発売されたTALES OF SUSPENSE誌です。アイアンマンの誕生からキャップ復活後、2人の合同誌となったあのタイトルを冠する本作。キャップとアイアンマンが見せる最高のコンビネーションを期待するなという方が無理な話かもしれません。ワンショット(1話完結)ながらその満足度は映画を見た直後のよう。2人の活躍に胸を踊らせながら、早速ページをめくってみましょう。
f:id:ELEKINGPIT:20220103161123j:imageTALES OF SUSPENSE(1995)#1

 

〈あらすじ〉

第二次世界大戦の記憶が薄れつつある現代、未だ世界の影には栄光あるドイツを取り戻そうと暗躍するテロ組織が数多く存在していた。中でもSHIELDが警戒していたのは、ダンテと呼ばれる組織だ。その正体も目的も分からない敵へ、SHIELDはキャプテンアメリカとアイアンマンに討伐の依頼を出した!

 

〈オリジンの影〉

最近闇社会を騒がせているテロ組織、ダンテ。ナチス残党の流れを汲み、過激な共産原理主義と迎合、資本主義社会の打倒と「正しく純粋な民族」による支配を目的とした危険極まりないテロ組織となってしまいました。ターゲットを殺すためなら手段を問わず、「乗っている可能性がある」という理由で民間の飛行機を爆破するなど、放置出来ない存在感を示しつつあります。一方SHIELDがスパイを潜り込ませて情報を得ようとしますが、分かったことは上記のことのみ。具体的に誰をターゲットにしているかすら分かりません。そこでSHIELDは、キャップとアイアンマンそれぞれにダンテ討伐を依頼します。機械工学に関しては世界的権威であり、ハッキング能力に長けるトニー、敵と判断すれば地の底まで追いかけ、捕らえれば絶対に放さない猟犬のようなキャップ。影すらぼんやりとしか見えない敵を相手にするならばこれ程優秀な人物はいないでしょう。さらに、なんとダンテのルーツには2人にも関わりがあるとフューリーは断言します。ダンテの首領はキャップの戦争時代の敵であり、またトニーが洞窟の中で初めて作ったアーマーのノートを持っていると言うのです。トニーは確かに燃やしたはずだと回想しますが、ダンテの脅威は危険な行為を恐れもしないこと、そしてパワードスーツの存在。これを聞けば2人が断るはずがありませんでした。
f:id:ELEKINGPIT:20220103211153j:image世界最驚のヒーロー2人に依頼された、ダンテの討伐。この世界の平和を守るため、2人はそれぞれ単独でダンテを追う。

 

キャップとトニー2人が協力してもダンテの尻尾すら掴めぬまま月日が流れていきました。その本部すら影も形もなく、ただ無駄な時間を過ごすばかりです。そんなある日、SHIELD長官のフューリーがある確かな筋から入手した新たな情報を2人に伝えていました。どうやらダンテが現在ターゲットとしているのはアメリカの大統領だそう。さらに襲撃する日時は、日本との通商会談がある日ではありませんか。下手な混乱を避けるため、会談の参加者へ襲撃があることを伝えるわけにはいきません。しかしそれは通商会談が中止されないことも意味しています。そしてフューリーのいう「確かな筋」とはダンテに忍び込ませていたスパイですが、今朝水死体となって発見されていました。これ以上の新情報はもう望めないのです。ただ防備を固めるだけでは効果が期待できるかもわからない危険な相手。情報戦で圧倒的不利な立場に立たされた状態で命知らずのテロリストに挑まなくてはなりません。その上数日後、キャップの連絡が途絶えてしまいます。どうやら敵に捕らわれた様子。この状況でトニーは襲撃予定日を迎えたのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20220104014357j:imageカモフラージュの暗雲から現れたダンテの空中要塞。大量のアイアンアーマーが投下され、その命を狙わんと襲撃が始まった。

 

昏睡状態から目覚めたキャップは、ダンテの空中要塞で捕らわれていました。動かない四肢を見て自分の置かれている状況を即座に理解します。そして目の前に立っているのは、大戦時代の敵でありダンテの首領、エミル・ステインです。ステインはかつての敵を呆気なく捕らえたことですっかり悦に入っていました。ダンテ真の目的を悠然と語り始めます。今回の襲撃は、資本主義社会の脆さを世界に証明するためのもの。人が1人死ぬだけで崩壊するこの世界に鉄槌を下し、新世界へ人類を導くための第1手とするためです。そしてそのターゲットがアメリカの大統領という誤情報をあえて流し、防備を固めさせた上で自らの軍隊を使って襲撃させます。こうすればまるで戦争のような風景ができ、また明日の朝刊はこの襲撃が大きく取り上げられるでしょう。真のターゲットには暗殺者を送り、銃弾が飛び交う裏で殺してしまえばいいのです。目的達成まであと僅か。ダンテを阻止する一手は存在するのでしょうか?
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f:id:ELEKINGPIT:20220104020914j:imageステインに捕らわれたキャップ(画像上)とパワードスーツ軍団に戦いを挑むトニー(画像下)。八方塞がりの2人が逆転する術とは?

大義か正義か〉

国のため、平和のため、人々のため。今作の2人はそんな大義で鼓舞される場面がありました。特にキャップは星条旗をその身にまとう存在。国の象徴であり、ヒーロー以上の役目を負わされているといっても過言ではありません。当然、ヒーローは国のため、平和のため、人々のために戦おうとします。しかし大義だけではヒーローとは言えないことも今作では示されていました。大義と正義、その違いを考えたいと思います。

まずは大義の意味について見ていきましょう。そもそも「大義」とは、その人が、特に国家に対して行うべき最高の道徳という意味の言葉です。平たく言えば忠義とも取れる単語ですが、これこそアメリカがキャップに求めていることでしょう。しかし同時に、ダンテにもこれを当てはめることができます。ダンテはステインへ、そしてダンテの掲げる思想へ忠義立てているのです。つまり大義のみに従うならばテロリストと何ら変わりません。ここでテロリストとヒーローを隔てるのが正義です。

今作の最終決戦では正にそれが象徴されていました。敵との交戦の結果、アーマーが使い物にならなくなったトニー。自らを足でまといだとし最終決戦を静観していたのですが、ダンテの雇った暗殺者が父の身代わりになろうと立ち塞がる子どもを殺そうとした瞬間、体が動いていたのです。もしトニーにあるのが大義だけであれば、この時体は動かなかったはず。トニーを動かしたのは「子どもを守らなくては」という純粋な正義感だったはずです。私はヒーローを「悪を倒す存在」ではなく、「誰かを助ける存在」だと考えています。大義ならば銃弾にはなれるでしょう。しかし「誰か」の盾にはなれないのです。