アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN DEMON IN A BOTTLE

トニー・スタークを語る上で避けては通れない物があります。お酒です。MCUではお酒を飲むシーンも多かったトニーですが、コミックでは最大のタブーとして禁酒を貫いています。そのきっかけが今作IRON MAN DEMON IN A BOTTLEなのです。歴史的な名作としても知られる今作は、後のトニーの物語にも大きな影響を与えました。また映画アイアンマン2のシナリオの下地にもなっており、共通点を探しながら見るのもまた一興でしょう。
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※なお今回は紙の書籍から画像を引用させていただきます。見えにくい等ございましたらコメントいただけると幸いです。

 

〈あらすじ〉

スタークインターナショナル社長として多忙な日々を過ごすトニーには気がかりなことがあった。SHIELDがスターク社の情報を抜き取っていることが分かったのだ。SHIELDがスターク社を乗っ取ろうとしているのか? 不安な日々を過ごしながら、さらなる事件が発生した……!

 

〈迫り来る悪魔〉

アイアンマンとして積極的にヒーロー活動。していたトニーですが、ある日突然アーマーが誤作動を起こしてしまいます。調べてみても特に異常はないのに、何故か近頃では誤作動が多く発生していました。不思議に思いながらも多忙な日々を過ごすトニーにじっくりと調査する時間はありません。そして久しぶりの休日、トニーはパートナーのベサニーと気分転換にカジノへ向かいました。敵が襲撃したのは正にそんな時です。メルター、ウィップラッシュ、ブリザードの攻撃にカジノは瞬く間に大混乱へと陥りました。迷う暇もなくアイアンマンが敵へ立ち向かいます。
f:id:ELEKINGPIT:20220219195408j:imageアイアンマンvsヴィラン軍団。強力な敵にどう立ち向かう?

 

この時の戦いが評価されたのか、カルネリアと呼ばれる国家が国連を通じてスターク社との大きな契約を申し出ます。中でもカルネリア大使のセルゲイ・コッツニンはその契約式典にアイアンマンを代表として出席することを望んでいました。セルゲイはアイアンマンの大ファンだったのです。仕事もプライベートも大忙しなトニーですが、これには嬉しく思ったのか快く承諾します。迎えた式典当日。テレビでも大々的に採り上げられたこの式典を怪しげな笑みを浮かべながら眺める人物がいました。そしてアイアンマンがセルゲイの背中へ手を回した時、謎の人物の「やれ」という一言で事件は起きます。セルゲイの胸をリパルサーブラストが貫いたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20220219200732j:image全世界で中継されたセルゲイ殺人事件。観衆の目の前でアイアンマンが人を殺した……?

 

すぐさま警察の尋問を受けたアイアンマンは、アーマーの誤作動を主張。これまでのヒーロー活動を知る警察も、アイアンマンが突然人を殺すとは信じ難かったのでしょう。1週間以内に犯人確保又は確たる証拠の提出を条件に、アイアンマンは釈放されました。早速捜査を開始したいトニーですが、誤作動を起こしたアーマーが没収されたため自分の身を守る術がありません。そこでトニーはキャップへ格闘術を習うことに。このトレーニングは後々まで役に立つこととなり、トニーの白兵戦は凡そキャップの戦闘術に基づくようになります。
f:id:ELEKINGPIT:20220219213835j:imageキャップの激しいトレーニングを受けるトニー。こうしてキャップ式格闘術を身につけた。

 

生身の格闘技術に自信を持ったトニーは捜査を開始します。手がかりはカジノを襲撃したヴィラン軍団の「ハマー」という言葉。監獄島ライカーズで囚われたウィップラッシュに尋問した結果、ヴィラン軍団はモナコ公国に居を構える資産家ジャスティン・ハマーに雇われたことがわかりました。ローディと共にモナコへ向かうと、怪しげな戦闘員の襲撃にあいます。恐らくハマーの部下でしょう。しかし多勢に無勢とはまさにこの事。強力な格闘技術でも大勢の戦闘員には敵わず囚われてしまいました。目が覚めると、そこは豪奢な部屋のようでした。目の前には鋭い眼光でこちらを見る老人が。この老人こそがハマーです。ハマーは悠然と語り始めました。これまでトニーがアーマーの誤作動と考えていたのは部下のフィリップが発明した超音波遠隔操作であること、セルゲイを殺させたのは、一方的に契約を打ち切られたからだということを。
f:id:ELEKINGPIT:20220219215813j:imageハマーが語る全ての事件の真相。この老人が黒幕だったのだ。

 

ハマーの元から逃げ出したトニーは、物陰に隠れて予備のアーマーを着用。一方ハマーも選りすぐりのヴィラン軍団でトニーを捜索します。トニーはまず超音波遠隔装置を破壊、その後ヴィランと戦うことに。ハマーの邸宅は巨大な船の上に作られており、脱出するにはヴィラン軍団を何とかしなければならなかったのです。一方モナコ警察と共にトニーを捜索していたローディは、海上に浮かぶ邸宅を発見。アイアンマンの救出に当たります。こうしてアイアンマンとローディ、モナコ警察の活躍でハマーは逮捕。アイアンマンの無実が証明されました。しかしこれにて一件落着……とはなりませんでした。全ての事件を解決した後でも、世間はアイアンマンを「殺人鬼」と呼んだのです。
f:id:ELEKINGPIT:20220219221351j:imageアイアンマンを見て泣き出す子ども。世間にとってアイアンマンは未だ殺人鬼なのだ。

 

世間の誹謗中傷が止まらないアイアンマン。ベサニーにも捨てられたと勘違いしたトニーは、まるで自分を傷付けるようにグラスへてを伸ばしていました。自堕落な生活に酔うと直情的で怒りっぽくなる性格から、とうとうジャービスまで愛想を尽かす始末。このままでは堕ちるところまで堕ちてしまいそうな勢いです。これを救ったのはパートナーのベサニーでした。ベサニーは以前薬物依存に陥った元パートナーと死別した過去を持っていたのです。過去を後悔していたベサニーは献身的にトニーをサポートしようとします。このまま酒に逃げるのか? 友人達、恋人を捨ててでも1杯のウイスキーを飲むのか? 葛藤の後、トニーは助けを求めました。
f:id:ELEKINGPIT:20220220005808j:imageベサニーと共に禁酒に勤しむトニー。これまで戦ったどのヴィランよりも手強い。

 

〈悪魔の招待状〉

アイアンマンという物語において、空前絶後インパクトを残した今作。トニーがアルコール依存症に陥ったというあらすじは衝撃的ですが、それと同時に「アイアンマン」という神話が崩壊したことを意味します。何度も悩みながらアイアンマンを続けてきたトニーに「アイアンマンも絶対ではない」と突きつけたのです。

日米問わずヒーロー物には言わば「お約束」のような展開がありました。ヴィランが暴れる→ヒーロー登場→事件解決というプロットラインです。このお決まりなストーリー展開は、現在でも使われることがあるほど。この時のヒーローは絶対的な存在であり、時に作者の代弁者のような役割も果たします。ヒーローこそが確固たる正義の擬人化で、主人公の成長の証を担うこともありました。しかし今作は王道のストーリーに沿いながらもそれらを丁寧に否定しています。それを表す象徴的なエピソードが、酔ったトニーが列車事故の救出に失敗するという一幕です。幸い怪我人は出ませんでしたが、泥酔状態ではアイアンマンにすら集中できないとトニーも感じるほど。これまでトニー・スタークという人格を否定しながらもアイアンマンであり続けたトニーにとって、初めてアイアンマンは完璧ではないと実感させたシーンでしょう。一方禁酒の問題を抱えたのはトニーですが、アイアンマンがきっかけで解消されたわけでもありません。最後にボトルの蓋を閉めたのはトニーなのですから。トニーが禁酒するためにアイアンマンが担った役割はそれほど重要ではないのです。成長したのはトニーであり、禁酒を決めたのもトニー。それを促したのは恋人や友人達です。アイアンマンとはあくまで鎧、トニーの一部に過ぎなかったのです。この物語に理想のヒーローは登場しません。ですが常に成長し続ける鉄人と、それを慕う人々が超人をも超えるであろう可能性を放ち続けているのです。