アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN #182

前回、トニーとローディそれぞれに現れた希望と絶望の兆し。続く今回は早速トニーの持つ「希望」に焦点が当てられます。逃げるために酒を飲み自分を傷つけていたトニーに、ついに再起の時が訪れたのです。思えばオバディアの罠にハマり酒が手放せなくなって以来、暗闇しか見えないような展開が続きました。今回で完全復活とはなりませんが、現代まで続く「アイアンマン魂」の一端を垣間見ることができる名作です。ホームレスとなって以来の集大成にもなっている、感涙の1作です。
f:id:ELEKINGPIT:20220305230850j:imageIRON MAN #182

 

前回はこちらelekingpit.hatenablog.com

 

〈あらすじ〉

今夜、40年に1度の大吹雪がニューヨークを襲う。多くの人が家で暖まる中、トニーは孤独にグレトルの行方を探し続けていた。吹雪の中酒を手放せないトニーに待ち受けるのは死しかないのか?

 

〈大吹雪の奇跡〉

前回、トニーのホームレス仲間として親しかったグレトルが妊娠していたことを明かしました。出産の時は大吹雪になっているだろうと、トニーの持つアパートを訪ねた2人。しかし財産を全てオバディアに差し押さえられており、文字通り門前払いされるばかりでした。これに怒ったグレトルはトニーの元から離れますが、心配になったトニーはグレトルを探すことにします。どこか宿を探すよう警官にも注意されても酒を買う金すらないトニー。唯一手に持っていた酒瓶の中身が空っぽなことに気付くと、コートを質草に10ドルを手に入れます。そして3.5ドルの酒を手に、自分の人生の「終わり」へ乾杯しようと路肩へ座り込みました。この人生に意味などなかった。寒風を体に叩きつけられながらトニーは人生最後の時を迎えようとしていました。
f:id:ELEKINGPIT:20220305235455j:image街全体が吹雪く中孤独に死を待つトニー。諦めと失望が入り交じった自身への失笑も、寒風に消えていく。

 

そこへ現れたのがグレトルです。あれ以来グレトルもまたトニーを探し続けていたと言います。冷え切った体を寄せ合う2人。陣痛が始まったのはまさにそんな時です。猛吹雪の中タクシーすらなく、このまま外で産まざるを得ないでしょう。グレトルとトニーは酒も忘れて産まれてくる子どものために全力を尽くします。そしてとうとう長い間痛みに耐え続けたグレトルは、涙を流しながらトニーに産まれた子を託して息絶えてしまいました。トニーはその最後を見守り、この子どもを名乗ろうと固く誓います。翌朝、除雪作業に勤しむ警官がトニーたちを発見します。
f:id:ELEKINGPIT:20220306002344j:image赤ん坊を守るように固く身を寄せあっていた2人。息をしているのが信じられないほど弱りきっていた。

 

様々なキセキと偶然が重なった結果、赤ん坊とトニーの命は助かりました。トニーが病院へ運び込まれたという情報を聞いたローディもすぐに駆けつけます。いくつもの凍傷に心臓などの臓器にも深いダメージを負ったトニー。しかしその表情はどこか晴れ晴れとしていました。昨夜の壮絶な体験が、「守る」ことを思い起こさせたのです。深い絶望と恐怖と寒さ、そして死をトニーに叩きつけた吹雪は、ただ純粋無垢な赤ん坊の温かみに溶かされたようです。誰かを守ることは、すなわち自分を守ることだった。叫びたくなれば誰かに助けを求めればよかった。簡単なことでなんと難しいことでしょう。トニーは命を燃やしてそのことを学んだのです。そしてローディの前で誓いました。もう自分を傷つけるのはやめようと。もう、酒を飲むのはやめようと。
f:id:ELEKINGPIT:20220306003850j:imageやつれ果てた顔でアイアンマンを見上げるトニー。やっと重荷から解放されたのか、力ない笑みを浮かべて禁酒を固く誓う。

 

〈トニーのアーマー〉

瀕死になりながらもようやく禁酒の誓いを立てたトニー。吹雪の中自殺を考えていたほど追い詰められていたトニーが、何故一晩で再起出来たのでしょうか?

陣痛が始まる直前、グレトルに絶望的な状況をどう思うか尋ねられたところ、トニーはアーマーのことを答えていました。そしてそれを着用している自分は囚人であると。苦痛と悲鳴に苛まれ、自分を閉じこめるばかりだと。あらゆるダメージを寄せ付けない無敵の鎧は、何者も寄せつけない堅牢な壁にもなっていたのです。ローディからアーマーの譲渡の申し出を断ったことから、恐らくトニーのこの考えはまだ変わっていないのでしょう。無敵だからこそ無敵を演じなければならなかった。自分を「鉄人」から「人間」に戻す魔法のアイテムこそが酒だった。DEMON IN A BOTTLE編で誓った禁酒が破られたのは、無敵の装甲に包まれた悲鳴と苦痛にトニーが押しつぶされたからなのです。

しかし今作のトニーが赤ん坊へ行った役割は、赤ん坊の「アーマー」となることでした。吹雪と寒さから守るために必死に自分の体を盾にして包み込んでいたのですから。包み込めば当然泣き声も寝息も全て聞こえます。トニー自身は決して無敵の装甲になりえません。しかし赤ん坊の声を聞くことができます。そしてそれを叶えるのは、無機物のアーマーには出来ません。だからこそトニーは「助けを求めたい時は求めていい」と気づけたのでしょう。「アイアンマン」のアーマーは、決して無機物の装甲だけではありません。トニーを中心に広がる仲間たち、信頼する社員たち、愛する人たち、全員が助け合うことでお互いがお互いのアーマーとなっているのです。ではもう1人のアイアンマンであるローディは? トニーが例えた通り、装甲の内側に広がる苦痛と悲鳴に苛まれつつありました。今まで助けて貰った分、今度はトニーがローディを助ける番。トニーがアーマーとなる日は近いでしょう。