アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN ARMOR WARS①(#215〜#219)

アイアンマンを語る上で欠かせないエピソードの1つに、ARMOR WARSがあるでしょう。後々まで語り継がれる名ストーリーとして知られるARMOR WARSは、現在のアイアンマンの土台になったとも言われる作品です。そんな名作を担当したのはデビッド・ミッシェリーニ氏。DEMON IN A BOTTLEを描き、アイアンマンの魅力をより深めたライターです。第2時アルコール中毒期を終え、新たなスタートを切ろうとしているトニー。それを狙う怪しい影の正体とは?

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〈あらすじ〉

長きに渡る戦いの末、オバディア・ステインを打ち倒したトニー。しかし決め手となった新アーマーは重大な問題を抱えていた。一方新たに設立されたスタークエンタープライズは、宇宙開発に乗り出していた。人類の未来への希望を託した人工衛星。そこにはトニーの夢と共に絶望が乗り合わせていた……。

 

〈復讐鬼〉

カリフォルニア。かつてマキシマムサーキットと呼ばれた小さな会社があった地は、重機と建設員達の声に包まれていました。トニーはオバディアに奪われた旧スタークインターナショナルを取り戻すことなく、新たにスタークエンタープライズと呼ばれる会社を設立していたのでした。新社屋は既に建設済みで、旗揚げのための第1次業もスタートしています。宇宙開発です。スターク社製人工衛星を打ち上げ、科学の発展をさらに推し進めようと計画されていました。トニーは自らの計画を希望、夢と呼ぶほど期待していました。人類社会のさらなる発展と平和を、20世紀最後にして最大の発明によって推し進めようと考えていたのです。ビジネスでは順風満帆なトニーですが、懸念事項もありました。アイアンモンガーを倒した新アーマーに問題があったことが発覚したのです。新アーマーは多機能かつ高機能な性能を誇りますが、盛り込まれた新技術はトニーの神経系を徐々に傷付けていました。今はまだ軽度なダメージですが、このまま使い続けるわけには行きません。アーマーの見直しはしなければなりませんが、それよりもひとまず人工衛星の発射に注力することにしたトニー。スペースシャトルパイロットは最も信頼するローディに任せ、打ち上げ成功後自身もアーマーを纏い後を追いました。しかしそこには、怪しげな動きもあるようです。
f:id:ELEKINGPIT:20230106203941j:imageトニーの夢と希望を託された人工衛星。ここから始まる宇宙開発は、やがて新たな人類史の1ページを刻むはずだった。

 

ヨルゴン・ティッキオは、スペースシャトルの整備士としてスタークエンタープライズに雇われていました。ところがその裏の顔はAIMでも存在感を放ちつつある科学者。スペースシャトル人工衛星をAIMのために利用しようと画策していました。部下を引き連れスペースシャトルに乗り込むと、宇宙へ着いた途端データ奪還のため動き出します。最初に異変に気付いたのはローディでした。ブラスターでAIMの雑兵と戦いながらトニーへ連絡、すぐに合流します。驚いたのはAIMの方でした。まさかトニー・スタークのボディーガードが人工衛星に乗り合わせているとは誰も予想していなかったのです。激しい戦闘の末敗北を悟ったAIMは、最後の手段に出ます。人工衛星に超強力なウイルスをばらまいたのです。更にスペースシャトルを奪い、追ってきたアイアンマンを巻き込んで自爆攻撃を強行。結果人工衛星は人が立ち入られない状態になってしまいます。トニーは失望よりも先に旧型のアーマーをローディへ着せ、地球へ帰還しようとしました。ところが先の自爆攻撃で旧型アーマーが損傷した様子。大気圏突入用の冷却装置が故障していました。どうにか地上まで辿り着きましたが、手遅れなのは明らかでした。
f:id:ELEKINGPIT:20230106222519j:image噴煙を上げるローディのアーマー。地上へ辿り着いた頃には意識も失っていた。

 

ローディを病院へ連れて行ったトニー。どうやらローディの命に別状はなく、意識もすぐに戻りました。ひとまず安心ですが、ここである疑問が浮かびます。何故AIMはスペースシャトルに潜入出来たのか? そもそもスタークエンタープライズはスタートしたばかりの会社で、AIMが社員として潜伏できる隙などなかったはず。可能性があるとすれば、社内の誰かが裏切り者でAIMを手引きしたことでしょう。裏切り者の正体はすぐに分かりました。トニーの自宅がAIMに襲撃されたのです。執拗にアーマーの入ったブリーフケースを狙う敵。恐らくアイアンマンの正体もアーマーの隠し場所も知っているのでしょう。それだけでも相当候補は絞られますが、トニーは咄嗟に盗聴器付きのブリーフケースをAIMに奪わせます。どうにか敵の襲撃をしのぎ、早速盗聴開始。聞こえてきた声は、マキシマム・サーキット設立の頃からアイアンマンを支え続け、オバディアとの戦いで兄を失ったクライ博士のものでした。クライ博士は兄の死をトニーのせいだと憎しみを膨らませ、秘密裏にAIMと手を結んでいたのです。ならば決着をつけねばなりません。トニーはクライ博士のいるAIMの基地を襲撃。激しい戦闘が始まります。AIMの戦闘機も戦車もアイアンマンの前には無力。一方復讐に取り憑かれたクライ博士は自ら指揮を執って砲火をアイアンマンへ向け続けます。しかしその時です。クライ博士の暴走で火器管制システムが狂い始めたではありませんか。大砲はアイアンマンではなく味方を狙い始め、戦闘機をも撃墜してしまう始末。被弾して火を噴いた戦闘機が、クライ博士のいる建物へ一直線に突っ込んでいきました。
f:id:ELEKINGPIT:20230106225426j:imageAIMに戦いを仕掛けるアイアンマン。クライ博士の復讐は意外な決着が付けられた。

 

事件から数日後。アーマーの不調、宇宙開発事業の失敗、クライ博士の裏切りと悲しい話題の多いトニーですがいつまでも後ろを向いてはいられません。トニーはスタークエンタープライズの本格始動をマスコミへ発表。仕事の受注を開始します。同時に優秀な技術力を持つアキューテックと呼ばれる会社の買収を開始。アキューテック社の上層部と早速会議を開きます。アキューテック社としてもスターク社の買収に概ね合意しているようで、トントン拍子に話が進んでいきます。ところがある幹部が反対を表明。なんと社内に幽霊が現れ、データの破壊を行っているというではありませんか。確かにデータ破壊が行われるのであれば、犯人が幽霊であろうとそうでなかろうと買収どころではありません。その幹部によると、幽霊は壁をすり抜け自在に姿を消せるのだとか。到底信じられる話ではありませんか、震える手を見ればホラ話でないこともまた明らかでしょう。その時でした。警備室から警報が鳴り響きます。どうやら例の幽霊が現れたようです。既に警備員が見えない攻撃を受けており、敵の存在がいることは間違いありません。トニーは早速アーマーを着用し現場へ向かいます。超音波センサーで視認できない敵を見つけたアイアンマン。光学迷彩のアーマーを纏っているのでしょう、姿が見えなくともセンサーで手に取るように姿形が分かります。自らをゴーストと名乗った敵は、壁をすり抜け姿を消し逃げようと動き出しました。ところがそれを許すほどアイアンマンは甘くありません。すり抜けた壁をぶち破ってでも後を追います。ついに戦闘を始めるアイアンマンとゴースト。直接的な戦闘力ではアイアンマンの方がやや勝っているようです。徐々に追い詰められていくゴーストは、最後の手段に出ました。視覚外から手榴弾を投げ、爆煙に紛れて逃走したのです。ゴーストは去り際にメッセージを残していました。「アイアンマンは私を傷つけた。貴様の雇い主、アンソニー・スタークの死をもって償わせねばなるまい!」
f:id:ELEKINGPIT:20230107011946j:imageゴーストが残した宣戦布告。トニーは一時の油断も許されなくなった。

 

〈裏切り者〉

今作で何よりも驚かされたのが、クライ博士の裏切りでした。クライ博士はトニーが第2時アルコール中毒期の頃からアイアンマンをサポートし、新会社マキシマム・サーキットの設立から壊滅までを見届けた重要人物です。トニー復活の兆しに勘づいたオバディアのミサイル攻撃で最愛の兄アーウィン博士を失い、その悲しみを抱えたままトニーと共に新会社設立を始めていました。トニーもクライ博士を厚く信頼しており、スタークエンタープライズの要職を任せるほど。苦楽を共にした仲間であると信じて疑わなかったことでしょう。ではそんなクライ博士が何故AIMと手を組んでしまったのでしょうか?

本編で説明されたのは、「兄の死はトニーのせいだと確信して復讐しようとしたから」ということになっています。確かにそれが根本的な理由なのでしょうが、果たしてあれほど絆を深めていたクライ博士が突然裏切るようなことをするのでしょうか? マキシマムサーキット設立時代、クライ博士はトニーへ特別な思いを寄せていました。そしてそれと同じくらい兄も尊敬していました。「愛」という言葉では片付けられないような、畏敬とも呼ぶべき感情が2人に向けられていたのです。しかしそんな時に始まったのがオバディアの攻撃です。嫌がらせのように続いた攻撃はやがて過激に。戦車を送り込んだり誘拐事件が次々と起こり続け……その果てがマキシマムサーキット壊滅です。トニー再起に呼応するように始まった攻撃、恐らく読者すらチラとでも「トニーが招いた不幸」と感じたことでしょう。クライ博士にとってそれは実感を伴った感情のはず。そして本来憎むべきオバディアも死に、名前も付けられないような感情の向けどころすら失ってしまいました。恐らくトニーへそれを向けるのは不条理なことだと本人も理解出来たことでしょう。そして兄のアーウィン博士も望んでいないことだと。しかし兄を亡くした喪失感を簡単に呑み込めるほど人間は簡単な存在ではありません。自身の中に残っていた、トニーへの特別な思いが憎しみに変わってしまったのは、むしろ自然な流れだったのかもしれません。