アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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SUPERIOR IRON MAN vol1 INFAMOUS

長い歴史を持つMARVELユニバースでも特別珍しいことといえば、ヒーローのヴィラン転向、闇堕ちでしょう。洗脳などで一時的にヴィラン化するヒーローはいても、数話で元に戻るなんて場合も。さて、今作SUPERIOR IRON MANは世にも珍しいヒーローがヴィランとして活躍する異色のシリーズです。レッドオンスロートとの戦いを描いたAXISにて、人格が「反転」する魔術の影響を受けたトニー。多くのヒーローがAXIS終盤で元に戻る中、トニーは反転したままになってしまいました。ゴールデンアベンジャーとして多くの人々を救い続けた億万長者は、悪性に転向したことでどうなってしまったのでしょうか?
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※なお今回は紙の書籍から画像を引用させていただきます。見えにくい等ございましたらコメントでご指摘くださると嬉しいです

 

日本語版関連コミック

 

〈あらすじ〉

レッドオンスロートとの戦いで善悪が「反転」してしまったトニーは、サンフランシスコを新たな拠点として活動していた。トニーが町中に配布したエクストリミス3.0の影響であらゆる容姿の欠点を改善した人々は、トニーをメシアとして讃え始める。一方その裏ではデアデビルやペッパーが、トニーを阻止しようと動き始めていた……!

 

〈人間をも超越した?〉

エクストリミス3.0とは、トニーが新たに開発したエクストリミスシリーズです。なんとアプリをダウンロードするだけであらゆる人々が理想の姿に変身できるという、まさに夢のような発明品。トニーはサンフランシスコの人々へ無償で提供したことで、市民は英雄、救世主と大歓迎で迎え入れます。ところがアプリをダウンロードしてからしばらく後、なんと高額な課金を要求されてしまいます。もしお金を払わなければダウンロードする以前よりもより醜い姿に変貌してしまうではありませんか。卑劣な商売だと激昴する方も現れそうですが、トニーは決してそうではないと首を振ります。確かに高額な請求だが、決して法外な金額ではない。むしろ素晴らしいユートピアのために必要な対価だというのです。逆に言えば、誰もが夢見た理想の姿になるための対価としては安すぎるくらい。人々は理想郷の到来に歓喜の声を上げ続けていました。
f:id:ELEKINGPIT:20220506221909j:image新たなアーマー、エンドシムアーマーと共にサンフランシスコに君臨する「スーペリア」トニー・スターク。金門橋の麓に広がる世界は理想郷か、新たな地獄か。

 

トニーによって作られた「理想郷」ですが、一方でこれに異を唱える者も。最初に動き始めたのは、同じくサンフランシスコを拠点とするヴィジランテ、デアデビルでした。エクストリミス3.0がもたらされて以来、対価を払えない者、そもそもスマホを持っていない者に対する差別が大きく広がっていました。また路地裏では強盗も起きるなど、著しい治安悪化が。「恐れ知らず」のヒーローが向こう見ずな戦いを挑むのは、この理想郷の歪みを強く感じ取っていたからでした。デアデビルは薬でトニーを眠らせた後に、あらゆる電波や電子機器の操作が出来ない地下シェルターへ隔離させます。そしてエクストリミス3.0の呪縛から人々が逃れるまで、ここへ閉じ込めると宣言。そもそもアプリをダウンロードするだけで劇的に容姿を変身させるなどいくらなんでも不可能なはず。デアデビルは、エクストリミス3.0がトニーの制御が必要と推理したのです。しかしスーペリアなトニーの力は、デアデビルの想像をも超えていました。トニーの新型アーマーであるエンドシムアーマーは、シンビオートを参考に作られた、言わば生体金属。電波などなくとも脳波でコントロールが可能なのです。身体能力はあくまで常人なデアデビルが戦うにはあまりにも無謀でした。強烈な痛みの後、デアデビルが目覚めると、そこにはトニーの姿が見えました。盲人であるはずのデアデビルが、トニーの姿を見たのです。なんとトニーはデアデビルへエクストリミス3.0を摂取させ、デアデビルの「欠点」である盲目を取り払って見せたのです。恐れを知らないヒーローは、眼前に広がる景色に戦慄していました。そのあまりにも美しすぎる光景に。
f:id:ELEKINGPIT:20220506230945j:imageトニーに置き去りにされたデアデビルが見た、世界の輝き。強靭な意思を持って挑んだにも関わらず、その意思が揺らいでしまうほどだった。

 

厚顔無恥

悪辣なヒーローとしてサンフランシスコに君臨した「スーペリア」トニー・スターク。エクストリミス3.0がもたらしたのは、対価さえ払えば誰もが理想を実現できるユートピアでした。ではそんなトニーが作り上げた理想郷とはどのようなものだったのでしょうか? 

皆さんは理想郷という言葉を聞いてどのような光景を思い浮かべますか? 煌びやかな世界、人々の笑い声、どれをとっても「理想」の姿が広がっていることでしょう。一見するとトニーが作り上げた世界はまさにこの理想郷そのもの。しかしその裏では差別が広がっていました。対価を払えば得られる理想は、払えない者を強く排除しようとしてしまったのです。金さえあれば手に入り、逆に金がなければ手に入らない。極端ではありますが、旧来から続く資本主義社会そのものの姿です。トニーが作り上げた理想郷は、世界の未来の姿ではなく、旧来の世界の延長線に過ぎなかったのです。

そんなことを見抜けないトニーではないはず。トニーは理想郷を作り上げてどうしたかったのでしょうか? 最も考えられるのはやはり資金集めでしょう。エクストリミス3.0は無料期間が終わると1日約1万円が請求されるようになります。これをサンフランシスコ市民のほとんどに請求するのですから、想像もできないほど大金が短期間で集まることは間違いありません。ではトニーはこの資金で何をしようとしていたのか? さて、ここで注目したいのは、飲酒を解禁したトニーが浴びるように酒を飲んでいることです。トニーが大量に酒を飲む時は、決まって誰にも相談できないような悩み事を抱えている時だというのは過去のエピソードからも明白。自らを神の如く振る舞うスーペリアなトニーにも、大きな悩み事があったと考えていいでしょう。ここで考えられるのがインカージョンの存在です。当時のMARVELユニバースは並行世界同士がぶつかり互いに消滅する、インカージョンと呼ばれる現象が多発していました。早急に打つ手を考えねば世界が滅亡しかねないのです。またインカージョンの中心は各並行世界の地球にあるとされ、どちらかの世界の地球を破壊すればインカージョンは防げると考えられています。そのためこの宇宙のあらゆる勢力が地球を破壊しようとするに違いありません。トニーはエクストリミス3.0で集めた資金を使い、この両方に対処しようとしていたのではないでしょうか? 悪辣なヒーローとして卑劣かつ傲慢な姿が描かれたトニー。しかしその裏では、世界を救おうと思い悩んでいた姿があったのかもしれません。