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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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WHAT IF? CIVIL WAR

戦争という悲劇を選んでしまったシビルウォー。様々な要素が複雑に積み重なった結果起こった出来事ですが、「もしも〇〇だったら?」という妄想が尽きないのもまた事実。本作ではそんなシビルウォーの「もしも」の世界が2つ描かれます。果たして「シビルウォー」は最善だったのか? 本作を通して改めてシビルウォーを見つめ直したいものです。
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日本語版関連作

シビル・ウォー (MARVEL)

シビル・ウォー (MARVEL)

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〈あらすじ〉

その日、キャプテン・アメリカの葬式が行われた。しかしトニーは降りしきる雨の中、キャップの墓をじっと見つめることしかできなかった。そこへ謎の人物が語り始める。シビルウォーのあり得た2つの世界を。

 

〈2つの世界〉

降りしきる雨の中、トニーはキャップの墓の前で傘もささずに立っていました。科学者として幽霊には否定的なトニーですが、キャップの霊魂に救われたい気持ちは変わりません。そこへ現れたのは、黒い傘を持つコートの人物。不思議なオーラを醸し出すその人は、うなだれるトニーへ「可能性」を語りかけます。あり得たかもしれないもう1つの世界。妙な真実味と説得力に押され、トニーは話を聞くことにしました。その人は2つの世界を語り始めます。1つは、エクストリミスを接種したトニーが適合できずそのまま死んでしまった世界です。ハルクのラスベガス襲撃事件で世間の超人登録法に対する関心が一気に高まったタイミングで、スタンフォードの悲劇が起きてしまいます。議会はこれを受け超人登録法を即刻成立、72時間後には施行されてしまいます。一方トニーの代わりに政府と交渉を行っていたキャップはこれに猛反発。周囲の反対を押し切り、政府との全面戦争に打って出る構えです。ニック・フューリーから提供された隠れ家を使い戦争への準備を着々と進めるキャップ。同じ頃、政府は凍結されたワイド・アウェイク計画を再発動していました。ワイド・アウェイク計画は、元々はミュータント狩りを行うための非人道的な計画でした。政府はこれを利用し、対超人用に調整したセンチネルの軍備を進めたのです。政府とヒーローの対決が決定的となる中、遂に攻撃が始まります。センチネルの軍団がヒーロー達を奇襲したのです。驚くヒーロー側は、対処もままならぬうちにスパイダーマンインビジブルウーマンを始め、多くの味方を失ってしまいます。先制攻撃は完全に政府の成功に終わりました。ヒーローは退却せざるを得ず、一方で復讐心に駆られます。賛成派に傾きつつあったヒーロー達も皆一斉に反対派として蜂起したのです。これを受け、政府は次なる計画を発動します。ソーのクローンを大量生産し、ヒーロー達を経ヘ容赦無い攻撃を浴びせます。大量のクローンソーに対しても、キャップは懸命に戦い続けました。亡きトニーのアーマーを着用し、戦争を続けるのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240208121319j:image亡き友の遺志を継ぐために、トニーのアーマーを着るキャップ。それがトニーの遺志とは正反対であることを知らずに。

 

もう1つの世界は、トニーもキャップも死亡していない世界です。シビルウォー本編にて、トニーが話し合うよう申し出、キャップが答えるシーン。本編では電磁スクランブラーでトニーのアーマーを無効化し、両勢力の攻撃が始まりました。しかしこの世界では、先走ったSHIELDのエージェントがソーのクローンを投入。本編の通り暴走するソーのクローン。これをトニーが止めようとしたことで、キャップとトニーの共闘体制が出来上がります。ソーのクローンを倒したことで、トニーは確信していました。主義主張が違っても共闘ができたのだから、互いに歩み寄ることも可能なのでは? トニーは内部改革をキャップに説きます。キャップは超人登録法のシステムに反対しているのではなく、その後に構築される組織や体制なのでは? 実際、ヤング・アベンジャーズには適切な訓練を施すべきだと言っていたのはキャップ自身です。ならば適切な組織運営とシステムを構築してしまえば、反対する理由はなくなるはず。トニーの熱意に押され、キャップはこれに同意します。こうしてキャップとトニーは協力関係に再び戻ります。これまでにないほど強固になった2人の絆は、ヒーローの黄金時代を再び築き上げることとなったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240208124823j:image誰も血を流さず、平和に内戦が解決した世界。目指すべきはここであったはずなのに。

 

〈2つのシビルウォー

今作では2つのシビルウォーとその結果が見せられました。結果から考えて、トニーがシビルウォーで行った数々の行動が正しかったのか逆説的に証明しているのが今作と言えるでしょう。では、2つの世界と正史世界を比べてトニーの行動の是非を確かめてみましょう。

まずは、トニー・スタークが亡くなった世界。政府との橋渡し役がいなくなったことで、キャップがその役を受け持つこととなりました。ところがキャップの性格ゆえか、剛柔織り交ぜた会話は難しく、ストレートに反論することで政府との溝が生まれてしまいます。結果スタンフォードの悲劇で言い逃れができない状況に追い込まれ、全面戦争への道を辿ることとなってしまいました。ヒーローが政府の敵となる、考えられる中で最悪のシナリオとなってしまったのです。一方、政府は対超人用の作戦や計画を矢継ぎ早に発することで、スーパーヴィランにも対抗しうる兵力を有することとなりました。政府はヒーローを一掃することで、結果的にヒーローが不要な世界を築いたのです。多数の血が流れながらも、ヒーローが不要なほど治安の安定をもたらした政府。これは本来ヒーローが目指すべき世界であり、トニーにとって残酷なものであったに違いありません。自分がいなければ(多くのヒーローが死ぬことと引き換えに)平和がもたらされるのですから。そしてもう1つの世界では、トニーにとってより残酷な世界が示されます。些細なことがきっかけで、キャップとトニーが共闘したのですから。そして訪れるのは、キャップとトニーの協力体制がもたらしたヒーロー黄金時代。世界は平和となったのです。

2つの世界の共通点は、最終的に世界は平和となることです。では、トニーは余計な行動しかしなかったと言えるでしょうか? トニーが亡くなった世界から逆算して考えると、トニーが行ったことは政府とヒーローの間でクッションとなること、そしてそのバランスを上手く調整することでしょう。キャップとやり取りしていた政府がすぐに態度を硬化させたことから、トニーはこの調整が非常に上手かったと考えられます。またトニーがいなくなったことで多数の犠牲と引き換えに世界は平和となりますが、政府が多大な武力を持ったと思うとどれほど危険か想像するだけでゾッとします。より大きな戦争のために力が使われるのではないか? 私の想像も及ばないようなことに力が使われる可能性は大いに有り得るのです。トニーにいなくなった世界は、短期的に見ると平和が訪れました。しかし長期的に見ると、より大きな争いの火種を政府が手に入れたに過ぎないのです。ではキャップとトニーが協力した世界はどうでしょうか? ヒーロー黄金時代が訪れ、ヒーローによる世界平和が達成された世界。しかしここにも危険な火種が隠れています。正史世界ではシビルウォー終結からおよそ1年後、スクラル人による大規模な侵略が行われました。Secret Invasionです。ヒーローの結束が強まった世界だからこそ、ヒーローに擬態したスクラル人に大きな裏をかかれる可能性は否定できません。また超人登録法による内戦は解決したものの、ヒーロー同士の内戦が起こり得る可能性はヒーロー達自身で示してしまいました。争いの火種はまだ残っているのです。

更に本作には、もう1つ重要な事実が残っています。どちらもトニーの関係ない部分で起こっている、ということです。トニーが直接関与して起こったIFではなく、その他の要因でもたらされているのです。つまりこの結果は、どちらもトニーだけの力ではコントロールできませんでした。本作はうなだれるトニーの姿で終わっています。しかしこれらはトニーだけではどうすることもできない世界であり、トニーの行動は何1つ間違っていなかったという証左なのです。