アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN #55

全宇宙を恐怖の底に沈める絶望の代名詞、サノス。狡猾な知性と不敵の胆力で、数々のヒーローと戦ってきた屈指のヴィランです。MCUでもアベンジャーズと総力戦を行い、多くの人々の心に残ったことでしょう。そんな今回紹介するIRON MAN #55は、そんなサノスがマーベル誌面に初登場した話です。傍若無人の狂人はどのように誕生し、アイアンマンとどのように戦うのでしょうか? 歴史に刻まれた1作に目が離せません。
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〈あらすじ〉

土星の衛生タイタンには、平和な文明が築かれていた。しかし平穏な日々はたった一人の狂人によって打ち砕かれた。神すら恐れる悪行を重ねる狂人は、あらゆる惑星に絶望の種をばらまき続ける。そして絶望の種子はついに地球へ到着した! このままでは地球も宇宙も砕かれてしまうだろう。狂人サノスの手によって!

 

〈狂える魔人〉

それは突然の出来事でした。会議を行っているトニーに激しい頭痛が響きます。ただの偏頭痛にしては異常すぎる。脳を焼かれるような痛みに耐えかねてアーマーを着ると、頭痛が弱まる代わりに何か声が聞こえてくるではありませんか。これは何者かがテレパシーで送ってきた救難信号です。テレパシーを送ったのは、宇宙からやってきたドラックス・ザ・デストロイヤー。自身と同じ正義を持つ人物へテレパシーを送ったところ、偶然トニーがヒットしたようです。そしてその瞬間、ブラッド・ブラザーズと呼ばれる大柄の怪物がトニーを襲い掛かります。予想外の超パワーにトニーは大苦戦。たった数発で気を失ってしまいます。
f:id:ELEKINGPIT:20220617172609j:imageトニーへ襲いかかるブラッド・ブラザーズ。奇襲攻撃とはいえ、アイアンマンが為す術もなく倒された。

 

ドラックスによると、全ての始まりは土星最大の衛生タイタンから始まったと言います。そこには高度な科学技術を持つ文明が暮らしていました。そんな平和な日々を過ごすタイタンに衝撃が走ります。なんとサノスと呼ばれる人物が武器を製造したのです。何よりも平和を重んじるタイタンにとって武器製造は重罪中の重罪。サノスは国外追放の処分を受け、宇宙を漂うことになりました。しかしサノスは罪を省みるどころか、自らを追放した親兄弟を憎むように。武力と科学力によってあらゆる星々を襲撃し始めたサノスは、やがて巨大な軍隊を持つようになります。一方サノスの行いに涙を流すばかりの親メンターは、遂に神へ訴えかけます。サノスを止めてくれと。哀れなメンターの願いに答えたのは、肉体を超え概念として存在する神クロノスでした。クロノスは魔人サノスを倒すため、新たな生命体を生み出します。それがドラックス・ザ・デストロイヤーだったのです。神の命を受け、サノスと決闘したドラックス。戦いは惑星を1つ破壊するまでエスカレートします。惑星の爆発でダメージを負ったドラックスへ、サノスは容赦ない攻撃を浴びせ続けました。こうしてドラックスは敗れ、捕えられたのです。サノス軍の配下であるブラッド・ブラザーズはトニーを地球基地へ連れ去り、いずれ処刑しようと目論んでいたようです。
f:id:ELEKINGPIT:20220617235300j:imageテレパスで全てを説明するドラックス。宇宙の危機に、アイアンマンは立ち上がることを決意した。

 

隙をついてブラッド・ブラザーズの手から逃れたトニーは、ドラックスの救出に成功。抜群のコンビネーションでブラッド・ブラザーズを倒してしまいます。残るはサノスのみ。嘲笑うかのように現れたサノスへ、2人は最大限の警戒を保ちながら戦闘を開始します。しかし戦いは予想外の方向へ。ドラックスとのコンビネーションでサノスを追い詰め、必殺のリパルサーレイを浴びせるも、驚くべき光景があったのです。なんとそれまでトニー達を嘲笑っていたサノスはロボットでした。ドラックスが捕えられている間、デコイを用意して本人は逃げたのでしょう。ひとまずサノスの地球基地を破壊し、ドラックスは引き続きサノス捜索を始めました。そしてトニーも誓います。再びサノスの脅威が訪れても、何度だって追い返し正義を貫くことを……。
f:id:ELEKINGPIT:20220618002843j:imageサノスの基地を破壊するトニー達。サノスの脅威を1度は跳ね除けた。

 

〈魔人の姿〉

タイタンから産まれた、まるで突然変異のような存在。それがサノスです。悪のカリスマとして現在でもマーベルユニバースの頂点に立ち続けるサノスは、多くの人が尊大で傲慢な姿を思い浮かべるでしょう。しかし本作で描かれたサノスの姿は少し違うようにも思えました。囮用ロボットを使って逃れたり、ドラックスのテレパシーを読んでアイアンマンへ刺客を放ったり……絶望の代名詞というよりもむしろ小賢しい悪党と言った方が相応しいかもしれません。そして当時の大物ヴィラン像がこのような姿であったとも思えません。マンダリンなど、トニーの宿敵は傲慢な野心家として描かれているのですから。では現在の姿と何故このように乖離してしまったのでしょうか?

身も蓋もないことを言ってしまうと、まだサノス像が固まっていなかったのでしょう。巨悪の狂人にするつもりもなく、今作をてがけたライターが徐々に味付けをしていき、果てはインフィニティ・ガントレットのようなサノス像が出来上がったのでしょう。しかしそんなメタ的な視点は省き、あくまで「アイアンマン誌の敵」として考えたいと思います。当時と現在ではアイアンマン像もまた違っています。21世紀のアイアンマンは「未来を目指すテストパイロット」という役割が付与されました。人々が歩む未来を先に進み、危険を排除した上で道を舗装するのです。しかし今作の発売年は1970年代。トニーに科学の先を行く天才という概念はあれど、それが「未来を目指すテストパイロット」のような具体的な役割までは創造されていなかったのです。科学の先を行くヒーローには、地球科学を超えた敵をぶつける必要があると当時の編集部は考えたのではないでしょうか? 次の時代を行く天才には、同じく現代を超えたレベルの敵をぶつけようというわけです。当時のアイアンマンは、アルコール依存症という設定もなかった時代。より強固なアイアンマン像を確立するための時期だったのかもしれません。