アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

MENU

IRON MAN THE INEVITABLE【2023年5月私的ベストアメコミ】

誰でもアーマーを着用できても、アイアンマンになれるのはトニー・スタークだけ、という話は当ブログでも何度も取り上げさせていただきました。ではトニー本人はアイアンマンをどのように捉えているのでしょうか? 本作は新世紀に入りアイアンマンの新たな方向性を決定づけた名作、IRON MAN EXTREMISとリンク内容が多くなっていることも特徴の1つでしょう。新技術エクストリミスを取り入れたトニーは、最新鋭のパワードスーツとアイアンマンをどのように考えているのか? その結論に注目です。
f:id:ELEKINGPIT:20230502175719j:image

邦訳版関連コミック

関連記事elekingpit.hatenablog.com

 

〈あらすじ〉

超人を専門に扱う精神科医、マギー・ディロン博士はある日スターク社を訪問していた。トニー直々にある人物のカウンセリングをして欲しいと依頼があったのだ。そこにいたのは、アーサー・パークス、リビングレーザーだった。

 

〈過去の積み重ね〉

新技術エクストリミスをその見に宿し、アイアンマンとして活動するトニー。仕事にヒーロー活動の両立で毎日を忙しく過ごしていましたが、同時にある研究をスタートしていました。その一環として超人専門の精神科医、マギー・ディロン博士を迎え入れます。ディロン博士はアイアンマンのカウンセリングだと考えていたようですが、通されたのは物々しい巨大な研究室でした。作業服を着た研究者が行き交う部屋の中央には、光る球体のようなものがどっしりと構えていました。トニーはあの球体を相手にカウンセリングして欲しいと言うではありませんか。戸惑うディロン博士。トニーは続けます。かつてアーサー・パークスという人物がいました。リビングレーザーとも呼ばれたその人は、アイアンマンとの戦闘で消滅したと思われていました。しかしその意識、魂のようなものは未だ現世に残っていました。パークスは周囲にあった微粒子や光子に自我をつなぎとめていたのです。目の前にある光る球体は、そんなアーサー・パークスの思念を宿した粒子の塊、言わばリビングレーザーの成れの果てということです。意識ある粒子は、例えばターゲットを追尾するビーム砲のように軍事兵器にいくらでも転用できるでしょう。トニーは新兵器が生まれないようスターク社でリビングレーザーの粒子を事実上独占、研究を行っていたのでした。ディロン博士を迎えたのは、研究の1つとして粒子に残された意識と交信が可能なのか、可能ならば現在の精神状態の把握と再犯しないようカウンセリングして欲しいということでした。
f:id:ELEKINGPIT:20230505165502j:image巨大な研究室を照らす光球。残留意識を宿したリビングレーザーの成れの果てだ。

 

トニーの言う通り、リビングレーザーの粒子は欠片でもあれば既存のあらゆる兵器を圧倒する新兵器を生み出す可能性を秘めています。それを元手に巨万の富を得ることも、世界をひっくり返すことさえ出来るでしょう。スパイマスターはゴーストと結託し、この粒子を手に入れようと画策します。2人はアイアンマンに恨みを持つヴィランです。その怨念を晴らすかのようにリビングレーザーの粒子を奪取しようとしていました。ディロン博士がコンタクトを試みてから数日後、博士は確かな成果を感じていました。特殊な装置でリビングレーザーの心層領域へとアクセスすると、確かにそこには人の意識が眠っていたのです。現段階ではこの意識を知覚出来ただけでコミュニケーションには至っていませんが、仮説段階だった意識の存在を確認できただけでも大きな前進です。あとはコンタクトを取ることが出来れば目的達成。問題があるとすれば、リビングレーザーの精神世界へアクセスする度にディロン博士の脳へダメージを与えてしまうことでしょう。トニーはディロン博士を心配して研究中止まで申し出ますが、ディロン博士も確かな手応えを感じているため辞めるという選択肢は論外。研究は続行となりました。しばらく後、研究室からアラーム音が鳴り響きます。熱感知センサーが異常を知らせる警報を発したのです。どうやらゴーストが能力を使い侵入してきたよう。すぐさまアーマーを起動させるトニー。しかしここからでは到底間に合いません。トニーはアーマーを遠隔操作して対処しようとしました。遠隔操作では従来の力は発揮できませんが、足止めにはなるでしょう。トニーのこの目論見は外れてしまいます。ゴーストは以前よりも強くなっており、アイアンマンを圧倒したのです。そしてそのままリビングレーザーの粒子を強奪しようとしました。
f:id:ELEKINGPIT:20230506023411j:imageゴーストに倒されたアイアンマン。以前とは比べ物にならない強さだ。

奪取されたかに思われたリビングレーザー。しかしゴーストはリビングレーザーの粒子を捉えることが出来なかったようです。研究室は大きな損害を被りましたが、肝心の粒子は無傷でした。トニーはこれを機に研究室とリビングレーザーの装置を大幅にアップグレード。ディロン博士はこれでより深層精神へアクセス出来るようになり、脳へのダメージも無くなりました。早速リビングレーザーへアクセスすると、今度はハッキリと本人の自我が現れます。コミュニケーションが取れるのです。しかしその精神はかなり不安定な様子。ディロン博士は慎重に心を交わそうと近づきます。同刻、再びゴーストの侵入を知らせる警報が作動します。今度はスーツを着用して挑むトニー。両者の戦闘はリビングレーザーの装置にまで影響を与えます。戦闘力では上回っているはずのアイアンマンがゴーストの能力に翻弄されている中、ディロン博士はリビングレーザーの凶暴性を目の当たりにします。ディロン博士を依り代にリビングレーザーは再び実態を得ようとしていたのです。深層精神までアクセスできたということは、リビングレーザーによる逆干渉のリスクも高まるということ。トニーがゴーストを退けた頃にはもう手遅れでした。
f:id:ELEKINGPIT:20230506024554j:imageディロン博士を貫くリビングレーザー。最悪の万が一が実現してしまう。

 

腕の中で永い眠りにつくディロン博士。冷たくなる博士の姿にトニーは計り知れないショックを受けます。コンタクトのリスクをもっと考慮できれば、もっとゴーストを早く倒せていたら、そもそもディロン博士を研究に参加させなければ、そもそもリビングレーザーの粒子の研究なぞ考えなければ……誰かのために始めた研究でディロン博士が死んでしまった。これまでも多くの仲間を失ってきたトニーですが、その度にショックで立ち止まりそうになってしまいます。トニーはディロン博士とも親交があり、同じく超人専門の精神科医、ドクターサムソンの訪問を迎えます。同じくディロン博士の死を悼んでいましたが、それでもトニーを奮起させるためにやってきたのです。もちろんトニーもそれは分かっています。ここで立ち止まるなんてディロン博士も望んでいないでしょう。しかしそれでも、全身を包むアーマーも肉体の内部を覆うエクストリミスも、今はやけに重く感じるのでした。それがアイアンマンだとトニーは思い返します。この痛みも重さも悲しみも怒りも全て潤滑油にしてきたではないか。今まで通りこの感情をオイルに飛び立てばいいではないか。トニーは立ち上がります。ゴーストと結託していたスパイマスターの居場所を特定し、最終決戦に挑むのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230506030518j:imageドクターサムソンに自身とアイアンマンについて問われるトニー。ずっと分かっていた答えを改めて口に出し、トニーは未来のため戦う。

 

〈失敗の山〉

ディロン博士を失い深い悲しみに包まれたトニー。1度は完全に立ち上がれなくなりますが、ドクターサムソンとのカウンセリングで再び奮起しました。そのきっかけとなったのが、トニーのアイアンマン観です。トニーはアイアンマンをどう考えているのか? トニー・スタークは未来です。誰もが豊かさと幸福を得られる理想の未来を築き上げるのが使命です。ならばアイアンマンは? トニーは失敗の象徴だと答えました。トニーは過去何度も失敗を続けてきました。お酒の失敗だけでなく、アーマーウォーズのように暴走してしまったことも。トニーの歴史は失敗と成長の繰り返しなのです。そしてそれを象徴しているのがアイアンマンなのです。アイアンマンは多くの失敗をトニーと共に過ごしてきました。何より誕生した時からインセン教授と脱出するという作戦に失敗しています。技術の進化には失敗はつきものです。ですがそれはあくまで「技術」の話。背後にいる誰かを守るにはアイアンマンに失敗は許されません。1度でも失敗してしまえば、インセン教授や今回のディロン博士のように罪もない人々の命が奪われてしまうでしょう。しかしトニーは何度も失敗してきました。アイアンマンはそんな死んでいった誰かのため、贖罪の象徴となったのです。トニーは自らのヒーローの姿を重すぎる十字架として捉えているのでした。