アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN & CAPTAIN AMERICA ANNUAL 1998

アイアンマンとキャプテン・アメリカには不断の絆があるというエピソードは何度も紹介させて頂きました。信頼し合っているからこそ最高の仲間となり、信頼しあっているからこそ互いの信念を全力でぶつけあうのです。しかしそれは、決して一朝一夕で築かれたものではありません。今作はそんな2人の絆が育まれる過程が垣間見得る1作と言えるでしょう。誰もが認める黄金コンビはどのように絆を深めたのでしょうか? その一端を楽しみましょう。
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〈あらすじ〉

カリブ海の小島でAIMと戦う2人のアベンジャーズがいた。アイアンマンとキャプテン・アメリカだ。しかし2人はどこか険悪な様子? 今や2人の双肩に託された人類の存亡はどうなってしまうのか?

 

〈命懸けの信念〉

ある日のこと、キャップは極めて危険な野望を阻止するためにAIMと戦っていました。なんと人類60億人の思考を盗み、洗脳しようとしていたのです。強力なテレパシーの使い手であるメンタロを仲間に引き入れ、装置で限界以上に能力を引き上げ、残るは能力を発動させるのみ……まさにギリギリの状態でキャップは戦っていました。当初はキャップの思考を読み取り、AIM兵を操り先の先を行く攻撃で動きを封じていました。しかしキャップの動きは操ったAIM兵では抑えきれません。そこでメンタロは自らの能力を発動、人類とキャップの思考を奪うことで強制的に勝とうとしたのです。メンタロに触れることも出来ず、キャップの敗北は決定的なものに。その時です。メンタロにとって最も計算外な出来事が起きていました。60億人全てが直撃したはずの思考破壊念波が効かなかった人物がいたのです。それがトニー・スタークでした。アーマーのサイキック・シールドのおかげで思考破壊念波の影響を受けなかったトニーは、吸い込まれるように精神世界へと誘われました。メンタロは精神世界の王者ですが、トニーの登場に動揺を隠せません。一方、トニーは精神世界ならば自分の想像した通りのことが出来ると推測。目論見通り、精神世界上でアーマーを装着すると瞬く間にメンタロを倒してしまいました。この瞬間、トニーの脳内に60億人の思考が流れ込みます。メンタロはAIMの装置で自身の能力を大幅に拡張しており、トニーもその影響を受けたのでしょう。今なら恐らく万人の精神を好きにできるはず。そこでトニーはアイアンマンの正体を知るヴィランの精神を操作、記憶を改変しました。一方事件終了後、信頼出来るアベンジャーズにのみアイアンマンの正体を明かすのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20220805223402j:imageアベンジャーズに正体を明かしたトニー。多くのメンバーが改めてアイアンマンを歓迎する中、キャップだけは違った。

 

メンタロを倒した経緯を聞くと、キャップは顔色を変えていました。ヴィランに施した記憶改変。それまでの功績は讃えても、それだけは納得していないようです。内心の自由の侵害になりかねない行為では? 一方トニーは、キャップの指摘に「仲間の命が狙われる危険がなくなった」と主張。正体を明かすことで信頼する仲間が殺されるリスクは多くのヒーローが知るところでしょう。両者の話し合いは平行線を辿る中、異常なサイキックフォースを感知した警報がけたたましく鳴り響きます。サイキックフォースの発信元はカリブ海のとある小島。メンタロのそれと酷似しています。どうやらメンタロ逮捕後もAIMは思考破壊念波の実験を諦めていないようです。すぐに出動できるのはキャップとトニーの2人のみ。今は互いに矛を収め、協力し合わねばなりません。すぐさまAIMの基地へ向かった2人は、あっという間に小勢を撃退し島の奥に進みます。気まずい空気を押し殺して発信源に近づくと、そこに広がるのは予想外の光景でした。AIMは見る影もなく、代わりに奇妙な町が佇んでいたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20220806233242j:image2人が目撃したのは、人類の理想が体現された夢幻郷ゼニスシティ。差別も偏見もない完璧な世界である。

 

性別も肌の色も人種も関係ない、全ての人々が完璧な平等を享受する世界。ゼニスシティを案内する住民は自らの町をそう紹介していました。かつてスターク社で働いていたカッシング博士は「Gエンジニアリング・プロジェクト」と呼ばれる計画を始動していました。成功すれば肉体も精神も変容し、どんな病も治す魔法のようなシロモノ。しかしトニーは「あるリスク」を危惧して計画を中心させました。これに激怒したカッシング博士は会社を辞め、自らの手でスポンサーを探し町1つを実験場としたのです。それがゼニスシティでした。ゼニスシティの尖塔から放たれる光線を浴びれば肉体も精神も完璧な状態となるのです。しかし不幸は足音を忍ばせて近寄ります。カッシング博士の出資にダミー会社を経由してAIMが名乗りを上げていたのです。実験の成功と見るや町はAIMに占領されてしまいます。カッシング博士は殺され、住民は事実上AIMの支配下に。先のメンタロの能力拡張装置にはゼニスシティの住民も使われていました。逃げようにも尖塔から光線を放たれ、そのような思考にすら至りません。今思えば2人をゼニスシティへと招き入れたことも罠だったのでしょう。監視カメラで2人のアベンジャーズが入村してきたことを知ったM.O.D.O.K.はすぐさま行動を起こします。尖塔から光線を放ち、住民を洗脳状態に。そして精神波をM.O.D.O.K.に吸収させたのです。そんなことをしては心が壊され、住民が死んでしまうかもしれないというのに。
f:id:ELEKINGPIT:20220806235821j:imageゼニスシティの精神を糧としてより強くなったM.O.D.O.K.の姿。人の心を礎に得た力は怒りに燃えるアベンジャーズをも圧倒した。

 

M.O.D.O.K.の暴走によって最早免れられなくなったゼニスシティの壊滅。何より、全住民の死が確定的となってしまいました。せめてこれをどうにかするためトニーは駆けますが、ここで危惧していたリスクが健在なことも発覚します。1度光線を浴びてしまえば2度と元には戻らないのです。人格改造すら出来てしまうこの装置が不可逆的な影響を人々に与えてしまうリスク。トニーは正にこの状況を恐れて実験を中止させたのです。今すぐこのリスクを取り除かねば町が1つ滅ぶも同然。慎重に、焦らず、しかし急いで作業する必要があります。しかしトニーは戦いの傷が原因で作業を続けるのが困難な状態です。残るはキャップが行わねばなりません。ここでゼニスシティのジェイソンは、自分達を殺すよう懇願し始めました。1度「完璧」を味わった以上、元の姿に戻ったところでどうなる? この町の住民は元々みんな何かしらの疾患を抱えたいた人々。元に戻れば、より自分たちの惨めさを知るのみです。ならばいっそ殺してくれ。トニーはその願いすら予測していました。装置をシャットダウンするスイッチを用意していたのです。あとはキャップが実行するだけ。元の人間になるくらいなら死んだ方がマシだ、殺してくれ。魂が轟くような叫びに、キャップは無言で応えました。
f:id:ELEKINGPIT:20220807001547j:imageキャップらに死を懇願するジェイソン。これは住民の総意だと、それこそが最大の慈悲だと説く。

 

〈信念の槍を抱えて〉

今作でキャップとトニーは、互いの考えは理解できないまでも、それぞれを尊重し和解するというラストを迎えました。言ってしまえばよくある結末。しかし、後のシビルウォーでは互いの信念故に衝突してしまった2人が描かれています。まるで今作とは正反対の方向のよう。一方でシビルウォーとの共通点も多く、後に争う運命を知る私としてはどうしても繋げて考えてしまう部分も。シビルウォー以前の作品ではありますが、もしかしたらここにシビルウォーを回避する手立てがあったのでは? と考えざるを得ません。では、今作とシビルウォーの2人では何が違ったのでしょうか?

結論から言ってしまうと、互いの理解度ではないかと考えています。トニーはともかくキャップは初めてアイアンマンの正体を知り、それまで築いた信頼がややぐらついてしまいました。またトニーも自信満々だった策を内心の自由の侵害と否定され、やがて自らの触れられたくない過去にまで言及されてしまいます。自分こそが正しいと信じ、相手の意見を尊重するという余裕がなかったと言えるでしょう。だからこそ終盤の展開で互いを理解できないまでも尊重するという選択肢が生まれたのです。トニーは自由について改めて再考し、キャップはトニーが常に究極の選択を迫られていることに思いを馳せます。理解できないと言いつつ、互いの立場に歩み寄り理解しようとしているのです。ではシビルウォーはどうでしょう? 開戦する前からキャップと対立することを予測していたトニー。開戦直後からトニーの立場を理解し、なおも本当の気持ちを確信していたキャップ。以心伝心という言葉では片付けられないほどです。互いを真に信頼していなければできない芸当。これが何よりの証左でしょう。相手を知っているからこそ考えを変えることも、また争うしかないことも理解していたはず。互いを理解し確信し、尊重し合うからこその結果なのです。現在でもシビルウォーのようなことが起きたとして、2人は同じような行動を取ったと考えられます。互いの信頼関係が足りなかったからこそ今作のように争い、信頼関係が誰よりも深いとシビルウォーのように争い合うこともまた確かなのです。