アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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TALES OF SUSPENSE #39

今回紹介するのは、アイアンマンの初登場回にしてそのオリジンを描いたTALES OF SUSPENSE第39話です。アイアンマンを語る上で欠かせない本作。MCUのアイアンマン1やコミックで何度も描き直され、何となくあらすじは知っているという方も多いのではないでしょうか? しかしそれではもったいない。何せリメイクにはない本作だけの魅力というものがあるのですから。改めて第1話を読むことで、トニー・スタークという人間を見つめ直す機会にもなるでしょう。
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※なお、今回は紙の書籍から画像を引用させていただきます。見えにくい等ありましたらコメントで教えていただけると幸いです。

 

〈あらすじ〉

時は戦争の最中。天才発明家にして大富豪のアンソニー・スタークは、新兵器テストのためにベトナムの密林へ足を踏み入れていた。しかしそこで待っていたのは敵国のゲリラとブービートラップだった。自分たちだけの新兵器を作れと命令するゲリラに、瀕死のスタークは人生最大の賭けを行った!

 

〈鋼鉄の戦士〉

天才発明家のアンソニー・スタークは、日夜米軍の注文に答え様々な兵器を作り上げていました。また上層部すら不可能と言わしめた実験も成功させ、その天才ぶりを発揮。果ては小さな機械から超強力な磁力を発するトランジスターの開発に成功させていました。一方で大富豪としても知られ、ハンサムな顔とあわせ多くの異性にも言い寄られるほど。正にアメリカ中の憧れの的です。常に浮かべるチャーミングな笑みから、本人にとってもどれほど充実していたかがうかがえます。しかしそんな日々は一瞬にして終わりを告げました。それはある日のこと。研究施設で完成させたトランジスターをテストするためアンソニーベトナムを訪れていました。多くの兵士が護衛につき密林を進む一行。しかしそこは、ゲリラの通り道でもありました。仕掛けられたブービートラップにハマった一同は、アンソニーを残し全滅してしまいます。そして唯一の生き残りであるアンソニーもまたゲリラに捕らえられてしまいました。
f:id:ELEKINGPIT:20221028135346j:image大怪我を負い倒れ伏すアンソニーへ近寄るゲリラ。運命の針が大きく動き出した。

 

ゲリラの診断によると、アンソニーの身体はブービートラップの時に使った地雷の破片が心臓近くに突き刺さっており、1週間ほどで死んでしまうことが判明しました。ならば残りの人生全てを我々のために使わせるべきでは? リーダーのウォン・チューは、目覚めたアンソニーへ「我々のための新兵器を作れば外科手術をし開放する」と嘘をつき、兵器開発を強要します。これはアンソニーにとってチャンスです。外科手術云々の話は嘘だと思われますが、脱出用の道具を期限内に用意さえ出来ればいいのですから。2日目にして秘密の設計図を完成させたアンソニー。そんな時でした。新たに兵器開発のため1人連れてこられたのです。天才物理学者としてアンソニーも一目置くインセン教授でした。長らく行方不明となっており死亡したと思われていたインセン教授。実はゲリラに捕まり、強制労働に従事していました。しかし己の信念に反する行動に耐えきれず遂に反発。アンソニーの元へ連れ込まれたのでした。アンソニーは早速秘密の設計図を見せ、協力を取り付けます。まずは米軍の研究施設で披露したトランジスターの再現に成功し、いよいよパーツの制作へ。寿命という最大のカウントダウンが迫る中、工程は遂に最終段階へと差し掛かっていました。残るアンソニーの寿命もあとわずか。しかしここでゲリラのリーダー、ウォン・チューが兵器開発の様子を見にやって来ました。このままでは2人とも殺されかねない。インセン老人は全ての希望をアンソニーへ託し、自らの命を使って時間稼ぎを始めます。鳴り響く銃声、怒号、悲鳴。静まり返るゲリラ基地。動き出す鋼鉄の塊。そこに立っていたのは、鋼鉄の装甲に覆われた人間でした。ヘルメットの下のアンソニーはどのような表情をしていたのかは想像するしかありません。
f:id:ELEKINGPIT:20221029022020j:imageインセン教授の鼓動が止まった瞬間、起動を開始する鋼の装甲。哀しみと怒りが堅牢な鎧を動かす。

 

瞬く間に戦闘員を倒した鉄の人間に、ウォン・チューは驚きを隠せません。米軍をも翻弄するはずの兵士がまるで枝のようになぎ払われているのですから。高値の賞金を鉄人間にかけますが、それでも構成員はすっかり恐れてしまい誰も挑もうとしません。どうやら鉄人間はこちらを狙っている様子。ならば武術の達人で最強を自負するウォン・チュー自らが相手をするまでです。勇猛果敢に挑みかかりますが、鉄人間はビクともしません。一方でアンソニーも内心焦っていました。早くもバッテリーが切れてしまったのです。残り少ないエネルギーで逃げ去ろうと走るウォン・チューを倒さねばなりません。アンソニーは各部の関節に使われている潤滑油をあえて地面に垂らし始めます。そして火炎放射器で火をつけ、基地全体をあっという間に爆破させたのです。これだけの規模の攻撃、ウォン・チューにはひとたまりもなかったはず。アンソニーはついに憎きゲリラから脱出することに成功したのです。基地の残骸から上がる白煙を焼香に、アンソニーは1人インセン教授の死を悼むのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20221029024102j:image白煙を焼香にウォンチューらを倒したとインセンへ報告するアンソニー。その代償にあまりに重すぎる十字架を背負った。

 

〈人か機械か〉

アイアンマン誕生回として現在も語り継がれる本作。後の作品との比較でその時々にあわせた作品評価が幾度となくなされてきたことでしょう。しかしそれではやはり勿体なく感じてしまいます。アイアンマンの歴史を踏まえてでは無く、本作だけでも「アイアンマン」は描かれているのですから。後の作品について一切考えず、本作だけで描かれた「アイアンマン」像とはなんなのでしょうか?

戦闘員をなぎ倒すアイアンマンを見たウォン・チューは、恐ろしさのあまり「人間ではない」と言い放ってしまいました。機械か人かも分からないと。また心臓近くに刺さった地雷の破片は、アイアンマンのチェストプレート(胸部装甲)によって無理やり話されているに過ぎず、破片を取り除かない限り一生チェストプレートが手放せない体となってしまいました。両者ともアイアンマンを、人ではないと断定したのです。敢えて言うなら「鉄人間」でしょうか? 決して悪を倒して正義を貫くヒーローとして描かれてはいませんでした。またアイアンマンはインセン教授の死と同時に完成したもの。アイアンマンはインセン教授の命という重すぎる十字架を背負った状態で誕生したのでした。2つの事実の共通点は、アンソニーがそれを望んだわけでないことでしょう。助かるために仕方なくやった事とはいえ、二度と脱げないチェストプレートやインセン教授の犠牲は望んですらいませんでした。望まずなってしまい、元に戻ることも叶わない。アイアンマンとは悲劇の象徴なのです。