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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN INVINCIBLE ORIGINS【2024年1月私的ベストアメコミ】

時代に合わせ何度でもリメイクされるアイアンマンのオリジン。全て同じストーリーを骨組みに、様々なエッセンスを加え独自の解釈を盛り込んできました。今作もそんな数あるアイアンマンのオリジンを描いた1作です。今作が加えたエッセンスは、当然それまでにない新たな味付けとなっています。今作だけが醸し出す新たな「アイアンマンのオリジン」とは? 何度でもアレンジされるオリジンに舌鼓を打つのもまた、この広大すぎる物語の楽しみ方でしょう。
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〈あらすじ〉

設立されたばかりのSHIELDで、トニーは新兵器開発に勤しんでいた。しかし現地テストのために赴いたシャルディスタンで、トニーらは神の代理人を名乗るテロリストに襲撃される。それは、別離した懐かしき友との因縁が始まる合図だった。

 

〈酔いどれ〉

SHIELDのデントン・バーチ長官は、新兵器の完成を心待ちにしていました。テロの多発するシャルディスタンでの運用は、鬱陶しいトニー・スタークがしばらく不在になることも相まって肩の荷が1つ降りたよう。当のトニーも新兵器の完成に期待を寄せている様子。実地テストのため、ベースキャンプ設営から立ち会うほどでした。銃声が鳴り響いたのはそんな時です。テロリストが襲撃してきたのです。応戦するSHIELD隊員。しかし地雷を直接投げ入れるなどの戦法にSHIELD隊員は瞬く間に全滅してしまいました。自身も拳銃で応戦していたトニーですが、拘束され、気がついた時には無機質な鉄格子の中でした。見張りは1人。胸を踏んずけ見下すような視線を投げる人物です。見張りはトニーを引っ張り、ガラクタばかりが散らかった無機質な机の目立つ部屋へ通します。部屋には老人が1人待っていました。ここで新兵器を作ること。それがテロリストの要求です。死ぬまでここで働かされるであろうことは誰の目にも明らか。特にトニーの寿命はあと僅かでした。爆弾の破片が心臓近くに突き刺さっており、体を動かす度に心臓へジリジリと近づくのです。それも激痛を伴って。インセンと呼ばれる老人は延命措置を施したと言いますが、それでも余命は持って1週間。トニーは絶望します。それでは何が出来るのでしょうか? それでもインセンは諦めていません。世界でも随一の技術力を持つトニーと自身の力を合わせれば、心臓の破片はもちろん脱出する手建てを何とか作り出すことが出来るかもしれないのです。インセンの力強い言葉にトニーも奮起します。トニーの延命と脱出のための手段。2つを同時に達成する秘策が2人にはありました。強力な発電装置を起点に鎧を組み上げ、心臓の破片は電磁石で固定させれば良いのです。大本となる発電装置と電磁石を真っ先に完成させた2人。予想通りトニーの激痛は除去されました。あとは鎧を作り脱出するのみ。鎧作りを始めてしばらく、無機質ながら活気づきつつある部屋へ足を踏み入れたのは、テロリスト達でした。ここでバレたら全てが終わる。そう思ったのも束の間でした。2人が新兵器開発をしていないことを知ったテロリストらは容赦なく銃を乱射。咄嗟に身を隠したトニーは、インセンが倒れ伏していく様を見ていました。インセンの遺作、鎧の出番は今しかありません。トニーは反射的に鎧を装着しテロリストらの前に立っていました。それから先はあっという間の出来事として、生涯トニーの脳裏に刻まれるのでしょう。火炎放射器を主とした火器で敵を薙ぎ払い、建物に火をつけ、辺りが焦土と化すまでトニーは止まりませんでした。焼け残った瓦礫から、火傷ひとつないインセンの遺体を見つけ出したトニー。黙々と簡素の墓を立て、その場からそっと立ち去るのでした。
f:id:ELEKINGPIT:20240101201041j:image辺りに火をつけ敵を壊滅させたトニー。焼け残ったのは、胸を突くような虚しさばかりだった。

 

数刻後。自身も全身に大火傷を負いながら何とか生還し、仲間たちに救助されていました。安堵などする余裕はありません。面影さえ残らないほど焼け爛れた肌、使えなくなった四肢、これは神が与えた最大の試練に違いない。燃え残った体に火がつきそうなほど全身が怒りで震え、やがてそれは今後の人生を決定づける使命感へと変わります。イマム・クーリは神罰の代行人としてトニー・スタークへ鉄槌を下す覚悟を決めました。一方トニーは、今にも倒れそうな体を引きずって近くの村までたどり着いていました。言葉は通じないものの、村民と言外のコミュニケーションで親交を深めるトニー。しかし心臓の破片を固定させる電磁石のついたチェストプレートだけは決して取り外せないと気付いた時、何よりも孤独にうなされるのでした。その時でした。大量の戦車が村を囲みます。壊滅させたはずのテロリストの残党が襲撃してきたのです。目的はトニーの命ただ1つ。急ぎパワードスーツを装着し、砲口の前に立ちます。この後の戦闘を振り返ったトニーは、「力に酔っていた」と表現していました。砲弾を避け、戦車のハッチを引き剥がし戦車部隊を蹂躙する力に泥酔していたのです。かつてあれほど自分を苦しめたテロリストを圧倒したトニー。孤独という代償を支払い、代わりに人類史上類を見ない超パワーを手に入れたのです。当然ハルクのように理性を失うこともありません。テロリストを撃退したトニーは、偶然近くに居た軍人ジム・ローズの手を借りてアメリカ本国へ帰還します。既に死亡したと思われていたトニーの帰還に、ペッパーもバーチ長官も驚きをもって迎えます。こうして少しづつ、チェストプレート以外は元の生活に戻る日々。しかしそれを一瞬で破壊される出来事が起きます。轟音と共にビルが崩れ落ちる音がしました。犯人はビルの残骸の上に立ち、自らをイマム・クーリと名乗ります。トニーはその名に聞き覚えがありました。そして本国でアップグレードしたパワードスーツを装着し、戦う覚悟を決めます。
f:id:ELEKINGPIT:20240107014259j:imageクーリと対決するトニー。空を飛び手からリパルサーブラストを放つ様は、まるでトニーが着用しているパワードスーツのよう。

 

戦いは両者痛み分けで終わりました。トニーのパワードスーツと同じリパルサーが使われ、戦車部隊だって一掃できそうなパワーを持つ敵。火傷跡が目立つあの顔は間違いなくイマム・クーリでした。クーリは大学時代、トニーと親交を築いた人物です。当時から熱心に神へ跪いていた姿をトニーは今でも覚えています。その後クーリはテロ組織に参加、トニーが基地を壊滅させた現場にも居合わせました。全身を焼かれ瀕死だったクーリは部下から助け出され、トニーのパワードスーツをヒントに自らを改造したのです。復讐を誓うその姿は狂信者そのもの。しかしトニーには、かつての友人を手にかける覚悟がまだありませんでした。酒に逃げる時間は日毎に増し、酩酊しても焼けた親友の顔が頭から離れません。1週間の時が過ぎました。アメリカを再びクーリが襲います。窓辺に写るのは日に照らされ、地上に向けて光線を放つクーリーの姿。選択肢は2つに1つでした。ここで逃げるか、それとも戦うか。考えるまでもありません。トニーにとって答えは1つです。あっという間にパワードスーツを装着し終えると、かつての友人の暴挙を止めるため、再び空へ駆け出していました。空中で繰り出される攻防は互角。軍もマスコミも米国民もただ見守ることしか出来ません。咄嗟に組み立てられる数え切れないほどの戦術とその選択、かつての友へ拳を向ける覚悟、どれをとっても決着はつきません。
f:id:ELEKINGPIT:20240109073644j:image互角の戦いを繰り広げる2人。アメリカは新たな驚異とヒーローの誕生を目の当たりにする。

 

〈弱さゆえ〉

元々あったオリジンから更なる要素を追加し、新たな物語として再構成した本作。オリジンを思い出すだけでなく、新鮮なハラハラとワクワクを送り出した快作と言えるでしょう。そんな本作に与えられたテーマは、「依存」と「脱却」だと私は考えています。パワードスーツを着用したトニーは、後に自らを「酩酊状態だった」と回想していました。常人離れのパワーに酔っていたのです。またクーリと敵対したトニーは酒の量が増え、アルコール依存症を発症しています。力に酔い、酒を頼り、その姿を見ていると「弱い犬ほどよく吠える」なんて言葉が思い浮かんでしまいます。トニーはまるで自らの弱さから逃げて取り繕おうとしていたようです。それもそのはず。テロリストに捕らえられインセンを目の前で亡くし、それまで思いつくものは全て手に入れた大富豪が何も出来なかったのです。この上なく己の無力さを痛感したことでしょう。だからこそ俗物的な物に頼ってでも自らを強く立たせようとしたのでしょう。しかし、トニーは最後にその「強さ」を捨てます。逃げたことも出来たのにクーリに立ち向かい、最後には顔と名前を公表した上でアルコール依存症であることを告白します。己をさらけ出すことがどれ程勇気のいる行動か、皆さんならきっと分かることでしょう。隠し事を打ち明けるような、逃げたくなるようなミスを報告するような、大小問わずその行動は緊張を伴うことがほとんどのはず。トニーはその勇気を今作を通して身につけたのです。それが今後どれほどトニーを強くするか、皆さんならきっと分かることでしょう。