アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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EDEN

今回はMARVELから少し離れて、コミクソロジーオリジナル作品を読んでみたいと思います。スーパーヒーローが注目されがちなアメリカン・コミックスですが、当然それ以外のジャンルも発展しています。ヒーローコミックだけでなく、いつもとは違う「アメコミ」に舌鼓を打ってみるとまた大きな世界が広がることでしょう。
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Eden

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〈あらすじ〉

上院議員のアンナと州長官のベンは、誰もが羨む理想的なパートナーとして支持されていた。ところがある日、5歳の息子を殺した罪で25年の終身刑を言い渡されてしまう。しかし目が覚めるとそこには廃墟と大木の跨る楽園が広がっていた。

 

〈模範的な人間へ〉

上院議員のアンナは、あらゆる人々の平等を掲げ多くの人々から支持されていました。一方州長官のベンも実直な性格から信頼を集めています。正に理想のパートナーでしょう。そんな2人に舞い込んだのは、あまりに悲劇的な話でした。わずか5歳の息子ジャコブが殺されたというのです。割れた窓ガラス、見覚えのない足跡、遠く離れた場所で見つかった遺体。何者かが殺したのは明らかでしょう。このセンセーショナルな事件は全米の注目を集めました。ところが捜査が進むにつれ、真犯人こそがこの夫婦では? という疑惑が浮上。無実の主張は退けられ、遂には冷凍禁錮25年の実刑判決が言い渡されてしまいます。冷凍禁錮刑とは、囚人を冷凍させて言い渡された禁錮刑の年数を過ごさせる刑罰です。これにより、脱獄の可能性は無くなり囚人の管理も非常に簡潔となりました。ところがそれは囚人の人権を守っているのか? と議論を呼び起こしており、皮肉にもアンナは反対の立場をとっていました。無実の罪で冷凍される。アンナは外の世界をじっと見つめていました。仰々しい施設にはパートナーのベンの他に、3人の囚人が連行されたようです。目を閉じてじっと冷凍される瞬間を待つアンナ。どれほどの時が経ったのでしょうか。解答されたアンナは警報音で目を覚まします。他の囚人も戸惑いながら目を覚ましている様子。アンナ達5人は、半ばパニックになりながら誰もいない刑務所の外へ出ます。そこには驚くべき光景が待っていました。
f:id:ELEKINGPIT:20230208095309j:imageどこまでも伸びる大木、透き通った池。まるで違う世界のような景色に言葉を失うしか無かった。

 

これは誰かの夢? それとも何かとんでもないことが起こっている? 確かめるには進むしかありません。得体は知れませんが、木の実はそこらに生えているため餓死することはないでしょう。時々見たことも無い生物に襲われながら、道無き道を工夫して進み続けてしばらくすると、廃墟の町を発見しました。草木に埋もれながらもかつて人が住んでいた痕跡はハッキリと残っています。缶詰などの食料も残っており、安全な食料の確保も出来ました。そうして探索を続けていると、ベンはあるものを見つけ出します。カレンダーです。ところどころ読み取れない部分もありますが、これでアンナは確信します。私達は数百年あるいは数千年、装置の誤作動で冷凍され続けた。そして今、この世界は何らかの原因で人類がいなくなったのだと。まるでB級映画のような推理に信じられないと声をあげる者もいました。しかしこの状況を最も的確に表していることも間違いありません。これ以上探索を続けても、このSFのような推理が確固たるものとなるだけでしょう。こうなれば、最後の人類として生き抜く他ありません。冷凍装置の誤作動ならば、恐らく収容施設には自分たち以外にも多くの囚人がいるはず。殺人、強姦、放火、かつての社会では極悪人だった囚人を解放するのはそれだけで危険ですが、新たな社会を形成するには手段を選んでいる場合ではありません。
f:id:ELEKINGPIT:20230208115601j:image開放される極悪人集団。アンナ達は、元重罪人らと社会を作っていくしかない。

 

予想通り暴れる者もいました。無理やり食料を奪う者、暴力を振るう者、秩序からは程遠い行動にベンもお手上げ状態です。しかしアンナは懸命に現在の状況を伝え、生き残るには秩序と協力しかないと訴えます。息子を亡くすまでは多くの国民から指示を集めていたアンナ。その演説と説得力はここでも活かされます。囚人達は蔦にまみれた廃墟から新たな社会を作り生きていくと誓い合ったのです。時に恐竜のようなモンスターから襲われ、メンバーが減ることもありました。しかし危険が増えれば絆も太くなるもの。一丸となって作られた新たな文明社会は、良識と絆によって成り立ちました。ところがそれを断ち切ろうとする事実が新たに発覚します。なんとアンナ達の息子ジャコブを殺した犯人がこの中にいると分かったのです。かけがえのない宝物を奪った人物がいる。ならば制裁を加えるべきだ。ベンはアンナへそう訴えます。しかし今の世界はかつての秩序とは違うもので成り立っているとしてアンナは却下。確かにジャコブを殺した犯人は絶対に許されません。しかしここにいる人物はほとんどが同じように誰かを殺し、誰かを傷つけ、誰かの尊厳を踏みにじりました。ジャコブ殺人犯だけ特別に罰を与えるのは道理に適わないというのです。理屈ではそうかもしれない。しかしそれでは納得出来ない。ベンはアンナの声を振り切り、犯人を追うことにします。やがて囚人に唆され、覚悟と共に行動を始めます。そして仲間たちを扇動し、暴動を起こしてでも殺人犯を殺すことにしたのです。絆と良識の世界は、ジャコブ殺人犯を巡って二分されたのです。武器を携え再び現れたベンへ、アンナはあくまで冷静です。それでも拳を降ろさないベン。アンナはじっとベンを見つめ、観念したように真実を話し始めます。ジャコブを殺したのは自分だと。 f:id:ELEKINGPIT:20230208121658j:image私がジャコブを殺した1人。ベンも知らない、始まりの事件の真相が静かに語られる。

 

ベンがジャコブの死を知る数時間前。アンナはパニックに陥っていました。自宅のプールでジャコブが浮かんでいたのです。発見した時には既に息を引き取っていました。最初にアンナが相談したのは、自身の支援者でした。支援者の1人は言います。これは恐るべきスキャンダルだ。もし警察に通報し世間に公表しようものなら、票を争うライバルたちがこれを非難しないはずがない。心の傷を抉られながら落選するのはアンナとしても望まないでしょう。涙を流しながら、未だ冷静な判断が出来ないアンナは支援者の言葉に頷いてしまいました。割れた窓ガラス、見覚えのない足跡、遠く離れた場所で見つかった遺体。これらは全て偽装工作だったのです。愕然とするベン。それでも悲劇は止まりません。割り込むように現れた巨大生物が、瞬く間にアンナを踏み潰したのです。一瞬の出来事にベンは戸惑うばかりでした。真実を理解する前に、真実を知る唯一の人間が無惨にも死んでしまったのですから。一方アンナは少し安心したようでした。遠のく意識の中、思い浮かぶのは微笑ましい家族の情景。ずっと抱えていた罪悪感をようやく降ろし、走馬灯のように幸福な日常を思い返します。
f:id:ELEKINGPIT:20230210011923j:image無慈悲な死を迎えるアンナ。その心は誰よりまた澄み渡っていた。

 

ここはあの世なのでしょうか。それにしては随分と殺風景な天井です。アンナが目を覚ましたのは、刑務所の中でした。傍らにいるのは同じく受刑者だった人物。戸惑うアンナにその人は飄々とした態度で答えます。アンナはテスト段階にあるVR「エデン」を体験していたのだと。冷凍禁錮刑は脱走の心配が無いなどのメリットはありましたが、受刑者に更生の機会がないという致命的なデメリットを抱えていました。そこで開発されたのが、「架空の現実」を作り出す「エデンシステム」です。受刑者をVRに没入させ、その世界での生き方を観察、正直さと誠実さを示したと判断されれば釈放となるのです。これにより冷凍禁錮刑と同様のメリットを持ちながら更生の機会も充分確保されたはず。アンナ達は最終テストに参加させられていました。そしてアンナが真実を告白したため、釈放を決定したのです。またアンナのようにエデン内での自供を元に事件を再捜査することも可能でしょう。アンナは再びこの世界を生きることを許されたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230210230620j:image全ての真相を知ったアンナ。これから先どう生きるかは全て自分次第だ。

 

〈楽園追放〉

誠実さと正直さを示し、釈放されたアンナ。このエデンシステムは受刑者にとっても収容所にとっても双方に大きな利点があるように思えます。しかしそれだけではありません。受刑者と収容所の間に広大な上下関係を生んでしまうのです。今回なエデンシステムのデメリットを考えたいと思います。

たとえ犯罪を犯してしまったとしても、裁判では慎重な審理の元にそれ相応の刑罰が求められるのは当然のことです。ではエデンシステムはどうでしょうか? エデンにいる期間も、そこでの過酷な生活も全て受刑者に委ねられます。これは果たして「相応の刑罰」と言えるのでしょうか? アンナ達は「重罪人」だからこそエデンシステムのテストに選ばれました。しかしアンナ以外の重罪人は本来禁錮刑の時間も異なったはず。また、釈放の基準は受刑者を監視している数人が決定します。これでは更生したかどうか非常に主観的になってしまい、いずれ破綻することは目に見えているでしょう。エデンシステムは決して相応の刑罰を与えられているとは言えないのです。